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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第9章 追加戦士

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9-4.浴衣のアユム

 実際、アユムは映画館で映画を見た経験がないらしい。テレビでやってるアニメの劇場版とは、一年以上後にテレビ放送されるのを待って見るもの。

 サブスクも、当時あの家では加入してなかったそうだし。アユムはスマホも持っておらず、自分で映像を自由に見れる端末がなかった。


 大型のショッピングモールもなくて、バスで一時間かけて駅まで行った所に建っている、大きめのスーパーがアユムの知ってる世界の限界。

 一度一緒に行ったことがある。すげぇだろとアユムが見せた、小ぶりの二階建ての建物。


 一階は食品売り場と、店舗がふたつしかないフードコート。二階は衣類や雑貨売り場だ。小さいゲームコーナーもあって、夏休みということで家族連れが何組かいた。

 書店すらこの町にはないらしく、スーパーに本が少しだけ売っていた。雑誌と漫画と文庫本が、合わせてだいたい百冊ほど。


 あまりにも品揃えが薄かったけれど、町の文学少年や少女が学校の図書室以外で本に触れる唯一の方法のようだった。


「なんというか、本を読むには向かない町だね」

「そうか? 考えたことなかったからな」


 アユムの返答はそんなもの。本には縁遠い生き方をしてそうだから、驚きはしなかった。


 婆さんの店では売ってないという、袋入りの個包装のクッキをふたりで買って食べた。アユムにとっては滅多にできない贅沢なのだろうけど、俺の街では普通に買えるもの。

 それでも、家で食べるよりは少しだけ美味しかった。


 だんだん、この男と一緒に遊び回るのが楽しくなってきたある日のこと。


「悠馬。夏祭り行こうぜ」

「夏祭り?」


 アユムに言われたことを、俺はそのまま訊き返した。


「そうだ。街中の人が集まって、屋台とかあって花火も上がるんだ。すげえぞ」

「そう……」

「なんだよ。興味ないのか? 行こうぜ」

「いいけど」

「よっしゃ!」


 祭りなら地元でもやっている。それもかなり大きな規模のものが。それに比べると見劣りするとは思うけど、アユムにとっては年に一度のビッグイベント。

 行ってあげることにした。



 その夜。俺は見ることになった。

 俺の家まで迎えに来たアユムが、女物の浴衣を着ている姿を。


 淡い緑色の浴衣。髪も少し上げている。

 丈の長い服に不慣れなのか、アユム自身着心地が悪い様子を見せていて。


 アユムを男の子だと思ってた俺は、呆気に取られてその姿を見つめていた。


「なんだよ。似合ってないのはわかってるよ」

「そうじゃなくて。……お前」

「なんだ?」

「女の子だったんだな」

「悪かったな。らしくなくて。母ちゃんが無理やり着せてきたんだよ」


 どうやらアユムは、俺が今ようやく女の子と気づいたとは思ってないらしい。俺の言葉も、女の子っぽくなかったけれど、この格好だとわかりやすい、程度の受け取り方をしていた。

 俺が、ずっと女の子として接していたと誤解していたのだろう。


 本当のことを言えば怒らせてしまうだろうし、俺は誤解に乗っかった。


「だって、その。普段よりかわいくて」

「かわいい……そ、そうか。うん。そうなのか……」


 アユムは少し、顔を赤くした気がした。


「それより行くぞ、祭り! 早く! まったくこの格好走りにくい!」

「走っちゃ駄目だよ」

「面倒くさい!」


 俺の手を引いてるはずのアユムだけど、走って浴衣がはだけてしまうのを止めるため、途中から俺が引き止める形になってしまった。


 アユムに案内された夏祭りは、思った通り大したものではなくて。神社の境内にいくつかの屋台が並んでいるだけ。

 けれど屋台の店主も訪れる人も、みんな知り合いみたいなもの。気安い雰囲気があって、楽しそうだった。


 俺だけが知り合いではない。けど、アユムのおかげで居心地悪さも感じなかった。


 そんなお祭りだけど、そう長い間過ごしたわけではないと思う。規模が小さいというのもあるけど、アユムが周りからかけられる声に耐えられなかったのもあるだろう。 

 たとえ、それが好意的なものばかりだとしても、アユムには恥ずかしすぎたらしい。


「アユムちゃん今日はかわいいね」

「その格好だと普通の女の子だな!」

「普段からそうすればいいのに」

「隣にいる子は彼氏?」


 最後のは大きな誤解だ。こっちはただの友達。というか、毎日家から引っ張り出してくる厄介者と思ってるんだから。

 そんな声にアユムは耐えきれず、神社の裏手に回り込んでしまった。


「な、なあ。オレ、かわいいか?」


 ブルーハワイのかき氷の容器を握ったアユムが、顔を俯かせながら訊いてきた。

 神社の裏手は表の明かりも届きにくく、暗くて彼女の顔はよく見えなかった。けど、赤面していたように思える。


「うん。いつもはそう思わないけど、今はかわいい」

「そ、そうか。あんまり言われ慣れてねえんだよな、そういうこと」

「だろうね」


 俺も、いつもは違うと言ってるから。


「オレさ、こんな格好なんか好きじゃねえんだよ。もっと動きやすい格好で、走り回りたい」


 それは見てればわかる。


「けど、母ちゃんたちは女の子っぽいしろって言うし。学校の男子は女とは遊ばないって言うし。女子は、オレみたいなのはかわいくないから、一緒にいたくないって言うんだよ」

「そう、なんだ」


 なぜアユムが、俺に構ってくれたのか、ようやくわかった。


 都会から来た俺しか、遊び相手がいなかったんだ。


 俺が田舎の夏も少しは楽しいと思っていた頃、アユムも楽しんでいたんだ。


「ありがとな、悠馬。お前が来てくれて、オレすごく嬉しい」

「そっか……」


 その時、花火が上がる音がして、夜空が照らされた。表の方から歓声があがる。

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