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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第9章 追加戦士

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9-22.アユムの歓迎会

 今は、スパイが世界を駆け回りながら巨大な悪の陰謀を打ち砕く、みたいな内容の映画がやっていて。


「お、おお…………うあ……」


 危険なアクションシーンでもスタントを使わず自分でやるのをポリシーとしていることで有名な俳優が、バイクに乗ってイタリアの古都をカーチェイスしていた。


「おお……すげぇ……」


 さらに、敵に追われながらヘリコプターから宙吊りになりながらの銃撃戦を繰り広げていて。


「マジか……こんなことやれるのか……」


 そして至近距離からの大爆発に巻き込まれていた。


「おわー!?」

「アユムちゃん、ちょっと静かに」

「ご、ごめん……でもすごすぎて……映画ってやばいな」

「だよねー。すごいよねー。わたしは、アユムちゃんの反応もすごいなって思ったなー」


 本当に、やること全部に素直に反応するからな。




 映画が終わる頃には、日が傾きかける時間。


「じゃあ、帰ろうか」

「そうだねー」

「なあ。夕飯はどうするんだ? ここで食べていかないのか?」


 アユムは、さっきカフェでモーニングを食べたみたいに、未知なる文化に触れたそうな顔をしていた。


 この街なら、お洒落な夕食を食べることもできるだろうな。それに昼食も食べていない。お腹がすいていることだろう。

 けど。


「夕食は、ちゃんと用意してるから。じゃあ行こっか」


 にっこり笑う遥に促されて、アユムは車椅子を押しながら駅に戻っていく。


 帰る先はマンションではなく、庭がある拠点の家。そこでは既に、バーベキューの用意ができていた。準備したのは。


「こんばんは。前に会った時は、ちゃんと挨拶できなかったものね。樋口一葉よ。もちろん偽名だけど」

「わー。かわいい。お洒落してきたんですね! わたし、テレビもふもふのアナウンサーの澁谷です」

「初めまして! わたし、愛奈さんの後輩の市原です。よろしくね」

「そして僕が、遥たちの先輩だよ。陸上部のマネージャーで、魔法少女のコスプレイヤー」

「お、おう……コスプレイヤー? アナウンサー?」


 知らない人たちに一斉に挨拶されて、アユムは固まってた。


 樋口は、あのアパートから着替えや制服を持ってきてくれたから少しだけ対面してる。色々ありすぎて印象に残ってない様子で、ほぼ初対面だけど。


 改めて見れば濃すぎるメンバーだよな。会社の後輩はともかくとして、コスプレイヤーにアナウンサーに、明らかに偽名の公安って。

 剛なんて、いかにも男な名前の先輩は、ふわりとしたロングスカートに薄手のブラウスって格好だし。


 受け止め方に困ったアユムが、またフリーズしてしまった。濃い一日になってるな。


「樋口さんたちはね、魔法少女の戦いのサポートをしてるんだよ。澁谷さんはテレビの力で、魔法少女のイメージを高めてくれてるし。わたしもこの前、テレビに出たよ」

「あ。あの時のアナウンサーか! 28時間テレビの!」

「見てくれたんですね。ありがとうございます」

「すげぇ。アナウンサーと知り合いなんて魔法少女やべぇな……」

「アナウンサーって言っても、大したことはないわ。怪物と戦ってる魔法少女の方がずっとすごいって、わたしは思います」

「そう言い切れる人間性がすごい」

「もー。澁谷さんってば根が真面目なんだからー。ほら、もっとお酒飲んで! パーッといきましょう!」

「姉ちゃんはもう少し真面目に生きような」


 澁谷に後ろから絡んでいく愛奈を、俺はすかさず引き剥がした。


 これはアユムの歓迎会だ。ひとりで勝手に盛り上がるな。


「悠馬ー! 寂しかったー! なんで家にいなかったのよ!」

「寂しかったなら、姉ちゃんも一緒に来ればよかったのに」

「やだ! 眠たかったから! それより、お酒注いで!」

「自分でやれ」

「えー? 仕方ない! 麻美飲むわよ!」

「はい! 先輩!」

「飲みすぎるなよ」

「ほらほら。澁谷さんも樋口さんも。飲むわよ!」

「ふっ。今日はわたしも気合い入れて飲むわ」

「おい公安。お前割と頻繁に飲んでるだろ」

「わたしも。明日はお休みだし飲んじゃおっかなー」

「ふたりともそう来ないとねー! アユムちゃんも飲む?」

「やめろ。未成年」

「公安が許すわ」

「許すな」


 この大人たちの近くにいたら、アユムが駄目になる。手を引いて離れさせた。


 主役を放り出して好き放題に飲み始めた成人女性たちを放っておいて、俺たちは家の中に入る。

 手作りプリンを作ると言っていたラフィオとつむぎだけど、今はリビングにしゃがみ込んでチョークを走らせていた。


「エデルード世界に行くための門の準備だ。また、石に魔力を溜めないとね」

「行けるのか?」

「ああ。行き来するための門を作るための魔石があれば、なんとかできる」


 魔法石か。遥が自分の足についた黄色い宝石に目を落とした。


「これと同じようなもの?」

「作り方は似てるけど、用途が違うから本質的には全くの別物だよ。ほら、魔法陣も異なる」

「同じに見える」

「わたしも」

「全然違うよ。だよね?」

「そうですよ悠馬さん。ほらここ。前はまっすぐだったじゃないですか」


 つむぎが魔法陣の中の曲線を指差した。いや、覚えてない。


「ここも、星ではなく丸でしたし。前の魔法陣はこうです」

「え、つむぎちゃん魔法陣描けるの?」

「教えてもらったので!」


 紙に鉛筆で、目の前のと似たような魔法陣をサラサラと描いていくつむぎ。


「魔法石が無いと魔法なんか使えないですけどね」

「あれば使えるようになるし、作る方法を知ってるんだ、つむぎちゃん……」


 小学生が謎の成長を見せている。子供の知識吸収能力はすごいな。

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