9-20.アユムのファッション改革
「あとアユムちゃん。一番大事なことだけど」
「おう。なんだ」
「おしゃれしなさい」
「……?」
「華のJKがそんな格好してちゃだめです! おしゃれしないと!」
「え。それスマホ関係ない」
「大ありです! SNS時代の高校生はファッションに気を遣わないといけないの! ほらこっち!」
「おい! 悠馬! こいつなんとかしてくれ!」
「頑張れ」
俺には遥を止められない。
大都市だから服屋は大量にある。とりあえず向かったのは、駅に隣接している百貨店。以前、フィアイーターになった金時計と戦った待ち合いスポットは、業者の工事によって元の姿を取り戻していた。
その金時計前を通りながら、再度スパイラルタワーのある方へ向かう。
「若者向けのお店なら、模布鉄百貨店の方が充実してるかもしれないけどね。こっちはどっちかと言えば、マダム向けというか」
「俺にはその違いがわからない」
「十分すげぇだろ」
この百貨店にも高校生向けブランドのお店はちゃんとあった。
「うわ高え。服って高えな。なんで布にこんな値段が」
「本当にな。着れればなんでもいいのに。布だぜ」
「もー! 悠馬もアユムちゃんもわかってないな! とりあえずアユムちゃん。これ試着して!」
車椅子で器用に店内を動き回りながら、アユムに着せる服を選ぶ。
まだまだ暑い天気が続くこの時期のための、薄めのワンピース。
「着て!」
「お、おう……。なあ、これどうやって着るんだ?」
「見せて!」
試着室の前の車椅子。中にはアユムと遥がふたりで入っている。どんな状況だよ。
「とりあえず脱ぎなさい!」
「んあっ!? ちょっ! やめろ変なところ触るな!」
「いいじゃん。一緒のベッドで寝た仲だよ?」
「そうだけど! 自分で脱ぐから!」
なんか、誤解を与えそうな会話だな。
数分後。
「じゃーん! 悠馬見て!」
カーテンを開けた遥が、壁に体を預けながらアユムを見るよう促した。
当のアユムは、見てもらうどころではないけど。
「なあ! これスカート短すぎねぇか!?」
「わたしもこれくらいの長さだよ?」
「よくそれで過ごせるな!」
「JKですから!」
意味がわからない。
「でも悠馬、見て。今のアユムちゃん、かわいいと思わない?」
「それは思う」
「おあっ!?」
俺の素直な感想に、アユムは顔を真っ赤にした。
ワンピースのスカートは丈が短くなっていて、それを気にして恥ずかしそうに体を縮こまらせているのはともかくとして、アユムは元々容姿もスタイルもいい。普段見ない格好だからインパクトがある、というのもあって、かなり魅力的に見えた。
「似合ってるぞ。もっと堂々としろ」
「お、おう!」
「仁王立ちするのも、ちょっと違う気はするけどな」
「じゃあどうしろって言うんだよ」
「んー。でも、アユムちゃん胸が大きいからなー。ワンピースだと太って見えちゃうかも。ベアトップの服とかで、肩とお腹を大胆に出してみて、スカートはレザーとかの方がいいかな」
「なあ悠馬。アタシを見る遥の顔が怖いんだけど」
「諦めろ」
「アユムちゃん! 次はこれ着て!」
「なんでだ!?」
再度試着室しつに押し込まれるアユム。頑張れ。強く生きろ。
「うん! これがいい! 店員さん、これ買います! このまま着ていきます!」
「お、おい! この格好で街を歩けっていうのか!?」
「そうだよー」
「お、お腹出てる!」
「そういうファッションです」
「足もスースーする!」
「スカートだからねー。制服は普通に着てたじゃん」
「あれは長いからいいんだ! これは短すぎる! あとこれ、その……紐が……見えて」
「あー。チューブトップのブラ、買いに行こっか」
「下着も!?」
「てかアユムちゃん、パンツもブラも安物すぎだよ。良くないよそういうの。不揃いなのも駄目」
「な、なんでそんなこと言われなきゃいけねぇんだよ」
「ほら。下着売り場まで行くよ!」
「俺はつむぎたちと別行動するから、終わったら呼んでくれ」
「あ! おい悠馬逃げるな! おい!」
女の下着選びには、さすがに付き合えない。てか、俺が同行したら不審者だろ。
「つむぎ。どこか見たい店はあるか?」
「デパートって、服屋さんばっかりでつまんないですね」
「それは俺も思ってる。てか、デパートに限らず服屋多すぎだよな」
「それだけ、世間の人間は服に関心を持ってるってことだよ。君たちとは違ってね」
「本屋さん行きましょう」
「わかった」
「君たちは本当に色気がないね」
ラフィオに言われたくはない。
このデパートには割と大きな書店もある。
「つむぎって普段、どんな本を読むんだ?」
「絵本とか動物図鑑とか」
「そんな気はしてた」
絵本には動物のキャラがたくさん出てくる。
「漫画とかも読みますよ! あとミラクルフォースの本とか」
「子供向けの本かな」
「まあ、そうですね」
キラキラかわいい魔法少女の活躍ではなく、その近くにいるモフモフの妖精キャラ目当てだから、世間一般の子供がミラクルフォースを見るのとは、また違う感覚。
つむぎの歳の女の子が本来読む本ってなんだろうな。ちょっと背伸びした感じのファッション誌とか?
「普通に小説を読むだろ。その年齢に合った児童文学が沢山あるし、大人向けの小説だって読む子は多い」
児童向け文庫の棚を見せながら、ラフィオが呆れながら言う。




