9-25.アユムと日曜日の朝
バーベキューの片付けをして、余った食料は持ち帰る。麻美も酔い潰れて動けなさそうだからと、この家に泊まることにしたらしい。それを放っておけない剛も同じく泊まるとのこと。
こいつらも仲がいい。
片付けの残りは剛がやってくれると言った。君たちは遅くなる前に帰りなさいって。女装趣味の優しい先輩の厚意に甘えて、愛奈を背負ってマンションに向かう。
「ゆうまー。お姫様抱っこがいいです!」
「そうか。そんなこと言えるくらい元気なら、自分で歩けるよな」
「いやー! おんぶでも大丈夫です!」
まったく。
「甘いよな」
「甘いよねー。問答無用で歩かせろって思うのに。わたしならバシバシお尻叩いて歩かせるよ」
「それはそれで、どうかと思うけどな」
ふたりはなんの話をしている。
それでも、今日一日で遥とアユムはすっかり打ち解けたようだ。今も車椅子を押しているのはアユムだ。
一緒に遊んで飯を食べるって、大事なことだよな。
夜も、同じベッドで寝るのに昨日ほど抵抗はない様子だった。
翌朝。ミラクルフォースの時間までには、俺はいつものように起きている。他のみんなも同様。そして。
「みんな早起きだな……」
眠そうに目を擦りながら起きてきた。
「おやー? アユムちゃんは、日曜日はお寝坊さんなタイプ?」
「そりゃそうだろ。休みの日なんだから」
「昔は朝早くから俺を連れ出して遊びに言ってたけどな」
「昔のことだよ!」
「アユムさんもミラクルフォース見ましょう! モッフィーがモフモフでかわいいですよ!」
「モッフィー? ああ。ベッドにあったデカいぬいぐるみ」
「ウサギさんのぬいぐるみだけど、本人は自分をウサギって思ってないキャラなんだよ」
「なんだよそれ。意味がわからねぇ。てか、遥もガキ向けのアニメ好きなのか?」
「うん! つむぎちゃんに合わせて見始めたらハマっちゃって」
「そっか。じゃあ、アタシも見るか」
テレビの中で、主人公であるミラクルシャークが大鎌を振り上げて戦っていた。相変わらずの据わった目で、敵である怪物へ鎌を振る。完全に首を刈る動きだ。
なんとか回避した怪物だが、シャークは逃さないとばかりに踏み込み、片手で振った鎌を相手が避けたところに開いた片手を持っていき、体を掴む。そのまま足払いをかけて地面に倒した上で、踏みつけて逃げられないようにして鎌でザクザク切り裂いていく。
敵が虫の息になってから、ようやく。
『ミラクル! シャーククラッシャー!』
必殺技を放った。巨大な光るサメが出てきて怪物を飲み込み、消滅させていく。
「なんというか、さ」
「うん」
「子供向けのテレビだと思ってたけど、かなり残酷というか、壮絶というか」
「生ぬるい内容だと子供が楽しめないんだと思う」
「なるほど……」
さっきまで残酷な戦いをしていたミラクルシャークだけど、変身を解除すれば仲間と一緒に仲睦まじく会話して、いい感じに話をまとめていた。そしてエンディングでは楽しそうにダンスしている。
ギャップがすごいんだよな。
そして次の番組で、トンファー仮面がやはり怪人に遠慮のない暴力を奮っていた。着ぐるみの怪人の首を掴んで、壁に繰り返し叩きつけていた。
いや、トンファー使えよ。
「ヒーローって、わかんないもんだよな」
「うん。正直、子供の教育に良いかと聞かれたら微妙だと思う」
「いや、悪いだろ。けど……わかる気はするんだよなー。子供って、こういうの好きじゃねえか。暴れまわりたいっていうか。好き放題やりたいっていうか」
アユム自身が、そういう子供だったのもあると思う。
おしとやかに過ごすことを求められる女の子だけど、それに反発して男子みたいに走り回った。
「憧れるよな。格好いい」
「お? アユムちゃんもミラクルフォースにハマった? サブスクで過去の話も見れるよ。見ようよ。一話から」
「おう。見てみるか」
遥の絶妙なタイミングでの布教が成功したらしい。
「トンファー仮面も一話から観たいな」
「それも見れるはずだよー。歴代の仮面シリーズもサブスクに入ってるはず」
「はー。都会ってすげぇな」
ネットのサービスだから、都会関係ないと思うけどな。
その後、遥とラフィオが揃って朝食を作り、まだ起きてこない愛奈以外で食べて、その後はのんびりと過ごす。アユムはネットに繋いだテレビでトンファー仮面を一話から見ていた。
「ミラクルフォースじゃなくて、トンファー仮面に行っちゃったかー。布教もうまくいかないなー」
「そのうち見るだろ、ミラクルフォースも」
「うん。期待しましょう。愛奈さんそろそろ起きるかな」
「何もないと、昼過ぎくらいまで寝るからな。特に昨日は深酒したし」
「そんな生活して、よく太らないよね」
「謎だよな」
「スタイルいいっていうか、細身だよね。胸も含めて」
「そう言ってやるなよ」
やることがないから、遥と中身のない会話をしながら、なんとなくテレビのトンファー仮面に目を向けていると。
スマホから警報音がした。
フィアイーターが出たらしい。
「近いぞ。駅の方だ」
「またあそこか。よく出るよな」
「キエラのお気に入りなんだろう。魔力の流れも濃いし。行くぞ」
「みんな、先に行ってくれ。姉ちゃん起こしてくる」
キッチンまで行って、フライパンとお玉を用意する。
「よし! じゃあ行きますか! アユムちゃんも来るよね?」
「お、おう! そうだな。魔法少女にならなきゃいけない……」
アユムが受け取ったままの緑色の宝石を握りしめた。




