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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-16.模布大学

 浩一という人物については、わかることは何もない。


 ネットには一介の学生のことなんて乗ってないし、そもそも世に誇るような功績自体がない可能性が高い。


「院生だったら発表の機会もあるでしょうけどね。あとは本人に直接訊きなさいな」

「ええ。わかったわ。発狂するほど大学は辛いかって、あからさまな訊き方はしないし、浩一じゃなくて周りから攻めていくけどね。あと、訊きたいことがもうひとつあるの」

「なにかしら」

「本当に藻の怪物がいて、人を襲ってるってことはない?」

「それ、訊くのはわたしじゃないわよ。専門家でもなんでもないんだから。まあ答えられるけど。ありえない」

「そう。そんな気はしてたけどね」

「藻って、つまり植物よ? 自由意志を持って自分から人を襲うのは無理。脳が無いから。血を吸うための器官もない。もしそんなのがあったら、人を襲わせるまでもないわよ。発表した時点で大騒ぎ。大企業がこぞって投資に走って、合法的に血を集める手段を見つけてくれるんだから」

「ええ。そうよね。あれは人間の手で行われた犯行よね。研究を急ぐのと、教授からの圧力で限界になった大学生の仕業。わかってたわ。変なこと訊いちゃったわね」

「もう! 大人は夢がないですよ!」


 会話を聞いていたつむぎが、突如声を上げた。


「そういう生き物がいてもいいと、わたしは思います!」

「つむぎは、なんでいてほしいんだ?」

「いたらきっとモフモフだから!」

「そんなことだろうと思ったよ。仮にいたとしても、人を殺しかねない恐ろしい生き物だぞ。関わろうとするな」

「えへへっ。ラフィオはわたしのこと、心配してくれてるんだね!」

「……まあ、そうだけど」

「ラフィオ大好き! モフモフさせて!」

「駄目」

「わーい! ラフィオモフモフー!」

「あああああ! 人の話を聞け!」


 このふたりはいつものことだから、気にしないでおこう。


「でも、気持ちはわかるわ。ちょっといてほしいって思ったから、わたしも訊いてみたわけだし」

「いてほしいのか? モフモフだから?」


 そういえば樋口も、ウサギとか好きだったな。


「モフモフとは考えてないけど。いたら面白いかなって」

「樋口さん。そうはいきませんよ。そんな生き物いたら怖すぎじゃないですか。幽霊より怖いですよ」

「ゆ、幽霊!?」

「お姉さんは幽霊より藻の怪物の方が怖くないんですか?」

「そ、そりゃそうよ! 怪物なら変身したら倒せそうだし!」

「変身、ね。そういえば、藻の怪物がフィアイーターってことはない? そういう怪物が潜伏して人を襲ってるとか」

「ない」


 フィアイーターに一番詳しいラフィオが、即座に否定した。


「フィアイーターは、常に恐怖を求めているんだ。腹が減ってるみたいな状態だよ。そのためには暴れなきゃいけない。潜伏なんて慎ましい手段はとらない。奴らは――」


 話している途中で止まったラフィオ。みんなが怪訝な顔をした次の瞬間。

 それぞれのスマホが警報音を鳴らした。


「こんな風にあからさまに暴れる」

「ああもう。こんな時に。魔法少女たち、行きなさい」

「えー。夜だしもう仕事したくないモードと言いますか。それにわたし酔ってますし」


 そう言いながらも、愛奈は立ち上がって宝石がはめ込まれたブローチを手に取った。最後にコップに残ったビールを飲み干すあたり、行きたくない気持ちも伝わってくる。


「今回はわたしも戦うわ。ラフィオ、運んでくれる?」

「いいとも。じゃあ、悠馬はセイバーかライナーが」

「じゃあ、わたしだねー。お姫様抱っこ」

「背負ってくれ」

「あははー。そっか。わかった!」

「ラフィオはいつも、わたしを乗せてくれるよね!」

「お前が降りないからな!」


 騒がしくしながら、魔法少女たちは変身した。その間に俺は覆面を被り車椅子からナイフを取り外しつつスマホを確認。フィアイーターが出たのは。


「模布大学のキャンパス内?」

「みたいね。行きましょう」


 同じく覆面を被り、長い髪はそこから出している樋口が大きくなったラフィオに飛び乗りながら返事する。


「うへー。自分より学歴高い人たちを助けたくない」

「あなた、模布大の工学部を落ちた人が行く大学の卒業生ですものね」

「違うわよ! 最初から模布工大狙いだったから! 落ちてはないから!」


 そんな話をしながら、俺たちは現場に急行。


 大学も今は夏休み。とはいえ、暇な学生たちにはこんな時間でもキャンパス内で過ごす者がいる。サークル活動の一環とかで。

 あとは、この期間も研究している学生は多い。大学院生とか博士課程の人間だと、特にその数は増える。


 故に、広いキャンパスにある複数の建物の窓からいくつもの明かりが見えた。


 それでも、夏休みの夜なら普段よりは人は少ない。人間はみんな建物内に籠もっているから、外には人影はなかった。つまり、フィアイーターが恐怖させて追いかけ回す対象もいない。


「フィアァァァァ」


 どこからか怪物の声が聞こえた。いるのは間違いないとして、妙に遠くに聞こえる。


 人を求めて建物内に入ったかな。

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