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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第10章 秋の学校行事

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10-15.どこを見ても怖い

 さらに進むと、鼻にツンとした香りを感じた。消毒液の匂い。

 病院らしい匂いだけど、ここは既に使われていない場所のはず。怪我人の消毒なんてすることはないはず。


 なんでこんな匂いがするのかというと。


「見て見て! ホルマリン漬け! モフモフあるかな?」


 つむぎが棚に面白そうなものを見つけて駆け寄っていく。


「つむぎ待ってくれ! それ絶対やばいやつ!」

「モフモフのホルマリン漬けってあるのかなー?」


 その棚は通路に沿っているらしく、先に進むと嫌でも棚に並んだ瓶に目が行くことになる。


 トカゲや、蛇といった爬虫類が瓶の中に浮いている。それから、人間の眼や心臓といったパーツも。これ、元は誰のものなんだろう。というか、人間のホルマリン漬けって許されるものなのか?

 医療ミスとか、そんなものじゃない闇がこの病院にはある、


「ありました! ネズミさんのホルマリン漬け! ウサギさんもいるー」


 モフモフにしか興味がないつむぎが、通路を進みながら瓶の中身を見ていく。


 大きめの哺乳類を入れるために、瓶の大きさもだんだん大きくなっていく。それに合わせて、棚の高さも変わっていく。置く位置がだんだん低くなる。


「猫さん。大きな犬さん。そして……人間?」


 ついに棚がなくなり、巨大な瓶というか水槽が床に直接置かれていた。その中身は、微動だにしない人間で。

 人間のホルマリン漬けなんてありえない。事件だ。これは一体なんだ。


 その時不意に、中の人間が動いてこっちを見た。


「ああああああ!」

「チャンス! 悠馬怖い!」

「おい!」


 アユムが悲鳴を上げながら背中から抱きついてきた。遥も、思わず車椅子から立ち上がって俺に抱きついて体を支える。

 今チャンスって言ったよな?


 人間が演じているらしいホルマリン漬けの死者は、バンバンと水槽を叩いて苦しむような様子を見せている。


「ぎゃああああ! 幽霊! 幽霊だ!」

「落ち着けアユム! 幽霊じゃない! ホルマリン漬けにされた人間が蘇っただけだ」

「それの方が怖いだろうが!」


 それはそう。そして怖がらせるためのお化け屋敷だから。


「ほら。先に行くぞ」

「ラフィオ。この瓶、棚にくっついてて離れない」

「ホルマリン漬けを持って帰ろうとするな!」

「だって! ウサギさんほしいもん!」

「そのウサギでも好きなのか。モフモフできなさそうだけど」

「モフマリン漬けでもなんとかするもん!」

「なんだよモフマリン漬けって」


 つむぎもラフィオに引っ張られて先に進む。


 エレベーターの前まで来た。


「乗るのか?」


 アユムが既にビビっている。


「じゃないと先に進めないから」

「なあ。階段とかないのか? その方がなんか、いいだろ。健康とか」

「なんでここで健康を気にするんだよ」

「だって……オレ、エレベーターとかあんまり乗ったことないし」

「あるだろ。田舎にも一応」


 アユムのいた村は別として、少し足を伸ばした所にあるショッピングセンターにはちゃんとあった。あと、模布市に来てからは何度も乗ってる。


 遥が座り直した車椅子を押して、ひっついてくるアユムに歩調を合わせてエレベーターの中に入った。


 アユムが怖がってた理由がなんとなくわかった。エレベーターの中も暗く、しかも狭いところに閉じ込められている。逃げ場もない。

 五人で乗っていることもあって圧迫感がすごい。二階に上がるだけなのに、妙に時間がかかっている気がする。階数表示みたいなのもなく、俺たちの目は自然とエレベーターにおなじみの鏡に向いていく。


 俺たちの姿が映し出されている、なんの変哲もない鏡に、不意に青白い顔の女が映し出された。


「!?」


 慌てて後ろを振り返るけど、そこには何もいない。恐る恐る鏡に向き直ると、女は消えていた。


「み、見た?」

「ああ。見た」

「おい。今のやばくないか? ガチの幽霊なんじゃねえのか?」

「いやいや。そんなはずは」


 遥の声も震えている。ようやく開いたエレベーターの扉から、俺たちは転がるようにして出た。


 同時に、また消毒液の匂いが鼻をつく。

 嫌な予感がする。


「なあ。この廊下、手術室に繋がってるって」

「みたいだな」

「やばくねぇか?」

「手術室自体は別にやばくはないだろ」

「うん。きっと大丈夫。行こう行こう。」


 そう言いつつ、遥の手が止まっているから車椅子は進まない。俺がそっと押してやると、ビクンと肩が震えた。


「怖いのか?」

「こ、こここ怖くないよ? 大丈夫大丈夫。平気平気」


 震えながら振り返った遥の様子は、大丈夫ではなさそうだ。


 手術室に近づくにつれて、匂いが変わってきたのに気づいた。消毒液から、鉄のような匂い。

 これは、血か?


「いやいやいや! おかしいだろ! ここで手術はもう何年もされてないはずなんだよな!? なんで血の匂いがするんだ!?」

「俺に聞かれても」

「おし決めた! オレもう前見ない! 下向いて歩く! そうしたら怖くないから!」

「歩けるのか?」

「前に壁があるかくらいはわかるから! あとは悠馬連れてってくれ!」


 そして俺の肩に身を寄せて、下を見た。


 前を見ると、ラフィオとつむぎも両手を握り合って体を寄せ合っている。そしてめちゃくちゃ震えている。

 まったく。まあいいか。手術室の扉を開いた。血の匂いはもはや気のせいとは言えないくらいに強くなっていって。


 ポタポタと、天井から何かが降ってきた。赤い液体。匂いも相まって、血としか思えなくて。


 前方斜め下くらいを見ていたアユムの視界にも入ってきたから、思わず上を見てしまって。


 直後、天井が開いて血まみれの人間が降ってきた。もちろん胴体をロープでくくっていて、落ちてくることはなかったけど。

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