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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-23.みんなの浴衣

 彼もまた俺の姿を見つけた。直接会話したことはないけれど、つむぎたちの保護者として向こうも俺の顔を知っている。

 軽く会釈をした彼は。


「暗くならないうちに帰れよ」


 そう、当たり前の忠告をして去っていった。


 目的地があるような歩き方ではない。何かを探すか待つかして、ぶらぶらと歩いているように見えた。


 荷物はなく、つまり凶器となるものは持ってないように見える。もちろん、血を吸うための器具らしいものもない。

 服の下に隠し持ってる可能性もあるから、警戒を解くわけにはいかない。奴がどこに向かっているのかも知らない。

 追いかける気にはならなかった。


 普段怪物と対峙しているし、あの男よりもマッチョな外国人とも真正面からぶつかったことがある。

 だからこそ、凶器を持ってるかもしれない相手と戦うのは危険だと判断した。味方もいないし。


 もちろん、近所で新しく殺人事件が起こるのを許容する気もなく、すぐに樋口に連絡した。


 すると県警に連絡がいって、警官がこの付近にやってくることだろう。土居浩一も動きづらくなるはずだ。


 実際、その夜からしばらくは事件が起きなかった。犯人逮捕には至ってないものの、街はだんだん平穏を取り戻していった。




「いえーい! お祭り! 楽しみ!」


 車椅子の上で浴衣姿の遥がはしゃぐ。まだ会場に行ってないのに、すごいテンションの上がりようだ。

 気持ちはわかるけれど。非日常って感じがして、いいよな。


 殺人事件の三人目の犠牲者が出ることはしばらくなく、フィアイーターもここ数日は出ていない。市民たちは夏のお楽しみであるお祭りを、中止にしたりせず敢行することを決めた。


 拠点としている家に、いつもの五人で集合。

 魔法少女たち三人は、それぞれ浴衣を着ていた。示し合わせたわけではないけど、なんとなくこうなった。


 俺は着付けとか面倒だから着ないし、ラフィオも同様だ。


「もー。せっかくのお祭りなんだから! それに合った格好しなきゃだよー?」

「別に、普通の格好の客も大勢いるだろ」

「雰囲気を大事にしたいのです!」


 車椅子に乗っていてもおしゃれに余念がない遥は、丈を短めにアレンジした浴衣姿。いつもみたいに、足を見せてどういう障害かをアピールするスタイルだ。


「それよりわたしは、お姉さんが浴衣着てる方が驚きです。そういうの、面倒がってしないと思ってました」

「お姉さんではないけどね。遥ちゃん知ってるかしら。浴衣はね、胸が小さい方が似合うのよ」

「……はい?」

「浴衣は胸が小さい方が」

「いえ。それはわかったんですけど」

「ほら。わたしって他の女と比べて、ちょっと胸が小さめじゃない? けど、そんなわたしでも浴衣なら堂々と着れる!」

「小さめというより、圧倒的に壁なんですけどね」

「それに周りの浴衣の女たちも、着るために胸を押さえつけて控えめに見せてるでしょ?」

「そうなのか?」

「それはまあ確かに。さらしで潰して平らに近づけてるけどね。胸が大きいと確かに不格好になっちゃうから。愛奈さんには不必要そうだけど」

「わたしが浴衣を着ることで、周りと同じように胸を押してこのスタイルになっていると思い込むことができるの! 今日のわたしは、巨乳なの!」


 なんて浅ましい考え方だろう。


「ねえラフィオ。ラフィオも浴衣着ようよ。似合うよー」

「僕はいい。普段の格好が一番だ」

「えー。ちょっと変わった服にするのもいいよ? それに……えへへ。見てラフィオ。わたしの浴衣、似合ってるでしょ?」

「ああ。それは間違いない。似合ってるよ」


 水色の浴衣を見せながら、その場でくるりと一回転するつむぎ。ラフィオはそれを素直に褒めた。


「やった! ラフィオ大好き!」

「うわ! おい! 抱きつこうとするな! その格好で飛びつくな! はだけるだろ! ああもう、じっとしてろ!」


 ラフィオに抱きつこうとして、激しい動きで浴衣の帯が緩んで前が開きかける。肩が見えて下着の紐が顔を出す手前で、ラフィオが掴んでなんとか止めた。


「おい! 浴衣ってこんな簡単に着崩れるものなのか!?」

「つむぎちゃん、自分で着付けした?」

「はい! こんな感じかなって!」

「うまくできなかったのね。見せて、やってあげる」


 愛奈がつむぎを連れて、俺たちの目につかない所まで行く。一旦脱がして着直したのか、戻ってきたらちゃんと直されていた。


「つむぎちゃん、何か見つけたら走り出してまた着崩れそうだから。ラフィオ、ちゃんと見ててあげるのよ」

「それは僕の仕事なのか。いや、そうなんだけど。わかった。つむぎ、僕から離れるなよ」

「はーい。えへへ。ラフィオとデートだね!」

「そうだな。おとなしくしてろよ。みんな、そろそろ行くかい?」


 ラフィオに身を寄せて笑顔のつむぎに微笑み返しながら、ラフィオが率先して会場まで向かっていく。


 この家の近くにある神社と、そこへ至る道。さらに道に繋がっている、いつもの河原に屋台がずらりと立ち並ぶ。いつも見ている風景が、人の多さで随分と違う印象になった。

 家の前の道にも、祭りに向かう人たちの姿が何人も。それか河原に行くに従って増えていく。


 宝石を作るための石を拾う場所に、屋台が建っていた。


「ラフィオ! あれおいしそう!」

「あ! こら待て!」


 ラフィオとつむぎが先行してどんどん行ってしまう。

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