8-44.夏休みの終わり
「あー! なんか芸能人になった気分! てか、芸能人って毎日こんなふうにテレビに映されるのに慣れてるの!? すごい!」
「毎日出るような芸能人は一部だろうけどな」
「てか通知止まらないんだけど! みんな暇なのかなテレビなんか見て!」
恥ずかしそうだけど、嬉しそうでもあった。
「なによ! 偉そうに彼女面なんかして!」
「まあまあ先輩。言わせておきましょうよ。悠馬くんは先輩が奪い返せばいいだけですから」
「ええそうね。欲しいものは略奪するのが一番よ」
「物騒な手段は使わないようにね。ほら、もっと飲みなさい」
「樋口さんも飲んでるー?」
「ええ。今日はオフの日だから好きなだけ飲むわよ」
「そうこなくちゃ!」
大人三人は、好き勝手なこと言いながら酒を飲んでる。こいつらは駄目だ、俺がしっかりしないと。俺と遥が付き合ってるという設定で放送されてるのが気に入らない様子だけど、今更すぎるよな。
「そういえばさ、更紗ちゃん、無事に向こうに引っ越せたって。彼方が教えてくれた」
遥が、ふと思い出したように言う。
「定期的に彼方に連絡が来てるらしいよ。向こうの、同じ病気の人が集まるサークルにも受け入れられたって。新学期から新しい中学で過ごすけど、きっとうまくいくはず」
「そうか、良かったな」
「わたしも新学期楽しみだなー」
「宿題、ちゃんと終わらせたもんな」
「そう! やればできる女です!」
親指を立てるな胸を張るな得意げな顔をするな。俺がさせなきゃ、今も終わってなかっただろうが。
二学期からは、日頃の宿題もちゃんとさせなきゃいけないな。
「な、なんか悠馬の顔が怖い」
「遥に勉強させるにはどうすればいいか、考えてたんだ」
「や、やだなー。勉強なんかしなくても、わたしは大丈夫、だよ?」
そんなことを言う人間が大丈夫だった試しはない。
「そ、それより! テレビ見ないと! ほら悠馬がわたしを押してる!」
「ああ、そうだな」
「みんなもテレビ見てるー? ラフィオもほら、ちゃんと見て!」
「一度、局で見ただろ。僕は忙しいんだ」
確かに、俺たちは一度見た映像ではある。露骨な話題逸しのために話を向けられたラフィオは、静かに自分の作業を続けていた。
春ごろに置かれていたその石は、河原から拾ってきたなんの変哲もないもの。灰色で、少し大きめで角ばっていた。
今ラフィオが手にして磨いている石は、エメラルドグリーンで綺麗に透き通っていて、照明を受けてキラキラと輝いていた。
同じ石だとは到底思えない。魔力を注ぎ込めばこうなると言われても、その過程を見ていない人間には信じられないだろう。
「新学期になったら、新しい魔法少女を探さないとね。できれば君たちの知り合いがいい。また学校で探させてくれ」
「いいけど、候補はいるのか?」
「部長とか生徒会長とかが、実が適正があったりとかしない?」
「残念ながら、しない。あのふたりは魔法少女にはなれない」
「ももちゃんは?」
「あの子も無理だな。適正高めの子を探すから、その子と知り合いか教えてくれ。知り合いならストレートに勧誘しよう。知らない相手なら仲良くなってくれ」
「俺たちの正体を明かして、か。うまくいけばいいけどな」
「怯えて断るだけならいいんだけどねー。SNSで、魔法少女の正体判明しましたとか言って拡散しそうな子も大勢いるから」
なにかあれば動画を撮ってネットに上げて、バズって有名になりたい奴はいるだろうな。そんな奴を引き込むわけにはいかない。
「厄介なものだね。ネットに大して興味を持ってない子を探せればばいいんだけど」
「そんな都合のいい相手がいるかな。探すのはいいけど」
「とにかく、まずは悠馬の高校からだ。次につむぎの小学校。それでも候補がいなかったら、街で探そう」
「婦警から探してもいいわよー」
酔った樋口が、どこまで本気なのかわからない提案をする。
それも最終手段として考えておこう。とにかく、夏休みが明けても忙しくなることは間違いなさそうだ。
――――
とりあえず部屋に荷物はすべて運び入れ、引っ越し業者は帰っていった。
間近に迫った新学期に備えて、ある程度荷物を開けて生活できる状態にしないと。大雑把な自分に、どれだけできるかは知らない。家具付きの部屋だから、なんとかなるだろ。
とりあえずベッドを雑に整えれば寝られる。あと服も数日分は出しておく。これで外には出られる。転校先の学校に制服を取りに行けば、学校にも行ける。
よし。とりあえずこれでいいか。
そうだ、テレビを見よう。この街は都会だから、見れるチャンネルが多いらしい。
電源をつけると、何かのドキュメンタリーをやっていた。どこかの公園で、女の子が乗った車椅子を男の子が押していた。
背景に、この街のシンボルのひとつであるお城が見えた。だから、ここのローカル番組なんだろう。
男の子は車椅子の子の彼氏だと紹介されていた。その男は。
「こいつ、悠馬か?」
見覚えがある人物だった。そうだ、この街に来た理由のひとつだ。
そいつが、彼女と仲睦まじく遊んでいた。
ギリッと、歯噛みする。
「悠馬てめぇ……アタシというものがありながら……」
静かな怨嗟の声が漏れる。
もうしばらく見ていると、学校のシーンが出てきた。
興味深いことに、転校する予定の高校に悠馬は通っているらしかった。




