9-35.魔法少女シャイニーバーサーカー
「あ、あなた、それは……」
魔法少女になりたがっていたティアラが、割れたモニターに体をもたれかけさせながら、アユムに絶望的な表情を向けていた。
ティアラの心中など知らないアユムは、そのまま変身を完了。
緑を基調とした格好。スカートは当然のように短くて、トップスもお腹どころかみぞおち部分まで晒している格好。胸の周りだけを覆うような形で、肩も脇も胸の谷間もしっかりみせている。
少し緑色かかるようになった髪は、元の長さは変わっていないもののお団子に纏めて、見た目はかなりスッキリした髪型になっている。
足は、動きやすそうなスニーカーに短めのソックス。
宝石は右手に装着された金属製のガントレットにはめられている。それ以外に武器は持っていない。
「闇を砕く鋼の意志! 魔法少女シャイニーバーサーカー!」
吠えるような名乗りが、カラオケの個室に響いた。
「うおっ! これが魔法少女か!? てかスカート! 短すぎやしねえか!? てか体隠せてない!」
「ラフィオの趣味だ」
「この格好で戦えってか!? いけるのかよ!?」
「やるしかない。姉ちゃんも、恥ずかしさを我慢して戦ってる」
「ああもう! じゃあやるしかねえな!」
「魔法少女……四人目……なんで。なんで!? なんでわたしだけなれないの!?」
「うおっと!?」
激高したティアラが殴りかかってくる。人間にしか見えないティアラに、バーサーカーは戸惑ったように後退った。
「バーサーカー! そいつは人間じゃない! 中身は怪物だ! 倒すしかない相手なんだ!」
「お、おう! わかった!」
「その力! ちょうだい!」
「お断りだ! オレの力はオレのもんだ!」
右手の宝石に伸びていた手を払いのけて、バーサーカーはティアラに頭突きを食らわせる。
いや、殴れよ。
「てめぇらが好き勝手するのは許さねえ! 誰かを傷つけるような奴は、てめぇが痛い目見るもんなんだよ!」
さらに頭突き。後ろによろめいたティアラの腹に、今度は蹴りを入れた。
「がはっ!?」
「ティアラ!?」
少女の姿の怪物の体が衝撃で飛ばされ、キエラの方へ向かう。ピンク色の獣はモフモフの体で彼女をキャッチしつつ、こちらを睨みつけた。
「新しい魔法少女? ラフィオ、勝手にそんなもの作って……」
「お前の許しがいるもんじゃねえだろ! お前ら! そんなもんかよ! おら! おらぁ!」
「こいつ狂ってる!」
他の魔法少女とはまた違う勢いのバーサーカーに、キエラはあからさまに引いていた。迫ってくるバーサーカーを睨みながらも、後退して攻撃を避けるしかできない。
「お、覚えてなさい! 今日は帰るけど、いずれあんたも倒してラフィオを取り戻すから!」
ここまで悔しそうに負け惜しみを言うのも珍しい。こちらが返事をする前に、穴を作ってエデルード世界に消えてしまった。
「おいこら待て! 逃げるな! このっ!」
バーサーカーが追いかけた。けど、穴は即座に閉まって何もない空間を駆け抜けただけ。
「あいつ! ムカつく! くそっ! くそっ!」
「落ち着け! バーサーカー!」
「バーサーカー!? 誰がバーサーカー……オレか。そうか、オレ魔法少女になったんだ」
魔法少女としての名前で呼ばれることに慣れてないバーサーカーが戸惑った反応を見せた。
「これが魔法少女か……めちゃくちゃ恥ずかしい」
「ああ。そうだな」
「他の魔法少女より、なんか布が少ない気がする」
「なんでだろうな。向こうで作った宝石か、こっちで作ったかの違いかな。でも、動きやすいだろ?」
「ああ。それは確かに。……力が溢れてるって感じがする。めちゃくちゃ暴れてぇ」
「好きなだけ暴れろ」
どこかでフィアイーターの咆哮がした。キエラたちは逃げたけど、戦いはまだ終わっていない。
「こっちだ。ついてこい」
「お、おう!」
音の方に向かって走る。
バーサーカーは、すぐに俺を追い越していった。
「こいつ重い! マイクのくせに!」
「マイクって意外に重いものですよねー。それがこのサイズになったら、そりゃパワーあります」
「ライナー落ち着いてないで! なんとかしなさい!」
「レールガンの登場を待ちましょう」
「それだけじゃ駄目ってわかってるでしょ!」
「そうなんですけどねー。とりゃ!」
「フィアアアァァァァ!」
「やっぱり硬い!」
狭いカラオケ店の通路で、壁をあちこちぶち抜き個室へとなだれ込みながら、セイバーとライナーはフィアイーターに苦戦してるようだった。
フィアイーターはマイクに手足が生えているような格好。手足も黒くて金属製のような光沢が見える。
「あ! 悠馬聞いてよ! このフィアイーター硬すぎ! 刃が通らないの!」
「わたしも! 蹴ってもちょっと凹むだけ! ねえ! わたしもっと頑丈そうな容器のフィアイーターと戦ったことあるんだよ!? それより硬いってありえなくない!?」
魔法少女ふたりが、俺を見つけた途端に駆け寄ってくる。いや、敵を放置するな。
「フィアァァァァァ!」
「うるさい! あと声が響く!」
マイクだもんな。
背後で咆哮をあげたフィアイーターまで、ライナーが戻っていって飛び蹴りを食らわせる。
体重は軽いなりに、脚力のあるライナーの攻撃にも、フィアイーターは多少よろめくだけで倒れたりはしなかった。
マイクの持ち手は金属製。それが凹んでいるのは確認できたけど、それだけ。




