9-33.回りに言われて
本性を隠す努力もなく、つむぎは抱きついてラフィオの首筋をくすぐろうとする。上から押し込まれる形になっているラフィオも、なんとか抵抗を試みていた。
なんか、家にふたりしかいないから、つむぎが一線を超えてきそうで怖かった。そういうのにためらいがない子だから。
と、その時つむぎのスマホが警報音を鳴らす。テレビでも上にニュース速報のテロップが入った。
ラフィオも、もちろん感知していた。
「つむぎ! フィアイーターが出たぞ!」
「んー。後で!」
「今行け!」
「えー! せっかくふたりきりだったのに! 戦いに行ったら悠馬さんと合流しちゃう!」
「しなきゃいけないんだよ! さっさと変身しろ!」
「うー! デストロイ! シャイニーハンター!」
ものすごく不満そうな顔と共に、つむぎは魔法少女に変身した。
「闇を射抜く精緻なる狩人! 魔法少女シャイニーハンター!」
それを見ながら、ラフィオは家の戸を開けて獣に変身。ハンターがそれに飛び乗って、現場へと急行する。
――――
今日はいつになく仕事がうまく行った。大きめの案件が無事に終了。納品まで問題なくいけて、平和に仕事を終えられた。
おかげで晴れ晴れとした気持ちで会社を定時で上がった愛奈と麻美のスマホも、警報音を鳴らした。
「あ。出たらしいですね、フィアイーター」
「えー。面倒くさい。遥ちゃんやつむぎちゃんに任せちゃわない? せっかく大きな仕事を終えたところだから、今日はパーッと飲みに行きたい!」
「駄目ですよ! 先輩は魔法少女のなかで一番年上なんですから! 行かないと!」
「でもー」
「戦いが終わった後に打ち上げしましょう! 現場は布栄ですよ!」
「飲み屋いっぱいあるものねー。行きますか。ライトアップ! シャイニーセイバー!」
こそこそと人影につかない場所に隠れて変身。
「闇を切り裂く鋭き刃! 魔法少女シャイニーセイバー!」
そして布栄まで駆けた。さっさと終わらせちゃおう。
「いってらっしゃーい! わたしもすぐに追いかけますね!」
後輩の声が聞こえてきた。うん、一緒に飲もうね。
――――
カラオケの店舗の外に、既に黒タイツは出ていた。ライナーはそれに突っ込んでいき、回し蹴りで数体まとめて片付けていた。
「アユム。お前は俺から離れるなよ」
「お、おう。わかった」
「おとなしくしてろよ」
「ガキじゃねえんだから。わかってるよ」
「悠馬! わたしはお店の中に入るから、悠馬は外の黒タイツをなんとかして!」
「わかった!」
黒タイツは残り数体。何人かは店内に突入したライナーを追いかけて行ったけど、無駄死にするだけだろう。
他の市民たちは逃げたか隠れたかして、外にいる黒タイツが標的として狙えそうなのは覆面を被った俺と、その後ろのアユムだけ。
「フィー!」
一体がこっちに全力で走ってきた。
冷静に対象すれば、難しいことは何もない。拳を振り上げて殴りかかってきた黒タイツの一撃を回避して、逆に腕を掴んで引っ張り、相手の勢いを利用して投げる。
地面に叩きつけられた黒タイツの首に膝を落として、体重をかけてこれを折る。
次は二体同時に襲ってきた。
馬鹿正直に相手するものじゃない。
「アユム下がってろ」
そう言って、俺の方から片方に突っ込む。ナイフを構えたまま、まっすぐ突進して胸のあたりにぐさりと刺す。
苦悶の声と共に、黒タイツが腕を振り回した。腕力が人間よりもあるはずだから、すぐさま身を引いて回避。ナイフで動きが鈍った方は一旦置いて、同士討ちを恐れてこちらを観察して一瞬動きが止まった方と対峙。
「来いよ黒タイツ! 俺はただの人間だ。まさかビビってんじゃないだろうな」
「フィー!」
こいつに人並みの感情があるのかは知らないけれど、挑発には乗った。しかも怒りが混ざった、精細を欠いた雑な動き。
そんな動きで俺に勝てるはずもなく、あっさりと腕を掴まれて地面に押し倒された黒タイツは首の骨を折られて死ぬ。その直後に、さっき刺された方の黒タイツもフラフラと倒れて消滅していった。
刺したナイフはまだ使えそうだった。
「うまいもんだな」
アユムが少し離れたところで感心したみたいに言う。
「鍛えたからな」
「そうか。けど、やっぱりまどろっこしいというか」
「うん?」
「どうせなら、ふたりまとめて




