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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-11.不審者の件は解決

 警官や逮捕といった言葉の前では、周子もわがままを通すのは無理と考えたのだろう。

 かと言って、言うことを聞けば彼女の生活が上向くわけでもなく。返事をせず、黙り込むだけだった。


 ネット上では雄弁な人なのに、リアルだとこうなんだな。


「と、とにかく、伯母はもうここに来ないようにします!」

「ええ。見張っててくれるかしら?」

「はい! ……でも、わたし大学生なんです」


 知ってる。


「そうなのね。今は夏休み中?」

「はい。なので家にいますけど、それでも研究とかで出かけることも多くて。両親も共働きなので、ずっと監視するのは難しくて」


 それも知ってる。何の研究なのかは知らないけど。


「で、できるだけ見ていますけど、目を離した好きにここに来ちゃったらごめんなさい。あの。その時はどうすれば……」

「どうしましょうね。二度と、そういうことは無いようにしてほしいのだけど」

「連絡先、教えてもらえませんか? 伯母さんが抜け出てしまった時、警察の方ならうまく対処してもらえるかなと思って。逮捕は困りますけど……」


 伯母を信頼していない。それを自覚しているから、美穂は周子の方をチラチラ見ながら小声で話した。


「ごめんなさい。会っていきなりお願いすることじゃないのは、わかってます。でも、他に相談できる相手もいなくて……」

「そうみたいね。わかったわ。電話番号教えて」


 この子は本気で困っている。両親は、周子を家族の汚点だと考えて扱っているのだろう。しかし美穂の方は、そこまで非情になれなかった。


 樋口の仕事は魔法少女の支援と保護。そのために必要なら、こんな女は牢にぶち込む方がいいのかもしれない。けど、困ってる人を助けたい善意もあった。


「あの。お姉さんのお名前は。あ、わたしは斉藤美穂と申します」


 知ってる。けど、今初めて聞いた反応をした。


「樋口よ。下の名前は、もう少し仲良くなったら教えてあげる」

「あ、はい! ありがとうございます!」


 あからさまにふざけてるとしか思えない名前まで教えるのは、さすがに無理だな。


 どうしよう。必要なら、適当な名前を考えておくか。


「さ、伯母さん。もう行くよ。今ならお母さんたち家にいないから。ね?」


 なおも家の方を未練がましく見つめる周子を引きずるようにして、美穂が離れていく。何度も樋口に頭を下げていた。



――――



「っていうことがあってね。一応、解決だと思うわ」

「解決なの? あ、ビールどうぞ。お供えしたものだけど」

「いただくわ。美穂は、いざとなれば警察の名前を出せる。周子も動きにくくなるし、親たちも警戒して監視を強化するでしょう。今度、周子が家に行ったら警察沙汰になる。それは避けたいでしょうから」

「なるほどねー。落雁いる?」

「ビールのあてにするには、ちょっと味が薄いわよね。普通に食べてもそんなに美味しいものじゃないけど」

「口の中、パッサパサになるもんねー。上品な味付けなのはわかるけど。でも、それをビールで流し込むのは」

「悪くないわね」


 拠点にて、愛奈と樋口が酒盛りしている。ほんと毎晩飽きないよな。


 周子の件が、逮捕なんて物騒な手段なしに解決したのはよかった。一応、警戒はしばらく続けるべきだろうけど。

 家のカーテンは今も閉めている。さすがに、昼間追い返して夜にまた来ることはないと思うけど、用心だ。


「樋口さん。警察として、相手と連絡先を交換するってよくあることなんですか?」


 落雁を肴に酒を飲んで、本題から話がずれてきたところで、遥が気になったことを尋ねた。


 たしかに変に思えるよな。公安って、人との接触は最小限にしそうなイメージだけど。


「仲良くしようってわけじゃないわ。仕事のための協力者が得られるなら、それに越したことはない。それに、別に連絡を取り合おうとは思わないわよ。いざという時の連絡先でしかない」

「つまり……連絡先交換したのに、使わないかもってことですか?」

「ええ。警察との繋がりがあるってだけで十分。向こうは緊張感を持って、行動が慎重になる。それでいいでしょ?」

「なるほど……樋口さん」

「なに?」

「仕事が出来る大人の女って感じがして、格好いいです」

「ねえねえ。遥ちゃんわたしはー?」

「愛奈さんは仕事できない人ですよね?」

「ひどい……ちくしょー! 年下に馬鹿にされた! やけ酒してやる!」

「人を酒を飲む理由に使わないでください!」

「ふふん。甘いわね遥ちゃん。わたしレベルの酒飲みになると、この世の全てが飲酒の理由になるのよ!」

「お姉さんレベルの駄目人間にはなりたくないと思いました」

「ふふん! ここまでの高みに登ってきなさい! お姉さんではないけど!」

「低みですよね?」


 両者の価値観の差は埋まらないらしい。


「悠馬さん。あのおばさんは、もう来ないでいいんですよね?」


 つむぎが、少し心配そうに尋ねてきた。ちょっとは怖かったのかな。


「わからない。来ないとは思うけど、一応警戒はしないと」

「明日も石を拾いに行きたいけど、悠馬さんも一緒に行くんですか?」


 ああ。そういう話をしてたな。


「毎日休みだからね。石の交換の頻度を上げて、宝石の完成を早めたい」


 ラフィオに言われて魔方陣の方を見る。


 これが描かれた当初は、中心にあるのは大きいだけの何の変哲もない石。それがいつの間にか、小さくなった代わりに色合いは灰色から微かな緑色に変わっていた。


「もう少しすれば透き通った宝石に変わるよ。できれば、夏休み中に完成させたい」

「完成したら、新しい魔法少女ができるのよね? その次はどうするの? 五人目のための宝石を作る?」

「それもいいね。あとは、キエラの住んでいるエデルードに乗り込む方法を用意するでもいい。そこにあるメインコアを破壊してしまったら、戦いは終わりだ」

「この国のお偉方も安心でしょうね」


 樋口の最大の関心事はそれか。


 国内の安全問題が解決するだけではない。トライデンみたいな奴らがまた現れないとも限らない。


「まだ、どうなるかわからないけどね。とりあえず、この宝石の完成を急ごう。悠馬」

「わかった。俺が河原まで同行すればいいんだな」


 俺から提案したことだ。わかっているとも。

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