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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第10章 秋の学校行事

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10-11.幽霊ごっこ

 そう考えると、あの幽霊屋敷も大したものではないように思えてきた。


「うーん。リアリティがほしいんだよね。リアリティ……」

「実際の事件を参考にしたら、トラブルの元になるわよ。完全に架空の事件にしなさい」

「そうなんですけど。事件を設定するにしてもヒントは多い方がいいなって思って。じゃないとラフィオも作りにくいから」

「僕のために言ってくれてるのはわかるけど、そもそも自然に僕に仕事を振るのはやめてくれないかい?」

「そうですよ。ラフィオはわたしにモフモフされるのに忙しいんですから」

「それも嫌だけど」

「モフモフー」

「やめろ。握るな。苦しい。食ったものが出るから」


 善意で言った一言が仕事を増やしてしまう。世の中で何度も起こる悲劇をラフィオも経験してしまったな。世界観を作るのは、完全にラフィオの仕事になっている。


「じゃあ、みんなお化け屋敷作り頑張ってね! 当日ちゃんと見に行くから! それは見に行ってあげるから! だから怖くない感じのにしてね!」


 お化け屋敷の話題になった途端、愛奈は食事と酒を強引に胃袋に流し込んでから、逃げるように風呂に入った。


「じゃあ悠馬、なんかいい感じの廃墟とか調べておいて!」

「え? なんで俺が?」

「わたしは他にやることがあるので! つむぎちゃん洗い物手伝って!」

「はーい」

「あ。ラフィオは置いてきて」

「えー? なんでですか?」

「いいからいいから」

「わっ!?」


 隙を突いて、ラフィオは自力でつむぎの手から抜け出て少年の姿になった。つむぎも、一旦は遥の手伝いをすることにしたらしい。


 食べ終わりの食器を片手で持ちながら松葉杖でキッチンまで向かっていく遥。その肩に鞄が下がっている。

 食器洗いだけが、遥の言うやらなきゃいけないことというわけではなさそうだ。


「はあ。仕方ない。考えてやるか。ええっと、昭和ってどんな時代なんだ? バラバラ殺人なんか本当に起こってたのか?」


 ラフィオが紙とペンを用意して設定を考え始めた。


「昭和って言ってもかなり期間があるわよ。でも、凶悪事件は常に起こっていた。今よりも発生してたし、バラバラ殺人も起こってたわ。ひどい殺人事件で、現場が幽霊屋敷って呼ばれる例も多い。こういう事例を組み合わせていけばいいのよ。有名な殺人事件だと例えば……」


 樋口がラフィオの隣に来て、タブレットを操作して事件の例を見せている。警官だから、有名なのは知ってるんだろうな。

 俺も廃墟について考えてやるか。お化け屋敷の内装に反映されるんだろう。


 スマホで廃墟と調べて、いくつかの画像を見る。不気味さは伝わってきた。それが何から来るのかはわからない。


 壁の塗装がひび割れて剥がれている。誰が手を加えたわけでもないのに、家具だったと思しきものが壊れていた。床には埃が積もっていて、元が何かわからない瓦礫が散乱していた。

 だから不気味、というわけではないと思う。写真が不気味なのは、そこに人の気配がないからだろう。あとは全体的な雰囲気とか。


 でもこの手の内装なんて、来る人は基本的に誰も見ないよな。主役はお化けで、内装は言ってみれば背景だ。廃墟っぽい雰囲気を作っても、誰も見ようとしない。

 あまり力を入れるべきところではないけれど、もし入れるとすればその時は。


「明るいお化け屋敷ってどうだろうか」

「明るい……なに?」


 やることがなくて暇そうにしていたアユムか話に乗ってきた。バラバラ殺人の話題は、アユムにはちょっと荷が重かったらしい。俺の話し相手の方がしたそうだったから。


「ほら。お化け屋敷って基本的に暗いイメージじゃないか。それを、わざと薄暗い程度の明るさで雰囲気を出すのはどうだろうか」

「お化け屋敷って暗いのか? いや、なんかそういうイメージはあるけど、行ったことなくて」

「そこからか……家族で遊園地に行ったことは?」

「一度だけ。でもお化け屋敷はそこにはなかったな」

「そっか。じゃあ、週末行ってみるか。なにか参考になるかもしれないし。なあ遥。……遥?」


 キッチンの方を見ると、遥の姿はなかった。つむぎが何かを見下ろしている。なぜかつむぎは松葉杖も持っていた。

 直後、流し台の陰からなにかが這い出てきた。


「う……あ……」


 遥だった。普段はポニーテールにしている髪を解いて顔の前に行くようにししつつ床に散らばらせていた。

 さらに着替えている。なんな幽霊っぽい白装束に。さすがに額に三角形はつけてないけど。


「うがー……」


 そしてなんか幽霊っぽい苦しげな悲鳴を上げながら、幽霊っぽい動きで床を這い、幽霊っぽいゆっくりとした動作で顔を上げた。

 髪で顔は半分隠れている。片方だけ見えている目からは、特殊メイクのつもりだろうけど血の涙の跡のようなものが引かれていた。


「あががー……」


 雰囲気を出そうとしているのはわかる。足のない幽霊のつもりなんだろうな。そんな遥を。


「あー! ラフィオ駄目だよ樋口さんとそんなにくっついたら! 樋口さんもわたしのラフィオ取らないでください!」


 樋口とラフィオの距離感に気づいたつむぎが追い越していった。ラフィオを抱きしめて引き寄せる。少年姿のラフィオは素直に抱きしめられていた。


「取らないわよ。さすがにこの子は年下すぎて対象外。悠馬くらいはギリいけるけど」

「行くなよ。公安が未成年に手を出すな」

「ふふっ。わたしは取り締まる側だから、どうとでもできるのよ」

「できないだろ。警察が捕まるニュースなんて何度も見たぞ」

「あのね。ラフィオは格好いい上にモフモフだから、いろんな女の人が狙ってるんだよ。でも、わたし以外の女の子と付き合っちゃだめだからね?」

「わかってる。わかってるから離せ」

「もしラフィオがスマホ持っても、わたし以外の女の子の連絡先入れるのは駄目だよ?」

「怖いんだけど」

「もう! 雰囲気ぶち壊しじゃん! ……ねえ悠馬、今のわたし怖かった?」


 白装束姿の遥が起き上がって聞いてきた。

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