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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第9章 追加戦士

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9-12.迫る黒タイツ

 ショッピングカートが怪物へと変えられてしまったらしい。押す際に持つ取っ手の部分が腕のように発達していて、それを振り回しながら車輪を自ら動かして走る。


「フィー!」

「フィー!」


 黒タイツたちが、それを必死に追いかけていた。


「フィアアアァァ! フィアアアァァァァ!」


 威嚇するように咆哮を上げるそれは、ちょうどこのアパートの前で止まった。いや、なんでだ。


 恐怖を感じたからか。道にいた人たちは既に逃げ出して人影がない。ならば、近くの建物に隠れた人間を襲って恐怖を集めるしかない。


 ここは女性向けアパート。セキュリティを重視する、用心深い女たちが住む場所。あるいは、恐怖に人一倍敏感な人たちと言えるかも。そうじゃなくても、集合住宅なら人が大勢いるわけで、敵が狙うにはぴったりの場所だった。


「フィィィィアアアァァァァァァ!」


 いい獲物を見つけたとばかりに、ショッピングカートがアパートの敷地を囲む塀に激突。ブロックで作られた背の低い基礎の上は、薄いアルミ製。おしゃれな感じの塀だけど衝撃には弱かったらしく、簡単にひしゃげて隙間から黒タイツが次々に入ってくる。


「くそっ。アユム、重い荷物でドアを塞げ。あと、武器になりそうな物はあるか?」

「武器!?」

「もうすぐここに怪物が来るんだ。ドアが破られるかもしれない」


 キッチンに包丁はある。それはアユムに持たせよう。


 例えば本が詰まった段ボール箱なんかがあれば、それをドア前に積めば重すぎて敵の侵入を防げるはず。

 が、アユムの荷物にそんな物はなかった。衣類すら、あまり持ってなさそうだもんな。

 当然本棚もない。家具が揃ったまま貸し出されるアパートだから、風呂の脱衣場には洗濯機が置いてある。これを使おう。


「アユム、手伝ってくれ」

「ま、待ってくれ。わけがわからない」

「フィー!」

「ほら。敵が来てる」


 ドアの向こうから乱暴な声。黒タイツ共が、どこかのドアをぶち破ろうとしているのだろう。

 けどアユムは、手渡された包丁を握ったままオロオロするだけ。


 さらに、俺のスマホが鳴った。樋口からだった。スピーカーモードにして床に置き、出る。


『悠馬。今どこにいるの!?』

「アユムの家だ!」

『そ、そう』

「フィアイーターが暴れてるアパートにいる」

『あー。そのあたりだったわね。大丈夫なの?』

「今のところは。魔法少女たちは?」

『今向かってるわ。もう少し待って。あなたは動けそう?』

「アユムを守るのを最優先にしたい」

『ええ。わかったわ』


 樋口と会話しながら、洗濯機を引きずって玄関ドアの前に立てかける。

 ドアは外開きだけど、鍵無しで破るには押すしかない。洗濯機が支えて、時間が隠せるはずだ。


「な、なあ。悠馬。今の電話、誰からなんだ?」

「知り合いだよ。俺を心配してかけてきた」

「普通の知り合いなのか? なんか、魔法少女のことに詳しそうな感じだったし」

「それは……」


 洗濯機を運びながら会話するために、スピーカーモードにした。当然、アユムにも聞かれている。


「それに、なんか……怪物が出た時の対応が手慣れてるっていうか」


 驚き。アユムの表情から読み取れたのは、そんな感情。


「悠馬。お前もしかして」

「フィー!」

「ああ。来やがった」


 返事をする前に、ドアの向こうから黒タイツの声。ドンドンと壁を叩く音が聞こえた。


 入口のセキュリティはしっかりしてるアパートだけど、ドア自体は普通の作りだ。人間よりは力がある存在が複数でかかれば破られそうだ。

 繰り返し殴る音。ドア自体は金属製だから、これが砕けることはない。けど、錠前の機構や蝶番がひしゃげるのは時間の問題。


 実際、メキメキと嫌な音が聞こえ始めていた。


「ひっ! ゆ、悠馬……」

「怖がるな。奴は恐怖を欲しがってる。怖がったら思うつぼだ」

「でも……」

「俺の知ってるアユムは、もっと強気で物怖じしない奴なんだけどな」

「そんなこと言われてもよ! 怪物だぜ!? 怖いものは怖いだろ!」

「じゃあ、俺が守ってやる」

「あ……」


 彼女の震える手に触れる。

 そのままでは、包丁は扱えないな。これを貰い受けて、ついでにアユムの頭を撫でた。


「心配するな。俺は強いんだ」


 優しい言葉をかけた。かけ続けたかったけど、その暇はなかった。


 ドアが破られる音。俺はすぐにそっちへ駆け出す。


 壊れたドアをどかせた黒タイツたちは、そのまま部屋に殺到しようとして洗濯機にぶち当たってしまう。動きが止まった黒タイツの一体に狙いを定めて、首に包丁を刺す。


 切るための道具であって、刺すのには向かない形状。けど、首を一突きすればなんとか殺せた。消滅していく黒タイツから包丁を引き抜くのは容易で、また次の黒タイツはすぐに殺せた。


 けど、その次は無理だった。敵は複数人で洗濯機を押していて、俺ひとりでもなんとか運べたそれをどかすのは敵にも可能なこと。

 こちらに倒れてくる洗濯機に巻き込まれないよう、俺は一歩引くしかなかった。同時に殺到してくる黒タイツたち。


「アユム! ベランダに逃げろ!」

「そんなこと言われても!」

「戦えないなら、せめて逃げろ!」

「悠馬はどうするんだよ!?」

「見ての通り戦ってる!」


 こっちに飛びかかってきた黒タイツの腕を回避して胸に包丁を刺す。武器として作られてはいない包丁は、この攻撃でぽっきりと折れてしまった。

 よくあることだ。気にはするまい。

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