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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第9章 追加戦士

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9-3.田舎の思い出

 七年前。小学四年生の夏休み。母方の祖母が亡くなった。


 もう数年前に祖父が先立っていたために、祖母の家は住人が消えて、いくつかの遺品が取り残されることになった。

 それらと家自体の処分のために、俺の両親は家がある田舎へと向かう。未成年だった俺と兄貴の春馬も一緒に行き、その田舎町でひと夏を過ごすこととなった。


 愛奈は大学生活が忙しいとか楽しいとかで、来なかった。

 田舎で退屈に過ごすよりは、大学の友達と遊び呆けていた方が楽しいに決まってる。

 愛奈にしては賢明な判断だ。そして俺と兄貴にはできないことだった。



 模布市から距離がある、名前は知っていても普段そんなに意識しない県の、名前すら知らない街に祖母の家はあった。


 緑一色の森に覆われた山々に囲まれ、舗装された道路など無くて雑草の生えた道を車が走っている。家々の間がやたらと広く、コンビニなんて遥か彼方の駅の前に行かなきゃ建ってない。

 一日中セミが鳴いてるし、夜はカエルがゲコゲコとうるさい。


 土と草のおかげで都会よりはマシらしいけど、うだるような暑さはガキの頃の俺には違いがあるようには思えなかった。


 両親は葬儀の手続きや、家の売却手続きや遺品の整理に忙しく、息子たちに構っている暇はないようだった。外で遊んでろ言われても、俺には無理だった。


 当時の俺は、たぶん今よりも少し気が弱くて、引っ込み思案だったのだと思う。


 宿題に対する真摯さは当時からあったから、家の片隅でノートを広げて早めに終わらせ、あとはなんとか電波が入るスマホを眺めて模布市に帰るまでの時間を過ごそうとしていた。

 兄は早々に田舎を満喫していたな。近くに川があるらしい。今思えば、釣りなり潜水なりを楽しんでいたのだと思う。水生生物の研究者になりたいって夢を知ったのは、兄貴が亡くなってからずっと後のこと。


 とにかく俺は、ひたすら外に出ずに田舎をやり過ごそうとした。

 けど、できなかったらしい。アユムのせいだ。


 アユムが俺を初めて認識したのは、祖母の葬儀の場だったらしい。俺は祖母のことをよく知らない。数回は会ってるはずだけど、印象に残ってない。けど地元では慕われた人だったらしく、葬儀には大勢が来た。

 そこ中に女川家の人たちもいたらしい。俺にとっては、大量にいる知らない誰かのひとりで、その時点では俺はアユムのことなど一瞬で頭から抜け出ていた。


 しかし、葬儀の翌日。


「おい! お前! 都会から来たって本当かよ!?」


 奴は、祖母の家まで乗り込んできた。


「えっと……君は……」

「オレは女川アユム! お前、東京から来たんだって!?」

「東京じゃないよ。模布市っていう」

「どっちにしろ都会だろ! 来いよ! この町案内してやる!」

「うわっ! ちょっと待ってよ!」


 Tシャツに短パン姿。胸は真っ平らで髪も短いそいつは、祖母の家まで上がりこんで俺を見つけると、腕を掴んで一瞬にして外に連れ出してしまった。

 なんて乱暴な男の子なんだろう。それが第一印象。


 そう。女川アユムと名乗ったその子を、俺は最初は男だと思って接していた。


 アユムの意図を測れないまま、俺は大して見るものがあるとも思えない田舎町を連れ回されることになった。


 延々続く緑色の景色。アクセントのように流れる澄んだ川。ヨボヨボの婆さんがやってる小さな商店。一日に四本しか来ないバス停。小さな小学校。

 俺から見れば新鮮で、けど物足りない光景を一日中走り回って見ることになった。解放されたのは、日が暮れる頃だ。


 後から考えれば、家に引きこもって静かに過ごす、田舎の子供としては不健全な過ごし方をする俺を心配した両親か女川家の大人がアユムをけしかけたのだと思う。

 いい迷惑だったけど、大人しかった当時の俺は引っ張られるままに連れて行かれてしまった。


 その翌日にも、朝早くからアユムは来た。


「おい悠馬! 遊ぶぞ!」

「嫌だよ。テレビ見る」

「テレビなんてつまんねぇだろ! 大人がわけわからん話しかしてない!」

「俺にはわかるの」

「オレにはわからねぇ!」


 自分が馬鹿であることを堂々と宣言しながら、アユムは毎日俺を連れて行った。


 カンカン照りの太陽の下で、何をしたんだったか。走り回って、セミを追いかけ回したり川で釣りをしたり。婆さんの商店でアイスを買い食いしたり。

 アユムは俺より元気で、疲れ知らずだった。あの時は間違いなく、俺より力があった。足も俺より早かった。

 普段から走り回っていたからなんだろう。


「これだから都会の奴は弱っちいんだよ! 鍛えろ!」

「アユムが強すぎるだけ。俺が普通」

「いーや! 悠馬は弱い! オレと力比べするか!?」

「やだよ。負けるから」

「男なのに勝負から逃げんのか! ほらやるぞ! 腕相撲!」


 案の定負けた。たぶんアユムは、俺に勝つことで優越感に浸りたかったのだと思う。


 俺のことを、自分より弱い子分と認識してたのかもしれない。けど、俺のために構ってくれたのも事実。


 そんな風に都会人を馬鹿にしたくせに、都会について教えてくれと言ったな。俺も小学生で、自由に行動できる範囲が多いわけではない。だからあまり話すことがあったわけじゃない。

 けど、親に連れて行かれた映画館や大きなショッピングモールなんかでも、アユムは目を丸くして聞いていたと思う。


「映画なんかで大げさな」

「いや。すげえよ。映画館って、こんなでかいテレビみたいなもんなんだろ?」

「テレビとは違う。投影機からスクリーンに映すんだ」

「でも、結局はでかいテレビなんだよな?」

「……」


 たぶん、説明してもわからないから諦めた。

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