9-39.魔法少女は楽しい
「うわー!? なんかやることが多いぞ! 魔法少女ってこんなに大変なのか!?」
「大変よー。仕事と両立してやってると、さらに大変。でも、わたしは頑張ってます!」
やめろ愛奈。ない胸を張るな。お前はそんなに頑張ってない。頑張ってるがもしれないけど、それは俺が頑張って頑張らせてるからだ。
「そうか……そういうものか……」
ちょっと困った様子のバーサーカー。まあ、みんなして脅かしてやる意味もないよな。
「でも、楽しそうって思っただろ?」
「あ、ああ。大変かもしれないけど、でもひとりでやるわけじゃないもんな」
「ああ。間違いない」
「悠馬も一緒にいるんだよな」
「そうだ。一緒に頑張ろう」
「あー! お姉さんお姉さん! なんかバーサーカーが悠馬といい仲になろうとしてます!」
「ほんと放っておけないわね! 悠馬はわたしのものよ! 勝手に取らないでくれるかしら!?」
「姉ちゃんの物でもねえよ! てか車の中で暴れるな! 走ってるところだから!」
「……ははっ!」
俺たちの様子を見て、バーサーカーが少し笑顔を見せた。
「は、初めまして! オレ……あ、わたしくし? 魔法少女シャイニっ! し、シャイニーバーサーカーでしゅ! 頑張ります!」
その少し後、テレビ局の空き部屋で本当にバーサーカーはカメラの前に座っていた。
俺たちに見守られながら、対面に座る澁谷にインタビューを受けている。
「緊張しないで。知り合いと話すみたいな感覚でお喋りして。ほら、お菓子とか用意したわ。少し食べない?」
「お、おう。お菓子……いいのか?」
「ええ。インタビューが終わったら、他にも色々用意してるから。みんなで乾杯しましょう」
「お酒も用意してるわよー。魔法少女の歓迎パーティーだし、楽しみましょう。あなたも、ちょっとくらい飲んでも見逃すわー」
合流した樋口が、公安としてはあるまじきことを言う。
「ふふっ。樋口さんは冗談で言ってるとして、でも気軽に行こうって考え方なのはわたしも一緒。アユムちゃん。あなたの、ありのままの姿をカメラに見せて?」
「ありのまま……ああ。そうだ。オレは魔法少女、シャイニーバーサーカーだ! みんなの平和を守りたい……ていうのと、そのために暴れたいから魔法少女になった! 怪物ども! 出てこい! アタシがまとめて片付けてやる!」
「おおー」
力強い言葉を口にして、勢い余って立ち上がり、さっきまで座っていた椅子に片足を乗せてポーズを取ったバーサーカーの雄々しい姿は、自己紹介としてどこまで適してるかはわからない。
けど、これを見る者にバーサーカーがどんな魔法少女なのかは理解させられるだろう。
まあ、それはいいとして。
「アユムちゃん! スカート! スカート気にして!」
「おわー!? カメラに撮られた!?」
「だ、大丈夫です! そこは編集でなんとかするので!」
うん、バーサーカーがどんな奴か、よくわかる。
テレビ局は本当に優秀で、翌日には映像をちゃんと編集して、バーサーカーの戦いに臨む姿勢を力強くぶち上げる様子をしっかり放送した。
夕方の、俺たちが帰る頃合いの時間帯に放送するというサービス精神のおかげで、帰宅した直後の制服姿のアユムはその映像を見ることになった。そして扱いに慣れてきたスマホにて、SNSで反応をチェック。
「新しい魔法少女かわいい」
「強そう」
「格好が一番エロい」
「でも頼れる」
「推しになります!!」
「あぎゃー!? やばい! やっぱり恥ずかしすぎる! うあー!」
自分の姿がローカル局ながら広く放送されて自分の姿を多くの人が目の当たりにしている事実を思い知らされたアユムが、制服姿のまた床をのたうち回った。
――――
「なによ。みんな魔法少女ばっかり注目して。わたしたちは悪ってわけ?」
魔法の鏡で、世間が新しい魔法少女の話題でもちきりであることに、キエラは不満げな様子を見せた。
「たぶん、わたしたちのことは人間もよくわかってないと思う。人前にあまり出ないし」
「コスプレして活躍したのに?」
「みんなもう忘れちゃってるよ。それにほら。怪物だけ作ったら、わたしたちすぐに帰るから」
「それは……そうだけど。ティアラだって、長くあっちにいたら苦しいでしょ? 恐怖が足りなくて」
「うん。まあ……でもどうしよう。魔法少女が増えたら、フィアイーターはこれまでよりすぐに倒されちゃうよ?」
そうすると、恐怖が集まらなくなる。
「そうね。フィアイーターを強くするのは難しい。サブイーターみたいなのを作るのも、無理かしら」
「だったらやることはひとつだよ。わたしたちも本格的に戦うの」
「ま、待って! それをすると、また悲しいお別れがあるかもしれれないから……パインみたいに。だから、少し考えさせて。……お別れしても悲しくない人間をフィアイーターにして戦わせる方法について」
「ええ……」
キエラがパインとの思い出を大事にしているのが、ティアラには嬉しかった。
けれど今のままじゃいけない。キエラもよくわかっているから、必死に考えているようだった。
きっと素敵なことを思いつくのだろうな。ティアラにはそれが、とても楽しみだった。




