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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-18.そろそろお盆

 フィアイーターも抵抗している。けど、セイバーの必死の剣幕に完全に押されていた。

 胴体にいくつもの切り傷ができて、そこから闇が見えている。


 蛍光灯に照らされた内部をライナーが覗き込んで。


「あった! お腹のあたり! かなり中の方! ハンターやれる!?」

「見えないです! セイバーが邪魔で」

「お姉さん! どいてください!」


 フィアイーターを滅多切りにするあまり、味方の射線も遮ってしまっていたセイバー。


 ライナーがセイバーに抱きつくようにしてどけながら、あわよくば壊せないかとフィアイーターを思いっきり蹴る。

 コアまでは届かなかったけど、敵の体は壁に打ち付けられて動きが止まった。ライナーの光る足に照らされて、奴の内部までよく見える状態。ハンターもコアが見えたようで。


「くらえー! 今度はモフモフの人形に生まれ変わってね!」


 モフモフではない人形に興味がない彼女が容赦なく弓を射る。人形だから生まれ変わるものではないけど。


 とにかく、コアは正確に射抜かれてフィアイーターは黒い粒子になって消滅していった。

 そして後に残ったのは。


「ひいぃっ!? 呪いの人形!?」


 お化け屋敷で使うために恐ろしい形相に作られた人形が、さらに剣でズタズタに切り裂かれて不気味さを増したものだった。それがセイバーの前に転がっている。


「ゆ、悠馬ー! 助けてー!」

「はいはい。ただの人形だろ。怖がるな」

「だって! なんか怖いし! 顔とか! おっきな裂け目が!」

「姉ちゃんがつけたやつだからな。ほら、立てるか?」


 自分で怖がってめった切りにして、自分でさらに怖がってるなら世話はない。


 腰を抜かせたセイバーが俺にすがりついて震えているのを、ため息をつきながら慰める。頭を撫でてやって落ち着かせて、肩を貸して立ち上がらせる。


「悠馬って、ほんとお姉さんに甘いよね」

「家族だからな」

「わたしも家族みたいなものなんだけど?」

「そうだけど」


 遥もいつも、家にいるけど。


「わたしも悠馬に肩貸してほしい! 歩かせてほしい!」

「後でな」

「ほんと!? 約束だからね!」

「みんな。早く撤退するわよ。人が来る」


 学生から話を聞き終えたらしい樋口がに言われて、俺たちは急いでキャンパス内から退避した。


 家に帰る途中、セイバーがコンビニで酒を買いたいと言った。怪物騒ぎで邪魔されたから飲み直したと。

 止めるべきかと思ったけど、一応は頑張ったのも事実。苦手な種類の敵だったわけだし。怖い気持ちを振り払うのに酒が必要なら、与えてもいいかな。


「悠馬って本当に愛奈さんに甘いよねー」


 遥が繰り返した。


 魔法少女のままコンビニに行くわけにもいかず、コンビニの近くで変身解除した。ラフィオも小さい妖精姿になって、すかさずつむぎに掴まれていた。


 遥はコンビニに入っていく愛奈を見送りながら、俺に肩を寄せていた。片足で長時間は立てないから、俺を松葉杖代わりにしている。

 さっき、遥にも肩を貸すと約束したばかりだもんな。


「あの学生は、土居浩一と同じ研究室ではなかったわ。けど、研究室のことは噂レベルだけど知っていた。推測したような、ブラックな研究室じゃなかったそうよ。教授も人当たりが良くて、優しい人だって」


 樋口がさっきの聞き取りの結果を教えてくれた。


「アットホームな研究室?」

「それはブラックな組織の代名詞だって、愛奈が言ってたわよ。けど、本当にそういう場所なのかも」


 つまり、ストレスで浩一が殺人に走るような環境ではなかった。

 わからなくなってきたな。


「研究室の詳しい実態については、県警と協力して捜査を続けるけどね。なんにせよ、殺人事件は起こってる。犯人は見つけないと」

「お待たせー。樋口さん、一緒に飲みましょう!」


 能天気な表情の愛奈が、ビールのロング缶がいくつも入ったコンビニ袋を手に戻ってきた。


 みんなして、改めて家に向かう。

 星明りに照らされながらの帰り道。俺は片足の遥を背負って、それに嫉妬した愛奈に寄り添われて歩く。愛奈は離れてくれないかな。うざい。


「ちょっとー? 遥ちゃん、悠馬に甘えすぎじゃないかなー?」

「甘えすぎはお姉さんの方ですよ。というか、幽霊怖がりすぎじゃないですか? もうお盆ですよ? ご先祖様帰ってくる時期ですよ?」

「別に、お父さんたちは怖くないから。というか、うちのお盆のイベントはこの前のお墓参りでだいたい終わりだから」

「そうなんですか。確かにうちも、お盆でなにかする伝統とかはないですけど」

「やってみたらいいんじゃない? 精霊馬作ったりして」

「……」

「な、なによ」


 なんの気無しに言った樋口に、俺たちの視線が集まる。


「ナスとキュウリに割り箸刺したやつですよね。テレビでよく見るけど、実際に見たことはないやつ」

「え? ないの? 割と普通にやるわよ」

「僕も向こうでこっちのメディアを見ていた時はよく目にしたけど……やらないのかい?」

「やらないですねー。関東の方ではやるのでしょうけど、うちの地域ではやらないです」

「そ、そうなの? そうなんだ……」

「やってみればいいんじゃないかな? お馬さんと牛さんなんだよね? モフモフの」

「野菜と割り箸だから、モフモフではないけどな」

「モフモフだと思えばモフモフなんだよー。ラフィオ、明日材料買ってこようよ」

「わかった。わかったから」


 楽しそうだな。


「わたしも今年はここでお盆を過ごすことになるからね。作ってもらおうかしら。地元の物があるのは嬉しいからね」

「樋口は帰省とかしないのか?」


「ええ。いいのよ。ここも居心地がいいしね。しょっちゅう面倒ごとが起こるのは、なんとかしてほしいけど」


 それでも楽しそうだった。

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