9-8.アユムの不登校
そりゃ、女と見れば近づこうとする奴ではあるけど。アユムだぞ。あのガサツで暴力的な女でも、お前は付き合いたいのか。
付き合いたいのだろうなあ。
「好きになったならお前の自由だ。俺は応援する」
「だったら! 悠馬お前が女川さんを不登校にしたなら、お前がなんとかすべきだろ!」
「それは……」
俺が不登校にしたのも、間違いではない。けど、向こうが全面的に悪いし俺にその義理はない……と思う。
「おい悠馬! どうにかしてくれ! てか、何があったんだ!?」
「簡単なことだよ。アユムちゃんは悠馬と小学校の頃に会ってて、悠馬のことがが好きになったの」
「おい」
遥がこっちに来ながら説明し始めた。なんか余裕そうな態度がムカつく。俺とアユムと同じく当事者だけど、一歩引いた立場で見てます感があって。
車椅子を他の女子が押しているし、その女子はニヤニヤと笑みを浮かべている。その手の話が大好きな子なんだな。そして、遥は既に何人かに昨日の話を広めている。
「再会したアユムちゃんが悠馬に告白したんだけど、悠馬にはわたしがいるからって、きっぱり断ったの。そう! わたしがいるから!」
親指立てて、そこを強調する。
事実を少し歪曲させて、俺もアユムもなんとか評判を落とさない程度の出来事として説明してくれたのは嬉しい。
女子たちも、よく知らないアユムが下手な行動をした結果だと受け取ってくれたようだ。告白するにしても、久々に会ったなら段階を踏まないと、みたいな。
一方、沢木含めた一部の男子たちは。
「おい。女川さんと幼馴染ってどういうことだ」
「詳しく聞かせてもらおうか」
「昔から巨乳だったのか?」
「俺を紹介しろ」
「双里だけモテて羨ましい」
凄まじい圧をかけてきた。そんなに魅力的か、あの女は。胸か。胸が理由か。てか幼馴染ではないからな。
説明すると長くなるからはぐらかして、けど沢木たちはしつこく食い下がる。さすがに、チャイムが鳴ると授業を受けるために席に戻るが、休み時間の度に俺を逃がすまいと迫ってくる。
疲れた。
「これでは、新しい魔法少女を探すどころではないね」
ようやく解放された放課後。バスの中でラフィオが呆れ気味に言う。こいつの目的は一貫してこれだ。ああ、立派だとも。俺もアユムの件を解決させて、比較的穏当な魔法少女探しに専念したい。
「これ、アユムちゃんが学校に来ない限りは収まらないと思うな」
「それは俺も思う。けど、どうする? あいつの家に行って説得でもするのか?」
「そうするしかないんじゃない? 樋口さんなら、もうアユムちゃんの情報を掴んでるかも」
「もしもし樋口?」
「電話するのが早い。てかバスの中」
そうだった。焦りから忘れてた。
「悠馬もしかして、動揺してる?」
「してる……」
「初めて、魔法少女と共に戦うと決意した時より動揺してるみたいだね」
「あの時は必死だったから」
「必死だとしても動揺することはあるからね」
「愛奈さんの戦いを助けなきゃって思ったのかな。妬けるなー」
「なんでそうなるんだよ」
「一応、彼女の地位は握ってるけど、ライバルが多いから。愛奈さんにアユムちゃん。あと樋口さんと澁谷さんも」
「後半は関係ないだろ。いや前半も違うんだけど」
「あの大人のお姉さんたち、明らかに悠馬を狙ってると思うんだよね」
「ないから」
「むむむ……悠馬のハートを完全に射止めるには、どうすればいいんだろ。悠馬はどう思う?」
「本人にだけは訊くんじゃない」
そんなくだらない会話をしつつ、いつものバス停で降りて俺の家に入り、すぐに樋口に電話をかけた。
『ええ。女川アユムの情報は入手してるわ。さすがに実家の詳しい事情は、警視庁ともここの県警とも管轄が違うから、探るのにもう少しほしいけど』
「助かる。わかってることを教えてくれ」
『犯罪歴なし。過激派に所属した過去もなし』
「だろうな」
そういうことを聞きたいんじゃない。
『女川アユムは、八月の下旬に模布市に引っ越した。単身でね。住民票はこちらには移してない」
「ひとりで越してきた?」
『ええ。ひとりよ。理由はわかないけど』
「きっと悠馬を追いかけてきたんだねー」
「うるさい」
スピーカーモードにしてるから、通話は遥にも聞こえている。
俺に会うために、高校生が単身で転校? さすがにないと思う。
というか、アユムが俺について知ってる情報は、模布市に住んでるってことだけだ。お互いの家に大した交流はないし、アユムの両親が俺の住所を知っているとも思えない。
『理由はわからないわ。本人に訊きなさい。住所もわかったから』
「そうするしかないか……」
昨日、泣かせてそのまま別れたきり。会うのは気まずい。会ってくれるかもわからない。
わからないけど、放置してるとクラスメイトにウザ絡みされる期間が長引きそうだ。対処してアユムが登校してきても面倒そうだけど、対処せずに登校されるのが一番面倒。
「行くか」
「よし! わたしも行きます!」
「面倒なことになりそうだから、やめておけ」
「えー! でも!」
「俺になんとかさせてくれ」
アユムが俺に対して激高したのは、遥の存在が理由。同席したら、アユムはまた怒る。いなくても怒りはするだろうけど。




