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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第10章 秋の学校行事

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10-10.ホームレスの来歴

 未成年者たちに料理を任せて先に晩酌を始めている駄目な大人たちに正論を吐かれても、まったく心に響かないんだよな。


「愛奈さんは、その幽霊屋敷? に行ったことあるんですか?」

「行ったことはないわ。噂だけ。馬鹿な男子学生が肝試しがどうとかで行くことが多くて、大学では有名なの」

「そっかー。肝試し」

「つむぎちゃんも、興味は持たないことね。幽霊なんかより生きた人間の方がずっと怖いんだから」

「そうですねー。ホラー映画とかも幽霊ばっかりではないですもんね。人が怖いやつ多いです」

「そ、そうなのね。わたしはあんまり詳しくないけど」

「愛奈さんも、幽霊のホラー映画なら怖くないかもしれませんね」

「い、いえ。幽霊は幽霊で怖いから」


 それは知ってる。結局怖いんじゃないか。学生時代の愛奈が噂だけ知ってて行ったことないのは、危ないからだけじゃない。わかりきったことだ。


「悠馬さん悠馬さん。幽霊屋敷、どんなところでした?」


 愛奈に話しかけていたつむぎは、実際に屋敷を目にした俺の方にやってくる。

 興味あるんだろうな。学校の七不思議とかも好きだったもんな。


「ただのボロい家だ。屋敷って言うほど立派なものじゃない。古い一軒家なだけ」

「そうですか。思ったより普通なんですね」

「普通の家だ。特別なことは何もない」

「そっかー」

「自分で行こうとするなよ」

「行かないよー」


 つむぎの手に握られているラフィオが釘をさす。そこの用心はよくできている子だ。遥と違ってな。


「なにかあってもラフィオが守ってくれると思うけどね!」

「だから行こうとするんじゃない! 本当に危ないなら守るけど!」

「えへへー。ラフィオ大好き!」

「大好きなら離してくれ。僕も夕飯を作りたい」

「やだー」

「おい!」

「もう晩ごはんできたよ。ほらつむぎちゃん、ラフィオ離してあげて」

「えへへ。一緒に食べよ。はいラフィオ、あーん」

「あーん」


 つむぎに抱きしめられたまま口を開けて応じるのだから、ラフィオも楽しんでいるのかもしれない。



「夕飯食べながら聞いてほしいの。あの亡くなったホームレスの身元について」

「わかったのか?」

「ええ。ここの県警が頑張ったから。と言っても、大したことではないけれど」


 タブレットに、二日前に不幸にもコアを埋められてフィアイーターもどきになった男の写真が表示されていた。ホームレスになる前の写真だろう。スーツ姿で、凛々しい表情をしていた。


「やり手のビジネスマンって感じね」

「そうなろうとはしてたらしいわね。事業を立ち上げて、失敗して大量の借金を抱えてしまった。妻がいたけど離婚していて、他に身寄りもいない。で、ホームレスになった」


 簡潔にまとめられる人生。その最後もあっけないもの。


「元妻は今、遠方に住んでいるわ。詳細はわからないけどね。元夫の死を伝えに、警察が向かってるところ。遺体を引き取るかも聞かなきゃいけないし」

「引き取ることはないでしょうねー」

「まあね。離婚したのは何年も前みたいだし。下手したら再婚してる可能性だってあるわよ」

「今更なんだって話よね。そうなるとあの遺体はどうなるの?」

「警察の手で焼かれる。で、無縁仏として埋葬される」

「ビジネスマンとして生きようとした結果がこれなら、救われないわね」

「ええ。本当に。警察やってると、不憫の一言じゃ語りきれない理不尽はいくらでも見るものよ。……怪物が暴れるのに巻き込まれて死ぬのは、理不尽の極みでもあるけど」

「キエラも罪な子よね」


 大人がふたり、しんみりした様子で話している。


「救いがあったのは、あの男はホームレス仲間の間では人望があったってこと。人当たりは良かったらしいわ。亡くなったことを悲しんでいた」

「ホームレスにも話を聞いたのか?」

「ええまあ。あの男の素性を知るのには、それしか手がかりがないから。元インテリで話も面白い。みんなのまとめ役ってわけじゃないけど、慕われていた」

「まとめ役?」


 樋口の説明に出てきた、ホームレスとは似合わなそうな言葉に俺は訊き返した。


「ええ。まとめ役。彼らだって自由に生きる世捨て人なんかじゃないのよ。社会を追われて行き着いた先であっても、ホームレスの集団の中に属するなら、そこに社会があってルールがある。もちろんリーダーもいる」


 それがまとめ役か。なんというか、思ったより窮屈なんだなホームレスって。あんな生活をしている上に自由もないなんて。


「あの付近のホームレスにもリーダーはいたはずよ。男の身元捜査とは関係ないから、どんな人かは教えてもらってないけど」

「わたしたち、見かけてるかもしれないね。何人か見たホームレスの中に、まとめ役がいた」


 遥が耳打ちしてくる。ホームレスなら今日、何人も見かけたからな。


 彼らそれぞれに人生があるんだろうけど、今の姿は俺には見分けがつかない。誰がリーダーなのかもわからない。

 ただまあ、そういう存在がいるから、ホームレスたちも秩序を守って生活しているのかも。小さな子供が遊ぶ公園の近くで暮らして、大きなトラブルが起こってないのはそういうことなのかな。


「ねえねえ樋口さん。例の幽霊屋敷の事件については何か知ってますか? 昭和に起こった介護疲れの殺人事件なんですけど、詳しいことが何もわからなくて」

「知ってるわけないでしょ。わたし、この街に来て半年くらいしか経ってないのよ。そんな、生まれる前の地方の事件なんか知ってるはずがない」

「そうですかー。警察だから、なんかそういうの詳しいかと」

「ここの県警の人間なら詳しいでしょうけど、わたし警視庁よ? それに、介護殺人なんてしょっちゅう起こってる。この街でも、他の地方でもね」


 確かに。警官だからって何でも知ってるわけじゃないか。

 悲しい話だけど。

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