9-16.みんなでシェアハウス
『実際、あのアパートが住めるようになるまでには少し時間が掛かるわね』
「そうか。女川アユムも住民なんだ」
『ええ。知ってる』
「代わりの住居、見つけられないか?」
『あの家に住ませなさい』
まあそうなるよな。家を持ってるんだから、住むのに使うべきだ。
「悠馬。誰と話してんだ?」
「公安の協力者。アユムの住む場所について相談してる。魔法少女の基地というか、拠点にしてる一軒家があるんだけど、どうする?」
「そうか。アタシのために。ありがとう……一軒家?」
「そう。つい最近までリビングにチョークで魔法陣描いてたけど、それもなくなったから住みやすくなってるはずだ」
「いや。週末には新しい魔法陣描くぞ」
「マジかよ。なんでだ」
「エデルード世界に踏み込むための門を作る。また時間がかかるけど」
「また、ラフィオと一緒に河原まで石を拾いに行くの?」
「そうなる」
「やったー!」
なんでつむぎは嬉しそうなんだ。ラフィオと一緒なら何しても嬉しいのか。
確かに、前にもそんな話をしてた気はするけれど。それだとあの家は住みにくいだろうな。
というか、あまり繊細な性格をしていないアユムが魔法陣を踏むとかして壊してしまうのを、ラフィオは警戒しているらしい。
「あの家ではなくて、ここに住ませればいいじゃないか。家族用のマンションだし、狭くはないだろ」
「あー。それは……そうなんだけどな。アユム、ここに住めって言われたら、困るか?」
「ここか!? その、悠馬と同じ家に?」
「うん」
「こ、困らないな。ああ。困らねぇ! 住みたい!」
「ちょっと待ったー!」
ほら来た。俺もアユムをここに住ませるのは反対じゃない。
問題があるのは遥だ。
「あ、アユムちゃんが悠馬の家に!? 住む!? 駄目駄目そういうの良くないと思う!」
「別に一緒の部屋で寝る訳じゃないから、いいだろ」
「良くない! なんか! 良くない! 悠馬!」
「な、なんだよ」
「わたしもこの家に住む!」
なんでそうなる。
「もしもしお母さん!? わたし悠馬の家の子になる!」
「いきなり電話で変なこと言うんじゃない」
「あうっ!」
スマホで実家に電話した遥の行動力は、すごいけど褒められたものじゃない。頭にチョップをして冷静さを取り戻させる。
「かくかくしかじかで悠馬の家に住むことになりました!」
取り戻せなかった。
電話の向こうから母親の困惑した声が聞こえてくる。しかし、遥の粘り強い交渉の結果。
「オッケーだって」
「なんでそうなる」
いいのか、神箸家はそれで。
「なんかね、彼方が賛成してくれたの。お姉ちゃんの好きにするべきじゃないかって」
「なんで彼方が」
「わかんないけど、わたしの恋を応援してくれてるんだと思うな! いやー。普段から尊敬されるお姉ちゃんやってたし、日頃の行いの成果だね!」
親指を立てるな。
「というわけで、よろしくねアユムちゃん!」
「お、おう。よろしく……」
勝ち誇った顔の遥と、当惑しながらも俺の家に住むことを受け入れたアユム。ふたりは睨み合いながらも、どちらからともなく手を差し出し握手する。
ギリギリと、互いの手に握力を込めているのが伝わってきた。なんなんだこれは。
「ところで、わたしたちどこで寝ればいいの?」
「つむぎと同じ、両親の寝室かな」
「そうね。つむぎちゃん、それでいい?」
「あそこ、ベッドふたつしかないですよね」
「確かにな。誰かが同じベッドで寝る事になるかな」
「わたしがラフィオの部屋に移ってもいいですよ!」
「それは駄目だ」
ラフィオが使ってる兄貴の部屋もベッドはひとつしかない。というか、男女で同じ部屋は駄目だ。
ちびっ子たちは油断ならない。隙あらばくっつこうとする。
「仕方ない。アユムちゃんと一緒に寝てあげますか」
「なんで遥と一緒なんだよ」
「つむぎちゃんはひとりでベッド使いたいよね? 先客でもあるし」
「そうですねー。ラフィオと同じベッドならむぐ」
「やめておけ」
当のラフィオに口を塞がれてしまっている。お前も同意見で良かったよ。
とにかく話は纏まったようだ。
「じゃあ、明日は早く起きないとね。学校行くにしても、アユムちゃんさっきのアパートに制服とか置いたままでしょ? 取りに行かないと」
「樋口に持ってきてもらおう。制服と教科書類と、他にも必要なものを一式」
どうせアパートは今、警察が規制線を張って出入りできない状態だろう。公安の力を借りるしかない。
「わたしも、ここから通うには家から色々持ってこないといけないし。後で取りに行かないとね。悠馬と一緒に! 悠馬と!」
これみよがしに強調する遥。いいんだけどな。
「あ。アタシもついていっていいか? 挨拶したい」
「そうだな。人手は多いほうがいい」
「えー」
露骨に嫌そうな顔をするんじゃない。
そんなわけで話は決まり、冷蔵庫からビールを持ってきた愛奈に飲みすぎるなと釘を刺してから神箸家に三人で向かう。
「アユム、車椅子押してみるか?」
「お、おう。じゃあやるか……」
「ゆっくり押してね。というか、なんで悠馬が譲るの?」
「今後はこういう機会もあるだろうから」
「悠馬に押してほしいんです!」
そんなやり取りをしながら、遥の家に付くのに時間はかからなかった。




