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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-29.戦いの後で神社

 転がる物の上で転がろうとしたフィアイーターは大きくひっくり返った。亀裂が少し大きくなる。


「セイバーこれ使ってください! その剣より大きいので!」


 言いながらライナーが投げて渡したのは、長い鉄パイプ。屋台の部品だったものだろう。折れて先端が尖くなっているそれを、セイバーはフィアイーターの体に突き刺す。

 奴もまた、スーパーボールだらけの足元で手足をバタつかせてセイバーを止めようとしているけど。


「加勢します先輩!」


 不意に麻美の声が聞こえた。そしてフィアイーターに向けて火炎放射が炸裂した。


 屋台で加熱調理するためのプロパンガスに塩ビパイプを接続して、ライターで着火して火柱にしているらしい。こんな状況でなければ、絶対に真似してはいけないことだな。


 麻美がプロパンガスのタンクを持ち運んでいて、剛が塩ビパイプを持ってフィアイーターに向けている。

 それが、フィアイーターの表面の苔を焼く。ついでに、手足も焼けただれていった。


 ろくに動かなくなった両手で体の表面でチリチリと火がついている苔を払うのに夢中で、セイバーへの抵抗はなくなった。

 セイバーの隣にハンターがやってきて、亀裂へ向けて矢を放つ。それが僅かに亀裂を広げて、それを足がかりにしてセイバーが押し込んだ鉄パイプが中に入り込んでいく。


「よし! いける! 割れるわよ!」


 セイバーの言葉と共に、パキパキと音がした。亀裂が広がり、フィアイーターの体が真っ二つに割れていき。


「あった! 誰か砕いて!」

「わたしがやります!」


 ライナーが跳躍し、フィアイーターに突っ込むような形でコアへ向けて蹴りを放つ。

 その足は煌々と輝いていた。縁日の明かりで光を補充したのかな。


 コアが砕けて、フィアイーターは黒い粒子となって消滅。ライナーも階段の上に着地した。



「サメさーん」


 変身を解いたつむぎが、どこかに走っていく。屋台が並んでいた箇所から少し離れた所にある、木の陰。

 戻ってきた彼女の手には、サメのぬいぐるみと駄菓子の入った袋があった。


「ラフィオ。地面に置いたから、サメさんちょっと汚れちゃった」

「帰ったら洗濯しないとな」

「一緒にお風呂入れてあげないとね!」

「……今度は風邪ひくなよ」

「あ。わたしも車椅子取りに行かないと」

「回収しておいたわ」


 樋口が、車椅子を押しながらやってきた。じゃあ、撤退するか。


 ああ、その前に。俺はスマホで澁谷に連絡した。


「フィアイーターは倒したから、もう危険はないって報道してくれ。お祭りをこれで中断にはしたくない」

『わかりました。さっそくニュース速報を流せないか相談します。あ、インタビューしてもいいでしょうか。すぐ近くにいるので』

「いるのか?」

「はい。本来なら花火の映像を撮る予定でしたけど、皆さんの取材も一緒にやろうかなと思います」


 それは別に構わない。


 問題があるとすれば。


「人目につかないところに移動しないとねー。わたしたち人気者だし。周りに人がいたら、めっちゃ押し寄せてきてサインとか求められちゃうかも。インタビューも受けにくいに花火を見る雰囲気じゃない」


 そうだな。ライナーの言うとおり。インタビューは構わないけど、花火も見たいよな。


 とりあえず、怪物が消えたというなら人が戻ってくるだろう。ここから退避して、花火は見えるけど人のいない所に移動しないと。

 候補地としては、例えば拠点の家とか? それか。


「いい所があるよねー」


 ライナーが、ちょっと楽しそうに階段の方を見た。


「ま、まさか……」


 セイバーの怯えた声が聞こえたけど、そのまさかだな。




「ゆ、悠馬! 幽霊! 幽霊とかいないわよね!?」

「いないから安心しろ」

「だってー!」


 十分後。俺たちは階段上にある神社の屋根に登っていた。ちゃんと、境内に人がいるかは確認した。ここに現れた怪物の第一発見者たちだ。


 幸いにして死者はおらず、神社の建物内に避難しているうちにフィアイーターは階段を降りていったらしい。彼らに危機は去ったと伝えて祭りに戻ってもらった。


「この神社、木とかたくさん植えられてるから、ここから花火を見るのはちょっと向かないんだよね。見晴らし悪いから」


 そう言いながら、ライナーは上の方に期待を寄せた眼差しを向けていた。屋根に登ってしまえば見晴らしの問題はない。


「ではシャイニーセイバーさん。今回の戦いですが、どのような心境で臨んだのでしょうか」

「え、えっと。こ、ここ、困ってる人をたたた助けるため、が、が、頑張りました!」


 澁谷からマイクを向けられたセイバーは震えた声で答える。ビビりすぎだろ。


「あ、あの澁谷さん! この神社に幽霊が出るって噂、本当でしょうか!?」

「幽霊ですか!? いえ、詳しくは知りません。この神社のことも、わたしよく知らないので……」

「澁谷も就職するまでは東京にいたわけだし。ここの地元民じゃないなら仕方ないわね」

「樋口さん! 公安なら何か情報をお持ちではないでしょうか!? 髪が伸びる人形が収められてるって聞いたんですけど!」

「公安をなんだと思ってるのよ。地元の怪談話なんか知ってるわけないでしょ」

「だってー。情報収集が仕事じゃないですか!」

「何でもかんでも調べる組織じゃないのよ! 地元民に訊きなさい! あんたも地元民だけど!」

「先輩。この神社に、そんな怪談はなかったと思いますよ」

「ええ。僕も聞いたことはありません。詳しく調べたこともないですけれど、年に一度の大きなお祭りの舞台です。興味を持って調べる人もいるでしょうし、実在すればもっと大きな噂になると思いますよ」


 屋根の上で並んで座っている麻美と剛が、落ち着かせるようなことを言う。浴衣姿の剛は、夏の夜が似合ってるな。

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