10-13.ジェットコースター
「お化け屋敷といえばさ」
「どうしたの?」
「週末。みんなで遊園地まで行ってお化け屋敷の研究するんだ。来た人を怖がらせる方法を探るために。姉ちゃん以外家にいなくなるけど、どうする? 一緒に来るか?」
「い、嫌です! 絶対にやだ!」
だと思ったよ。
「わかった。飯だけ置いておくから。あまり遅い時間に帰ることにはならないようにする」
「うん。じゃあ悠馬」
「なんだよ」
隣でもぞもぞと動いた愛奈はバスタオルを巻き直し、そして俺に抱きついた。
湯冷めした、少しひんやりした肌とシャンプーの香り。
「……いや。なんだよ」
「週末悠馬に会えない分、こうやって今触れ合っとかないとなって」
「土曜日、ちょっと出かけるだけだよ」
「でもー」
「ほら。部屋に戻って暖かくしろ。湯冷めしてるぞ」
「運んで?」
「……まったく」
愛奈の体を両腕で抱え上げて部屋まで運ぶ。
「風呂空いたぞ。誰か次入ってくれ」
「あー! お姉さんずるい! なんでお姫さま抱っこされてるんですか!」
「遥も風呂に入れ」
「悠馬運んで!」
「断る」
「うえー……もしかして、悪ふざけで愛奈さん驚かせたの怒ってるのかな……」
「だろうな。面白がるのも程々にしとけよ」
遥とアユムの話は愛奈に聞かせないように、わざと足音を立てて急ぎ足で歩いた。
そして週末。愛奈のための昼食をテーブルの上に置いて、俺たちは遊園地に向かう。
五月の連休に行った模布湖ウサギさんランドは、フィアイーターの攻撃から見事に復旧をして早期の営業再開を果たしたけど、残念ながらお化け屋敷は稼働していない。
セイバーが激突して半壊。これを期に全面リニューアルを行うそうだ。だから未だ再オープンに至っていない。
だから別の遊園地に行った。都市圏だから、この手の遊び場の選択肢は複数ある。東京や大阪だと、さらに広い選択肢があるんだろうな。
ウサギさんランドはウサギを始めとした小動物を飼っている小型動物園の側面もあったけど、ここは純然たる遊園地だ。
まあ、やってることは変わらない。観覧車があってジェットコースターがあってお化け屋敷がある。ステージではトンファー仮面やミラクルフォースのショーをやっている。
「おお! これが遊園地か! 大きいな!」
「アユムも親に連れてきてもらったことあるんだろ?」
「そうだけど、田舎のしょぼい奴だぜ? こんな……おしゃれな遊園地じゃない」
アユムが興奮気味に言ってるけど、俺にはよくわからない。おしゃれか。そういうものかな?
「夜は観覧車をライトアップして映える光のショーとかやってるし、常に新しい遊具を取り入れてるし。なんかきれいだし。アユムちゃんの言いたいことはわかるなー」
「そういうもんか?」
「ああ。そんな感じだ。地元の遊園地はなんか、寂れてた。小さかった」
「なるほど……」
「あー! ウサギさんだ! モフモフさせて!」
「待て」
「ぐえっ」
つむぎが、なんかマスコットキャスターらしいウサギの着ぐるみを見つけて駆け寄ろうとして、少年姿のラフィオに襟を掴まれていた。
ウサギさんランドのウサ太くんとは違ったキャラ。俺もよく知らないけど、たぶん設定があるんだろう。他の動物のキャラとかも大勢いるに違いない。
「よーし! じゃあ何から乗ろっか! ジェットコースター? 絶叫マシンにもいろいろ種類があるんだけどー」
「お化け屋敷からだろ?」
「そうだけど。一日いっぱい楽しみたいじゃん? ここの絶叫マシンは片足無い障害者でも乗れるから安心です! れっつごー!」
「おい待て」
ひとりで車椅子を動かしジェットコースターの方へ向かっていく遥。
「な、なあ悠馬。あれに乗るのか? 本当に乗るのか……? めちゃくちゃ速いぞ」
アユムが俺の袖を掴んで、今まさに疾走しているジェットコースターを見ても震えた声で尋ねた。
乗ったことないんだろうな。地元の遊園地にもジェットコースターはあっただろうけど、たとえ片足が無くても乗れる仕様であっても、身長制限はあったはず。
当時のアユムは小さかっただろうし。
「ああ。あれに乗る」
「ほ、本当か……」
「楽しいですよアユムさん!」
「僕も最初に乗ったときは怖かったけど、案外いいものだよ」
「そ、そうか。よし! オレも乗ってやる! ジェットコースターも乗りこなしてこそ都会人だからな!」
その考え方は違うと思うけど。
とにかく、本来の目的も忘れて俺たちはジェットコースターに乗り込み。
「うぎゃあぁぁぁぁ!」
「あはは! 楽しい!」
「おい! 早い! 早すぎる! てか高え!」
「それが楽しいんだよー!」
「わーい! 早い早い! ラフィオすごいね!」
「そうだね。疾走感がある」
「もー! ラフィオももっと楽しんでよ! ねえ! モフモフのラフィオが乗ったら、毛並みが全部後ろに流れたりするの!?」
「するだろうな! あとジェットコースターからぶっ飛ばされるだろうな! お前が掴んでないとな!」
「今、くすぐってもいい?」
「絶対にやめろ!」
「こいつらなんで平気そうに話してるんだよ!?」
「アユムちゃんも! 楽しんでみたらいいよ! 風を感じてみよう! ほら落ちるよ落ちるよー!」
「うわあぁぁぁぁ!」
「わひゃー!」
「ひゃっはー!」
少女たちの絶叫が響く。正しい遊び方だ。




