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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第9章 追加戦士

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9-5.恋愛脳たち

 神社の裏ではよく見えないから、移動した。

 この町で見る花火も、綺麗だった。


「な、なあ。悠馬」

「うん」

「オレと、これからも一緒に遊んでくれないか?」

「それは……無理だと思う。俺、もうすぐ帰ることになるから」


 祖母の遺品整理も、じきに終わる。ずっとここにいるわけにはいかない。


「じ、じゃあ! また会ったら! 会えたら遊びに付き合ってくれ!」

「会えないと思うけど……」


 俺がこの町に来たのは、祖母が亡くなったから。もう、来る理由がない。


「けど! 会えるかもしれないだろ! いいな! 約束だぞ!」


 強引に言ってのけたあと、アユムは返事も聞かずに走り去っていった。浴衣なのも気にすることなく。


 その寸前。花火に照らされた彼女の顔は、真っ赤だった。



 それからすぐに、俺は両親に連れられ、名残惜しそうな兄貴と共に模布市へと帰っていった。



――――



「へー。悠馬にそんな過去が」


 俺の話を聞いた遥が、驚きの表情と共に言った。



 夏休み明けの今日は、始業式が終われば昼前にさっさと下校になる。この体育館で校長のありがたく中身のない話を聞いた後に、教室で軽く終礼をした直後に、俺とアユムの周りにそれぞれ人だかりができた。

 どっちかといえば、転校生であるアユムの方に注目が集まってた。


「女川さん。家はどのあたり?」

「どこから来たの?」

「アユムちゃんって呼んでいい?」

「双里くんとどんな関係?」

「歓迎会開きたい。今から行かない?」

「いいねそれ! カラオケとファミレスどっちがいい?」

「か、カラオケ!? それはあの、カラオケなのか!?」


 アユムの地元にはカラオケもなかったのかな。歌えるスナックはあったかもしれないけど、縁のない場所だろうし。


 俺も四方から声をかけられた。


「おいあのエロい女とどういう関係なんだよ」

「俺を紹介しろ」

「あの子のこと教えろよ」

「神箸というものがありながら見損なったぞ」

「モテる男は辛いねえ」


 うるさい。黙れ。アユムとはそういうのじゃない。というか、あの野性味溢れる態度を見ても近づきたいって奴がいるのか。なんでだ。体つきか。確かに、あの時とは比べ物にならないくらい女っぽい体になってたけど。


「はいはい。そこまで。悠馬帰ろ!」


 俺の周りの人だかりを車椅子でガツンガツンとぶつかって押しのけながら、遥が割り込んで俺を助けて連れ出してくれた。かなり助かった。

 で、人目につかない体育館裏まで逃げて、遥とラフィオにアユムとの出会いを説明したというわけだ。


「なんというか、悠馬にも田舎ってあったんだね」

「行った記憶は、その一度きりだけどな」

「そっか。お祖母さん亡くしてるんだもんね。辛いこと思い出しちゃった? ごめんね」

「いや、いい。その祖母とは、会った記憶もほとんどないから。悲しいとも思わなかった」


 だから、この話に悲しい所はどこにもない。

 それよりアユムのことだ。


「あれだね。男の子だと思ってた子と再会したら、実は女の子でしたってやつ。思ったより身近にあったんだね」

「ちょっと違ってるからな。再会する前から女の子と知ってた」


 実は女の子でした、は正しいけど。


「でも今の話を聞くに、悠馬はあの子には好きとかそういう気持ちはないんだよね?」


 遥が一番知りたいことはそれらしい。当然だろうけど。


「ない。恋愛感情なんか持ってない」

「よし!」


 すかさずガッツポーズを見せる遥。握りこぶしをしつつ、親指が立っている変則的なポーズだ。


「それがわかればいいんだよ。確かに悠馬の話だと、アユムちゃんは約束なんかしてないっぽいしね。というか付き合うっていうのも、遊び友達としての関係みたいだし」

「うん。その通りだ」


 嬉しそうだなあ。いつの間にか、ちゃん付けで呼んでるし。


 遥と恋人関係になっているのも、魔法少女として活動するのに都合がいいからで、俺の方からすればアユムと同じくらいには恋愛感情は薄いのだけど。

 それでも遥は、俺が他の女に好意を向けさえしなければ、表向きの恋人関係を続けて既成事実の積み重ねでゴリ押しできると考えてるらしい。


 いいのかそれで。いいなら付き合ってやるけど。魔法少女の戦いのために。


「じゃあ、アユムちゃんが思い込んでるだけなんだね。確かにさっきの話だと、アユムちゃんは一世一代の告白をした感じだもんね。本人の中では」

「そうなのか?」

「ああ。僕にもそう思えた」

「ラフィオまで」

「考えてもみてくれ。アユムはどうも、その性格から周りに馴染めずにいたんだろう? 女の子らしく振る舞うことを強いられてきた。そこに、自分を受け入れてくれる悠馬が現れた」

「だから告白したって?」

「そうとも。ドラマだねぇ」


 ラフィオがそういう恋愛ものを好きだから、そんな発想になるのだろう。


「男の子として振る舞いたいのなら、男に告白することはないだろ」

「わかってないね」

「だよねー。だから悠馬は鈍いんだよ」


 なんだよふたりして。こっち見てニヤニヤしやがって。


「男の子っぽく振る舞うことと、自分が女の子なのは別なんだよ?」

「男の子に混ざって遊びたい気持ちはありつつ、自分は女の子ってわかってるもんね」

「友達として遊びたいという気持ちが好意に切り替わること、あると思うよ」

「悠馬もアユムちゃんに連れ出されるのが、最初は嫌だったけどだんだん楽しくなってきたでしょ? 同じようなものだよ」

「人の心の機微とは、面白いものだね」

「尊いよねー」


 なんで、このふたりが理解し合ってるんだ。俺のことなのに。

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