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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-43.憑き物が落ちた

 殺人犯が判明したその日その場所で倒されたフィアイーターは、つまり噂のモフミドロの象徴となって人々を安心させた。


 まあいいか。人々が漠然とした恐怖を抱えてるよりは、安心してた方がいい。それが魔法少女のあり方だから。

 とにかく、これで事件解決だ。


「樋口も、よく電話してくる美穂って女から解放されたんじゃないか?」

「ええ。そうね。ちょっと寂しいけど」

「寂しいのか?」

「あの子、名前すら嘘ついてるわたしに疑いなしに接してきてくれて。可愛かったわね。でもいいの。警察に連絡しなきゃいけない事態なんて、ないに越したことはないわ」


 それもそうか。


「今は疑いが晴れた彼氏と仲良くすべき時。わたしのことなんて忘れていいのよ。あの子にとってわたしは、夏の間少しだけ現れた幽霊みたいなもの」

「もー。樋口さん幽霊だとか言わないでくださいよ。樋口さんはちゃんといて、その子にとって大切な思い出になるんです! たとえひと夏しか会わなかったとしても! ほら飲んで!」

「ありがとう。いいわね、ひと夏の思い出。あなたにもそんなのはいるの?」

「んー……いないわねー」

「ま、そんなロマンチックなもの、早々に出てくるものでもないわよね。悠馬はどうかしら」

「そうだな……」


 ひとり、脳裏に思い浮かぶ姿があった。

 けど、説明するのは面倒だ。


「いないな」

「だよねー」


 俺の嘘を呑気に信じた愛奈が、ビールを勢いよく飲んだ。

 夏の思い出か。普通に、知り合いとイベントごとを楽しむだけで十分だよな。



――――



 事件が解決して、夏休みも残すところ数日となった。


 ラフィオとつむぎはいつも通り、河原に石を拾いに行く。

 浩一という男が藻を採取しに来てないか探したけれど、彼の姿は見当たらなかった。


「大学の先生がいなくなっちゃったら、あの人これからどうするんだろうね」

「僕にもわからない。大学がなんとかすることだと思う」


 思えば親切な人だった。自分の師が道を踏み外していたと知って、孤独に戦い続けていた。

 出来れば幸せになってほしいし、そうであるべきだ。彼女さんと一緒にね。


 石の交換もつつがなく終わり、お腹がすいたからと近くのスーパーに向かう。


「もうすぐ、新しい宝石完成する?」

「ああ。もう少しだね」

「そっかー。どんな人が魔法少女になるか、楽しみだね」

「ああ。それも探さないとね。つむぎ、昼は何食べたい?」

「親子丼とか」

「わかった。鶏肉が安ければいいんだけど」

「豚肉は安いね」

「豚玉丼でもいいかい?」

「うん!」


 豚肉と玉子と、その他の具材をカゴに放り込んでいき、レジに向かう。

 そこにいたのは。


「あら。あんたたちは……」

「!?」


 あの家の前の住人の女だった。


 一家心中の生き残り。河原で絡んできて、浩一に追い払われた彼女が、レジで働いている。周子って名前だったか。

 彼女はこちらを見ながら、無言で商品をスキャンしていた。ラフィオはつむぎを庇うように立ちながら、しばらく睨み合っていた。


「あんたたち」


 口を開いたと思えば、周子は微笑みを見せた。こころなしか、顔色も前より良くなってるように見えた。


「あんたたちが誰かは知らない。けど、あの家を使うなら、ちゃんと幸せになるんだよ。あたしの分もね」

「……はい!」


 敵意はないと悟ったらしく、つむぎがそう返事をした。


 お金を払って商品を袋に詰めていく。そんなふたりに周子は、ありがとうございましたとマニュアル通りのお礼を、とても気持ち良さそうに言った。


 憑き物が落ちたって、こういうことなのかな。



――――



『今回わたしは、模布市に住む車椅子の女子高生の日々に密着させてもらいました。去年の秋に起こったガス爆発事故で左足を無くした彼女が、それに負けることなく元気に生きる様子や、他の障害を持つ子供たちとの関わる姿を―』

「あああああ! やだ! やっぱり恥ずかしい! 今、わたしの姿を街中の人が見てるんだよね!? くあー!」


 夏休み最後の日曜日の昼。毎年そうであるように、28時間テレビはこの時期に放送される。


 知らないタレントがぶっ続けでマラソン大会したり、恵まれない子供たちが大舞台でダンスする企画には興味ないけれど、県ローカルで放送される遥のドキュメンタリーを無視することはできない。

 俺たちにとっては、色々あった夏の締めくくりとして、みんなで見ることにした。いつもの俺たち五人に、樋口と麻美と剛も来た。


 澁谷は、今まさにドキュメンタリーの紹介をするためにスタジオにいる。


 まだ始まってもないのに、遥は俺の肩に顔を押し付け、画面を見ないようにしていた。そんなに恥ずかしいか?


 そして始めるVTR。遥が、笑顔でインタビューに答えている。

 同時に、遥のスマホが猛烈な勢いで通知音を鳴らした。クラスメイトや部活の仲間から、次々にメッセージが送られてきた。


『すごいテレビに出てる』

『有名人じゃん』

『テレビ映りいいね』

『部長として誇らしいよ』


 などなど。


 ちなみに俺にも来ていた。


『遥のおまけだけどすごい』

『彼女を幸せにしろよ』

『リア充爆発しろ』


 とか。

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