10-19.ミラクルフォースと写真撮影
ミラクルシャークは強いが敵も多いため、次第に劣勢になっていく。取り囲まれて、四方から蹴られてしまっていた。
客席から、ミラクルシャーク頑張れの声が次々に上がる。そして。
『僕も戦うウサー!』
大きくなったモッフィーが敵に体当たりを敢行。包囲網から抜け出したミラクルシャークは反撃に出る。
「モッフィーすごいね。モフモフだし強いんだよね! それにモフモフなんだよね!」
「ああ。そうだね」
「でも、ラフィオもモフモフだし大きいし強いよね!」
「うん。そう言ってくれて嬉しい」
「帰ったらモフモフさせて!」
「帰ったらな」
ちびっ子たちもショーを楽しんでいるみたいでなによりだ。
敵を倒してショーが終わった後、ミラクルシャークとモッフィーが子供たちと一緒にダンスを踊ったり、写真撮影をする時間となった。
憧れのヒロインと写真を撮りたいという子供たちが列を作っている。
さすがに俺たちみたいな年長者は子供たちに楽しむ機会を譲り、その姿を優しく見守るべきだと思ってたのだけど。
「悠馬! 写真撮影しにいこ!」
「おい!」
「わたしだってミラクルシャークと写真撮りたい!」
「子供に譲るべきだとは……大人も結構並んでるな」
小さな子供の親とかではない。デート中のカップルとかも普通に混ざっていた。
あと、ラフィオとつむぎも当然のように並んでいた。
「よしわたしたちも! 悠馬行こ!」
「はいはい。わかったから」
「おい! オレだけ置いていくなよ」
「もー。仕方ないなアユムちゃんも一緒に写真撮ろ!」
結局、三人揃って並ぶことに。
憧れのミラクルシャークと仲良くポーズを取って撮影する遥が楽しそうだから、良かったと考えるべきかな。
ちなみにつむぎたちは。
「モッフィー! 大好きです!」
ミラクルシャークではなくモッフィーに抱きついていた。
わかってたことだよ。うん。
「ふうん。僕以外にも大好きって言うんだ」
「えへへー。モフモフはみんな好きだよー」
「へえー」
なんかラフィオが嫉妬していた。
そんな彼の顔をミラクルシャークが覗き込む。
「彼女がモッフィーに夢中だけど、僕はミラクルシャークと写真撮るからいいんだ」
どんな感情なんだろう。
ミラクルシャークに頭を撫でてもらっているラフィオの写真と、モッフィーに抱きついてるつむぎの写真の二枚ができた。
「むー。ラフィオ。あんまり他の女の子と仲良くしちゃ駄目だよ!」
「そんなんじゃないから。つむぎだってモッフィーと仲良くしてるし」
「わ、わたしのもそんなんじゃないよ!」
こら。痴話喧嘩するな。
「ふたりともー。ほらここ。なんか映えそうなスポットあるよー。観覧車がよく見えるここで、写真撮ってみよっか」
「え? うん。いいよ」
「なんで……いいけど」
「じゃあふたりとも、手をハートにして」
「こ、こうかい?」
「えへへー。ラフィオと一緒に」
ふたり、自然に片手ずつでハートを作った。それが当然というみたいに。
一瞬で仲直りするのだからすごいよな。
そして仲直りさせた張本人は。
「妬ける……すごい普通に恋人みたいなことするじゃん。わたしも悠馬とハート作りたい」
「おい」
自分でやらせたことに嫉妬の声をあげていた。
本当は自分でやりたかったことなんだろうな。
「ねえラフィオ! 観覧車乗ろ!」
「ああ。いいよ」
「こら。ふたりとも勝手に行くんじゃねえぞー」
「アユムさんたちも乗りますか?」
「乗る!」
一番遊園地を楽しんでいる様子なアユムが、ちびっ子たちに注意した直後に俺たちを置いて走って行ってしまう。
「ふふっ。楽しそうだねー。じゃあわたしたちも行こっか。アユムちゃんと少し離れて」
「行くのはいいけど、なんで離れるんだ?」
「いいからいいから」
そして観覧車乗り場で、小学生ふたりの保護者役としてアユムが同じゴンドラに乗せられるのを見た。
「ひとつのゴンドラに五人入るのはちょっと狭いかもだから、二組に分かれないといけなくて。そして悠馬とふたりきりになれる方法はこれです!」
得意げに親指を立てる。
まあいいんだけど。
――――
「小学生だけじゃ乗れないんだねー」
「アユムが一緒で良かった」
「うん。ふたりきりの方がよかったけど、でも観覧車乗れたの嬉しい」
仲良く隣同士で座って外の景色を眺めている。
アユムも、住み始めた街を上から見下ろすのはそれなりに楽しいだろうなと思っている。だんだん高度を上げていくゴンドラも、なんかワクワクしてきた。
けど、ふと観覧車への搭乗場所を見ると、悠馬と遥がふたりきりで乗り込んでいるのが見えた。
車椅子を係員に預けて、転ばないように悠馬に支えてもらいながら乗り込む遥。
「あいつ……」
「アユムさん顔が怖いです」
「遥も考えたものだね」
「いつの間にか見かけないと思ったらあんなことしやがって」
「まあまあ。景色を楽しみましょう」
「そうだぞ。また後で、悠馬とふたりきりで乗ればいいじゃないか」
「……それもそうか」
よし。後でそうしよう。
子供にたしなめられたことに若干の引っ掛かりはあったけど、今となっては大したことではないな。
「ラフィオ。わたしたちの家はどっち?」
「あの方向だなー」
「むー。ここからじゃあまり見えないね」
「あれが、ここに来るために乗った電車の線路だ。で、あの方向に見ていくと駅があるはず」
「なるほどー。駅の近くのマンションだね!」
「それなりに高さのあるマンションだけど、さすがにこの高さからじゃ見えないよな。というか遠い」
「模布市って広いんだねー」
「ああ。大きな街だ」
「わたしとラフィオで守っていかないとだよね!」
「うんまあ。そうだね」
窓の外に目を向けるラフィオに寄りかかり背中に手を触れながら、つむぎも窓を見る。
その視線は本当に景色に向いているのか。それともすぐ近くにいる恋人を見ているのか。
どっちにしても、なんというかあれだ。大人っぽい。都会っぽいというべきか。年下なのにすごい。
都会の小学生は進んでるな。自分もあやかりたいものだ。
そうなったアユムには、景色なんか全然頭に入ってこなかった。




