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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-27.苔岩のフィアイーター

 せっかくだから神社へお参りしようと考えた人が数人いたのだろう。そこに、キエラがコアを落として、何かが怪物になった。だから通報があった。


 大勢の人が来る祭りだから、人混みを整理するための警備員や警官の姿もちらほら見受けられた。彼らが、落ち着いて神社のある方向から離れるようにと声を張り上げている。

 怪物騒ぎに慣れ始めている人たちにも、今のところ大きな混乱はない。フィアイーターがここに乱入でもしたら別だろうけど。


「遥。どこかに車椅子を置いて変身して向かおう。姉ちゃんは先に行っててくれ」

「嫌よなんでわたしひとりだけで! 幽霊が出る神社になんか行きたくないわよ!」 

「姉ちゃん。さっきのは遥の作り話なんだ」

「そうですよお姉さん! ちょっとからかっただけです!」

「ぎゃー! 怖いー! 別に幽霊なんか信じてないけど、出そうだからやだ! やだ! 絶対やだ!」

「話を聞いてくれよ……」

「そんな場所にひとりで行きたくない!」

「ラフィオとハンターも後から来るから!」


 人の波に逆らいながら神社の方へ向かう。愛奈も積極的に行こうとはしてないけど、さすがに逃げ出そうとはしなかった。


「せめて! せめて悠馬も一緒に来て!」

「ああもう。わかったから!」

「樋口さんもこっちに向かってるって。車椅子預かってくれるから、どこかに隠して、だって」

「なにかの屋台の裏とかでいいだろ。店主が避難して無人になったやつ」

「うん。みんな逃げ出してきてるね。樋口さんがわかりやすいように、珍しい屋台の裏にしよっか。たこ焼きとか焼きそばみたいな、たくさんあるやつじゃなくて」

「サトウキビ屋」

「え?」

「ほらあれ。サトウキビって書いてる屋台。あれ珍しいんじゃない?」

「そんなものがあるはず……あるな」


 店主は逃げて無人だけど、大量の細い竹みたいなのが積まれた屋台があった。あれがサトウキビなのか? あれを売ってるのか? 砂糖の原料なのは知ってるけど、原料を売ってどうするんだ?


 珍しすぎて疑問が頭から離れなくなったけど、それよりも今はフィアイーターだ。幸い、人が落ち着いて迅速に避難しているから、俺たちの周囲に人はいなくなりかけている。

 屋台の裏に回って変身。俺も覆面を被り、ライナーに背負われて神社まで向かった。


 ラフィオたちは先に来ていたようで。


「あはは! 好きに動けるっていいね! ラフィオにも乗れるし!」

「そうだな! ちゃんと戦えよ!」

「戦ってるよー! あはは! 楽しい!」


 神社へ至る階段の下で、戦闘が始まっていた。敵が出てきたのは階段の上のはずなんだけど、より多くの恐怖を求めて降りてきたのか。

 大型サイズになったラフィオの上にハンターはまたがっていて、屋台の上にふたりで陣取っている。スーパーボールすくいらしい。


 それを引きずり下ろそうと黒タイツたちが群がっている。屋台を支える支柱を掴んでゆっさゆっさと揺らす。黒タイツたちの足元には、スーパーボールと水を入れていた大きな桶がひっくり返っていて、水浸しになっていた。

 屋台が倒される前にラフィオは跳躍。ハンターがその上から矢を射て敵を殺す。そして向かいの屋台の上に飛び乗った。イカ焼きの屋台だった。


 そっちの方に黒タイツが殺到していく。


「あはは! こっち! こっちだよー!」


 浴衣が動きにくかったんだろうな。ミニスカート魔法少女に変身したハンターは、ラフィオから降りて屋台から屋台へ跳び移っていきながら、次々に黒タイツの喉や頭を射抜いていく。

 ラフィオも跳んで、不幸な黒タイツを一体下敷きにしながら着地。前足で敵の喉を抑えて、背後から襲ってくる敵へ後ろ足で蹴りを入れることで体重をかけ、喉を潰して殺した。


「よし! わたしも!」


 ライナーも黒タイツたちの群れに真っ直ぐ突っ込んで、一体を蹴飛ばした。その黒タイツは石造りの階段の角に頭をぶつけて死んだようだ。その直後に蹴られた黒タイツは、キック自体の威力で首が折れたらしい。


「姉ちゃん。俺たちも」

「そうね! 敵が神社から出てきたのよ。戦いやすいわ!」


 まだ、神社の怪談を怖がってるらしい。作り話なのに。そう言ったのに。


「本体を倒さないと。えっと、フィアイーターは……」

「フィアアアアァァァァ!」

「来た。黒タイツを先に行かせてたのねー」


 さっきまで神社の方に残ってたのだろう。階段を転がるようにして、ようやく登場したそいつは、全体的に丸い形をしていた。そして、表面は緑色に覆われていて。


「ぎゃー! 吸血鬼モフミドロ!?」

「落ち着け! 違うから!」


 一瞬だけなら、噂になっている藻の怪物に見えるけど。


 境内の隅。誰も気にしないような場所に転がっていて、何十年も人に触れられてこなかった石にコアが宿ったのだろう。

 その石の表面を覆っているのは、藻ではなく苔だ。生物学としてどう違いがあるのかは俺にもわからないけど、セイバーが怖がるような要素はないはず。


 そんな、苔むした石に手足が生えているのが今回のフィアイーターだ。さっきも、文字通り階段を転がり落ちてここまで来たのだろう。


「そ、そうね! モフミドロでも、幽霊でもないのよね! よし! お姉ちゃん頑張る! 戦える! 行くわよ悠馬! うおおおおおおおお!」


 剣を掲げて突進するセイバー。途中、邪魔な黒タイツをから数体バッサリと斬り倒したから、戦う意欲はあるらしい。無理矢理自分を鼓舞してるのだとしても。

 俺も車椅子から取り出したナイフを持って、黒タイツたちに立ち向かおうとして。


「フィアアアアァァァァ!!」

「ぎゃー!? 悠馬避けて!」

「なっ!?」


 フィアイーターが、手足をたたむように丸めてこっちに転がってきた。正確には、俺なんかは眼中になく、魔法少女たちを狙ったものだろうけど。

 問題は、魔法少女もラフィオもすぐに反応して転がる進路から退避できたけど、俺にはその脚力がないということ。

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