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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-17.幽霊のフィアイーター

「こっちだ」 


 敵のいる方向がわかるラフィオが、先頭を駆ける。向かっていったのは、建物のうちの一棟。そこに遠慮なく踏み込むと。


「フィアアアアアア!」


 さっきより声が大きく聞こえた。頭上から、というよりは入り口近くにある階段の上からだ。


 地下階もあるのか下へ行く階段も目に入ったけれど、すぐに意識から外した。敵は上階だ。

 全員でそこを駆け上がる。蛍光灯に照らされた廊下に、大量の黒タイツとフィアイーターが立っている。


 フィアイーターの姿は。


「ひいぃっ!? 幽霊!?」


 白い着物を着て青白い顔の女。額には三角形の白い布がある。あれ、なんなんだろうな。


 二本足で歩いてはいるけれど、間違いなくオーソドックスな幽霊のイメージだ。

 顔はフィアイーターだから、怖さはあるけど幽霊らしさは薄いんだよな。


 それに、フィアイーターになったということは、あれは本物の怪奇現象などではなく。


「お姉さんよく見てください! あれ人形ですよ!」

「え? に、人形?」

「たぶん、学祭の時に使う小道具とかね。それをどこかの倉庫に保管してたのがフィアイーターになった」

「キエラはどうしてそんなものを。いや、何も考えてなかったのだろうな」

「そっか! よーし! 人形だったら怖くないわね! まったく人騒がせな! わたしを怖がらせた報いを受けなさい!」


 セイバーが剣を蛍光灯の光にかざしながら駆ける。そして先頭の黒タイツの体をバッサリと切り捨てる。


「みんな。セイバーの援護だ。ライナーはセイバーの隣まで行ってやれ。おいセイバー! ひとりで突っ込むな!」

「そうですよお姉さん! 足並み揃えないと!」


 誰よりも早く走れて、今もセイバーの隣まで一瞬で駆けつけたライナーが言うと説得力あるな。


 ラフィオもまたセイバーたちの方へ駆けていき、ハンターが周囲の黒タイツたちを確実に射殺していく。

 狭い廊下で殺到してくる黒タイツを、魔法少女三人で迫ってくる端から殺している。


 俺と樋口はといえば、魔法少女がうち漏らした黒タイツが背後から襲いかかろうとするのを止める役目だ。


 一体、転がるように姿勢を低くしてライナーのキックを回避した黒タイツがいたから、そいつの頭を蹴飛ばしてやった。

 フラフラと立ち上がる黒タイツの首根っこを掴んで壁に押し当てつつ、ナイフで胸を刺して殺す。


 もう一体出てきた。殴りかかってきたそいつの一撃を回避してナイフを振る。当たったが、奴の二の腕に深々と突き刺さって抜けなくなった上、致命傷には至らなかった。

 痛みを感じているらしい奴を、ナイフをえぐりながら引くことで体を引き寄せて、頭突きを食らわせる。そしてさっきと同じように壁に押し当てた。


 ちょうど、壁ではなくて廊下に面した扉だったらしい。押し付けた黒タイツの体がドアノブを引き下げて、扉が空いてしまった。俺と黒タイツは揃って中に転がり込む。


 夜間なのに鍵がかかってなかったということは、人がいるということ。微かな悲鳴が部屋の中から聞こえた。


 学部生か院生か、博士課程ってやつか。どれかは知らないけど、遅くまでパソコンに向かって作業をしていた学生が椅子から飛び上がったところだった。目に濃い隈があって、苦労しているのがわかる。


「下がってろ! こいつはすぐに殺すから!」


 学生に声をかけながら、手近にあった椅子を掴む。一般的な、合皮で覆われている事務椅子だ。持ち上げるには少し重いものだけど、つまり鈍器としては適しているということ。

 黒タイツの胸を踏みしめて体重をかけながら、椅子を持って奴の頭部に何度も振り下ろした。


 中身が闇である黒タイツの頭から血が吹き出るなんてことはない。ただ、頭の形をしていたものが少しだけ歪んで、あるはずがない脳が損傷して死んだという結果だけが残った。


 黒タイツは倒したけど、部屋の外での戦闘はまだ続いている。魔法少女に加勢すべく、黒タイツに刺さっていたナイフを回収し、ついでに椅子を掴んだまま部屋を出る。


「そこでじっとしていてくれ。しばらく、鍵をかけて敵が入らないようにしてくれよ」

「あ、ちょっと待って。話しをさせて。お騒がせしたわね。ここはどこの学部の研究棟かしら」


 部屋を出た俺と入れ替わりに樋口が入って、学生に質問した。理学部だったら好都合と考えたのかな。


 女の覆面戦士は前にも戦いに参加していて世間に知られているとはいえ、レアな存在だ。学生は驚いた顔を見せながら、理学部ですと答えていた。

 そうか。ここに、浩一なる人物の研究室もあるのか。


 取り調べは樋口に任せて、俺は手にした椅子で近くの黒タイツの顔面を思いっきり殴る。

 敵の数はかなり少なくなってきた。魔法少女の奮戦のおかげ、というよりは。


「このっ! 幽霊! さっさと死になさい! 怖くなんかないけど! 怖くないけど! さっさといなくなって!」


 セイバーの必死さのおかげだな。あれは幽霊じゃないし、仮に幽霊だったなら既に死んだ存在なんだけど。

 とにかく、さっさと恐怖から逃れたい一心のセイバーは廊下の端までフィアイーターを追い詰めていた。


「あんたなんて全然怖くないんだから! 怖くないわよ! ばーかばーか!」


 目の前に幽霊っぽいものがある恐怖を紛らわすために叫び続けながら剣を振るう。

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