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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-42.幽霊のアリバイ

「お姉ちゃん、そろそろお昼ごはん食べる?」


 すると、部屋の外から彼方が話しかけてきて。


「お姉ちゃん、さっきお昼だよって呼びに行ったら返事なかったけど。よっぽど集中してたんだね。お母さんには、後で食べるって言っておいたよ」

「え? うん。そうなの! 珍しく集中しちゃって! 彼方の声にも気づかなかったんじゃないかなー?」


 松葉杖で立ちながら、遥がドアを開けた。


 そうか。彼方が気を利かせた結果、俺たちの不在に気がつかなかったらしい。集中を乱してはいけないからと、ドアを開けたりもしなかったのだろうな。


「悠馬さんも集中してたんですね」

「あー。うん。そうなんだ。遥が珍しく頑張ってたから、邪魔しないように俺も静かにしてた」

「そうなんですね」


 彼方は、どこか悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。その意味は、俺にはわからない。


「なんか、ペンを走らせる音だけ聞こえてきてたの、いいなって思って」

「ペン? そんなはずは……ううん。そうだ。勉強してたんだから、ペンの音はするよな、うん」


 実際は無人だったから、そんなものは存在しないはずなのに。なんなんだ。幽霊でも出たのか?


 俺と、同じく不思議そうな顔をしてる遥を見てから彼方は愉快そうに笑って階段を降りていく。

 なんだろう。そんなはずはないのに、からかわれた気がするぞ。


「本当に、幽霊がわたしたちのアリバイを作ってくれたとか?」

「そんなまさか」


 釈然としないながらも、車椅子に座った遥を押して階段へ向かった。



 その日の夜遅く。ちびっ子たちも眠った頃に、樋口が俺のマンションに来た。いつものようにビール缶を沢山持ってきて。


「事件が解決したから、そのお祝いにね。警察の捜査はまだ続くけど、新しく被害者が出ることはないわ」

「へえー。この教授が犯人だったとはねー」


 愛奈が、前にも見た研究室のホームページを開きながら呑気そうに言う。

 人の良さそうな風貌の教授がいた。殺人犯だと言われても、確かにすぐには納得できない。


「詳しい動機は、本人が死んでいる以上は不明。けど、学者として成果を上げたかったのね。愛奈が前に行ってたとおり。キャリアに行き詰まったとか、出世を急いだとかね」

「血で成長する藻だっけ? それの研究成果を急いでたってこと?」

「ええ。合法的に入手できる動物の血で、表向きの研究はしていた。けど、さらなる成果を上げるために密かに人の血を採取して、誰も訪れない地下倉庫に設備を用意してひとりで研究していた」

「それで成果が得られたとして、動物の血でこんなことになったって、論文で発表するつもりだったのかしら」

「そうなんじゃない?」

「無理よ。成果が画期的だった時ほど、世界中の学者が追従して実験して、再現性を確かめるから。もちろん、表向きの動物の血でね。当然うまくいかなくて、この論文には嘘があるって言われるだけ。この教授、どっちにしろ発表できる成果なんて出せないわ」

「そういうものなのね」


 それは当の教授が一番わかってることだろうに。自分なら行けるとか、そんな思い込みがあったのだろうか。

 冷静な判断力を失ってたのかもしれない。実際、殺人に踏み込んでいるわけだから。


「ま、論文の捏造が発覚なんてしょっちゅうあることだし。人ってそういうことしちゃう物なんでしょうね」

「まあね。藻の怪物に罪を着せようとしていた節もあるしね」



 そして教授は四人の人間を殺した。


 最初に二日連続で殺したのと、祭りの日の夜の被害者。

 事件が話題になり警察のパトロールが厳しくなったのを受けて、彼はキャンパス内で血を調達することにした。

 自分の大学の学生を手に掛けることに、抵抗を感じていたのかはわからない。既に人を殺していて、そういう気持ちは無くなっていたのかな。


 死人となった教授の本心は、永遠に不明だ。


 夏休み中の大学は、人の数はあまり多くない。目撃者も少ない。密かに殺して遺体を地下倉庫に運ぶのが、比較的容易なはず。


 最後の犠牲者は、浩一と美穂の知り合いだったらしい。教授が狙ったのは偶然だったけど、急に連絡が取れなくなった友達の身に何かあったことを察した浩一が、教授の地下研究室に踏み込む決心をさせた。

 それが巡り巡って樋口が踏み込むことに繋がった。


 土居浩一という学生は無実だった。怪しげな行動をしていたのも、疑っているという先入観からそう見えてしまっていたらしい。


 とはいえ彼も事件とは最初から無関係だったわけではない。最初の死者が出た時点で、彼は教授が怪しいと見ていた。

 だから彼が犯行を起こしそうな所を見回って、事件を事前に阻止しようとしていた。


「これが事件の全容ね。あとは県警に任せましょう。これからは安心して出歩けばいいわ。世間の注目も薄れるでしょう。噂になってた吸血鬼モフミドロも、魔法少女が倒してくれたし」

「やっぱり、そういう扱いになってるんだな」


 ネットを調べると、昼のフィアイーターは本当にモフミドロ扱いをされていた。実際、事件の際に目撃された怪物と同じものではあるけど。

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