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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第10章 秋の学校行事

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10-4.安らかに眠れ

「フィァァアァァアアアァァァ!!」


 痛かったのだろうな。苦しげな咆哮をあげたフィアイーターだけど、攻撃は止まらない。


「とりゃー!」


 公園内の見回りを一通り終えたらしいライナーが、動きの止まったフィアイーターに向けて猛烈な勢いで駆ける。一瞬にして肉薄した上で、軽く跳躍しながらフィアイーターの頭に回し蹴りを食らわせた。

 首が折れるまでは行かなくても、大きく曲がった。よく見れば、伸びた金属の表面に小さな亀裂が入っている。


 ハンターがそこに矢を放った。亀裂に刺さった矢が修復を阻害した。


「バーサーカー! そいつの首を引っ張れ! 傷を広げろ!」

「お! おう! わかった! なんかオレはそういう、パワー系の仕事担当なんだな!」


 自分の特性を理解しつつあるバーサーカーが、フィアイーターの頭を掴むとさっき曲がったのと同じ方向に引っ張っていく。

 魔法少女の膂力はさすがだ。銅製の皮膚がメリメリと音を立てて広がっていく。


 もちろんフィアイーターも抵抗しようとするけど、片腕を失った状態。もう片方の腕をバーサーカーに伸ばして引き剥がそうとしたけど、セイバーが前に立って剣で腕を受け止めた。


「こっちも落とすわよ! ラフィオ!」

「ああ! わかった!」



 ラフィオが駆けつけて、フィアイーターの残った腕に噛み付いて引っ張る。それを、セイバーがさっきと同じように切断。ラフィオはさらに、フィアイーターの足を踏みつけていた。

 俺もそれに加勢する。フィアイーターの足元に這いつくばるようにしながら、奴の足に抱きついて動きを封じた。まだ暑い日差しを受けて、銅の表面は暖かかった。


「行ける! もうすぐちぎれる! この後どうすればいい!?」

「コアを探すの! えいっ!」


 首の裂け目が大きくなっていく。それを見計らって、ライナーがまたそこを蹴った。今度は飛び膝蹴りだ。

 それによって、フィアイーターの首が完全に千切れた。


「ライナーそのままでいてください!」

「え? なに!? うわっ!?」


 着地したライナーの肩をハンターが踏んで跳躍。頭部がなくなって首の断面から中身が見えるはずだ。そのどこかにコアがある。


 見つけたらしい。ライナーが空中で正確に矢を放って、コアを射抜いた。


 黒い粒子が俺に降りかかる。それはすぐに消滅して、無残なラジオ体操像が落ちてきた。

 両腕と愛嬌ある顔をしていた頭が切断されて、横に反らしている胴体はあちこちに傷がついている。


「これ、修復されるのかしら」

「この公園、銅像が無くなって台座だけ残ってるやつがありませんでした?」

「あれはほら。戦争中で金属が足りないって理由で撤去されたものだから」

「お姉さん詳しいですね」

「お姉さん言うな。大学時代、よくここを歩き回ってたからねー」

「散歩ですか? 似合わない……暇だったんですか?」

「それはもう暇よ。出なくていい退屈な講義をサボったはいいけど、予定もないって結構あったから」

「おい」


 それで暇になるな。


「あははー。それよりラフィオ、見てほしいものがあるの」


 変身したままのセイバーがふと真面目な顔になったのは、不真面目な大学生活から話題を逸したいからだけではないらしい。


「なんだい? 戦いは終わったのに」

「悠馬。樋口さんに連絡して、しばらくこの近くに人が来ないようにして」

「ああ。わかった。理由を聞かれたら?」

「人間を材料にしたフィアイーターがいる。どうするにしても、遺体が残るわ」


 それは大変だな。


 樋口に電話したら、既に近くまで来ているという。近くの警官に急行させて規制線を張ってもらうことに。

 野次馬に見せたい場面ではないから、周りにブルーシートで覆ってもらった。

 青いビニールの壁の内側には俺たちしかいないが、外には警官がいる。だから俺は覆面を外せない。


 その空間の中で、ホームレスと思しき老年の男が虚空を見つめて倒れていた。


「ここ、ホームレス多いのよね。公園から駅の高架下にかけて何人かいる。最近は数も減ってきたようだけど、今でも集まりがあるのね」

「これは……生きたままコアを埋められたのか。恐怖を求める気持ちと、普段から住処にしている場所で暴れることへの倫理的忌避感で動けないでいる」


 小さな妖精の姿になったラフィオが、その様子を近くで見ながら話した。


 生き物はフィアイーターにはできない。特に人間は難しい。それは前にも聞いたことがある。

 無理にやった結果が、これだ。


「なるほどね。この男性を救う方法は?」


 ブルーシートをかき分けて樋口が入ってきた。外で、今のラフィオの説明は聞いていたらしい。


「救いが人間として蘇生させるという意味なら、無理だ。生きているとも言えないような状況を終わらせ尊厳を守るのが救いと言うなら、殺すしかない」

「わかったわ。何枚か写真を撮らせて。身元の確認用。その後、殺しなさい」


 樋口が男にスマホを向けて、いくつかの角度から撮影。顔のアップや、汚れた服の様子なんかを記録する。


「やって」

「ええ。じゃあわたしが」

「ちょっ! 待ってくれ! 殺す!? こいつ人間だぞ!?」


 フィアイーターについてまだ理解が浅く、パインという前例があることを知らないバーサーカーが慌てた声を出す。


「仕方ないんだ。フィアイーターを元に戻すことはできない。殺してあげるのが本人のためだ」

「でも……」

「ラフィオ。その話は後でゆっくりしてあげて。バーサーカーも、とりあえず今はこれを受け入れて」


 セイバーは静かに言って、剣を逆手に持った。

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