9-36.パワータイプの魔法少女
コアを見つけるには、とりあえず体に穴を開けなきゃいけない。
「でね! 今澁谷さんがレールガンをこっちに向かわせてくれてるの! それでこいつに大穴開けて、ぶっ倒そうってわけ!」
ラフィオとハンターがいないのは、そういうことか。
それはいいんだけど。
「だったら、店の外に出さなきゃいけないんじゃないか?」
「そう! そうなんです! だからさっきから、ふたりでこいつを押してるんだけど」
「フィアァァァァァァ!」
「うわー!」
セイバーが話してる後ろで、ライナーがフィアイーターの体をゲシゲシと蹴って、なんとか外の方向へ向かわせていた。
奴が少し力を込めて前進すれば、あっさり押し戻されてしまった。
「この調子なのよ」
「お姉さん! 手伝ってください!」
「わたし、お姉さんじゃないからねー」
「たぶん! 外でハンターたちが待ちくたびれてますから!」
「悠馬も手伝ってくれる? 三人でいけるか、ちょっと自信ないけど」
「安心しろ。四人目がいる」
「四人目?」
「バーサーカー。出番だ。……バーサーカー?」
そういえば、俺の後ろにいるはずのバーサーカーに、セイバーたちが反応しないのは妙だ。振り返ったら、バーサーカーはいなかった。
いや、いた。個室の扉の陰に隠れて、こっちの様子を伺っていた。
「なにやってんだよ。ほら来い」
「うあぁっ!? やめろよ! 恥ずかしい!」
バーサーカーの手を引いてセイバーの前に出す。彼女は自分の体を必死に隠そうとしていた。
「緑色の魔法少女。もしかしてアユムちゃん?」
「そうだ。魔法少女シャイニーバーサーカー」
「え!? アユムちゃんがついに変身!? 見せて見せて!」
「フィアアアアァァァァ」
「ぎゃわー!?」
不用心に振り返ったライナーがフィアイーターに弾き飛ばされた。ちょうど俺たちの前に。
バーサーカーのスカートの中を覗き見る位置に。
「へー。バーサーカーのパンツ、こういうのなんだ」
「うわっ!? おい! 見るな!」
「あははー。ごめんごめん。でもアユムちゃんが無事に変身してくれて嬉しいな」
「無事じゃねぇ! なんだよこの格好! てか、お前らより恥ずかしい格好というか! なんか見せてる所が多くて!」
「だよねー。始めはちょっと恥ずかしいって思ったかな」
「わたしは今も恥ずかしいわよ。永遠に慣れないと思うわ」
「ハンターも、ミニスカート恥ずかしいって言ってますもんね! だからバーサーカーも、頑張るしかないよ!」
「参考にならねぇ……けど、頑張るか。うぉっし! 頑張るぞ!」
「その調子! じゃあ、なんかあのフィアイーターを店の外まで追い出そっか! 向こうに非常出口があるの! そっちまで押して行って!」
「おう! やってやる!」
バーサーカーは覚悟を決めて、フィアイーターへ突進していく。
フィアイーターの方もこちらへ向かっていくところだった。
体重を考えれば、フィアイーターの方が有利な勝負。しかしパワーではバーサーカーの方が上らしい。
勢いよく床を踏みしめながら、両手でフィアイーターの胴へ張り手を食らわせる。その衝撃で黒い体が後ろへよろめく。
「おらっ! 食らえ! 下がれ! このっ!」
バシンバシンと体重の乗った張り手を繰り返し、時には蹴ったり頭突きを食らわせながら、徐々にフィアイーターを後退させていく。
「なるほどパワータイプなのね。ライナー、わたしたちもやるわよ。悠馬は出口を開けて、澁谷さんに連絡」
「わかった」
バーサーカーとフィアイーターの押し合いの隙を突き、俺は横を通り抜けて非常口へと向かう。
緑色のピクトグラムが駆けている扉を開けると、夕暮れ時の布栄の街が見えた。
「澁谷! カラオケ店の非常口の側からフィアイーターを出す。来れるか!?」
『わかりました! 電源車を向かわせます!』
運転してるのはテレビ局の人なんだろう。ブロロとエンジンがかかる音が電話の向こうから聞こえた。
「みんな! レールガンがこっちの方に向かってる! 押し出し急いでくれ!」
「わかってらぁ!」
「うわー。バーサーカーってば言葉遣いが乱暴」
「アユムちゃんらしいとも言えますけどね」
「オレはな! 自分らしく生きるって決めたんだよ!」
「おー。オレとか言ってて。格好いい」
「わたしたちも言葉遣い見直す? そうしたらファンに受けるかも」
「ヤンキーっぽくしますか? ヘイヘイ姉ちゃん。オレに触れると火傷するぜ?」
「いつのイメージよ。てか似合わないわよ」
「じゃあ、逆にお上品な感じで。お嬢様っぽく。そうだわお姉様、この後お茶でもいかがでしょう」
「いいわね。おハーブティーとかおフルーツタルトとか、お優雅でお嬢様っぽく思えますわね」
「おい! ふたりとも真面目にやれ!」
バーサーカーの怒号が飛ぶが、セイバーもライナーも真面目だ。
フィアイーターの胴体を押して確実に出口まで後退させているバーサーカーを、やられているフィアイーターは両手でなんとか払いのけようとしていた。
けど、その腕をセイバーとライナーが攻撃して止めつつ、加勢している。バーサーカーは自分の仕事にかかりきりで気づいてないみたいだけど。
結果として、なんとなく連携は取れているのだからすごい。
建物の外に目をやると、ちょうど電源車が到着した頃だった。




