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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第10章 秋の学校行事

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10-17.お化け屋敷の外

 エレベーターを見回すと、前後左右の四面とついでに天井の計五面が鏡張りだった。照明を下から当てている関係で床は鏡張りではない。だから下を見ると、そこにはいくつもの血走った目が書かれていて。



――見ているぞ……



 エレベーター内にそんな絞り出すような声。そして鏡という鏡に、恐ろしい形相の幽霊が映し出されて。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 扉が開くと当時に、またも転がり出ることになった。


 また、長い廊下を歩かされる。壁一面の赤い手形や、そこから漂っているらしい血の匂い。そしてひっきりなしに聞こえてくる怨嗟のうめき声に、早くここから出たいとしか考えられなくなってきた。

 そして目の前に広がっているのは。


「病室?」

「そうだな。ベッドがたくさん。それから、全部のベッドに人が寝てる」


 ボロボロの衣装を纏い、青白い体だったり生々しい傷を負っていたり。死体だと思われる、人の形をしたなにか。それが微動だにせずベッドの上に横たわっていた。


「だからおかしいんだよ! 廃病院に入院してる奴がいるはずねぇんだ! てか死体が置いてあるのもおかしいし!」

「ら、ラフィオ。これ、絶対に動くやつだよね?」

「ああ。そんな気がしてきた。いや、でも。動くと見せかけて他の何かが起こるみたいな」


 とにかく、ここから出るには進むしかない。ベッドのすぐ近くを、死体が起き上がらないことを祈りながら歩いた。


 ふと、ギイギイという音が背後から聞こえてきた。


「あー。車椅子の音……あんまり手入れしなくて、軋んじゃってる音だ……」


 滑らかに動く車椅子の上のから、遥が嫌そうに音の正体を言い当てた。


 病院だから車椅子くらいあるだろう。廃病院なら整備もされておらず、軋むこともあるだろう。

 誰が動かしているのかが問題だけど。


 見ない方がいいとわかっているのに、反射的に振り返ってしまった。


 遥のと同じようなシンプルな車椅子に座っているのは、皺だらけの老婆だった。不気味な笑みを浮かべながらこちらを見ている。

 自力で動かすのは無理だと思われるほど細い手足。実際、老婆は微動だにしていない。ただ首だけ動いて、視線をこちらから外さなかった。


 誰も触れていないのに、車椅子だけが自動でこっちに向かってゆっくり移動している。


「あ……ああ……」


 自分と同じ車椅子の、まったく理解できない原理で動いている怪異を見た遥がガタガタと震え始める。自分もああなってしまうのではという恐怖。

 すると老婆がおもむろに両手を上げた。するとベッドの上の死体が一斉に起き上がった。


「うわあああああああ!」


 誰の悲鳴かわからない、それは重要なことではなかった。

 みんな一斉に逃げ出したし、起き上がった死体たちはこっちを追いかけてくる。



 ひたすら長い廊下を、車椅子を押しながら必死に逃げると、たどり着いたのは。


「そ、外……?」


 いつの間にか、明るい太陽の下に出ていた。疾走するジェットコースターに楽しげな悲鳴をあげる声。家族連れの楽しそうな喧騒。


「お疲れ様でしたー」


 遊園地の係員の声にビクリと身を震わせつつ、恐怖の時間は終わったんだとようやくわかった。


「びえぇぇぇぇ! ウサギさーん。怖かったー!」

「死ぬかと思った……」


 近くで子供たちに風船を配っていたウサギの着ぐるみを見つけたつむぎが、駆け寄って抱きついて泣き出した。ラフィオも止めることなく、近くでへたりこんでいる。

 ウサギも困惑してるけど、ひょっとしたらよくあることなのかもしれない。泣いてる小学生の頭を優しくなでていた。


「やべぇよ。マジでやばかった。なんなんだよお化け屋敷……」


 初めてのお化け屋敷が高レベルすぎたアユムも座り込んでいるし、最初はノリノリだった遥も放心状態だ。

 俺も、しばらく動けそうになかった。


 愛奈をここに連れてこなくて本当に良かった。もし来てたら、騒がしさはこの比ではない。というか、最後まで行けずリタイヤしていたと思う。


 その後しばらくして、泣き止んだつむぎをウサギに謝りながら連れていき、他のみんなもなんとか気力を取り戻したから休憩できるスペースを探すことにした。

 そろそろ昼食の時間だ。フードコートがあるし、キッチンカーもいくつも出店している。それぞれ好きなものを頼んだ。


「いやー。お化け屋敷舐めてました。すごかった。なんというか、本気で怖がらせにきてたね」


 調子を取り戻した遥が、焼きそばをズルズル啜りながらしみじみと話す。


「わたし、まだ体震えてます」

「うん。僕も……」

「ラフィオ大丈夫? プリン食べられる?」

「それは食べられるけど」


 大泣きしていたつむぎの目は、まだ少し赤い。


 フードコートの一角でプリンを売ってるのを見逃さない程度に、ラフィオには余裕は出てきたようだった。


「オレもかなりビビった。想像以上だった。都会ってのすげえな。これより怖いのもあるんだろ?」

「あるとは思うけど、これも相当上位のやつだからな」


 ウサギさんランドのお化け屋敷は、これよりずっとヌルかった。


 あれも、壊れたせいでリニューアルされるわけで、さらに恐ろしいなにかになる可能性あるけど。


「わたしたちも負けてられないね!」

「本気で対抗しようとするな」

「でも、 わたしたちだけ怖い思いして、なんか悔しいじゃん! みんなも怖がってほしい!」

「その気持ちがよくわからない」

「特に愛奈さんを怖がらせたい!」


 遥のその情熱はどこから来るんだ。

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