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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-10.不審者と姪

 この半日ほどで、彼女についての捜査はかなり進んだ。


 田沼周子はどうやら、現在仕事をしていないらしい。以前はやっていたはずのパートの仕事も辞めた。生活費を稼ぐこともなく、妹の家に全て依存している。

 故に、家族からは疎まれているらしい。


 家族が健在だった時と同じ趣味を、部屋にこもってひたすらやっていたそうだ。つまり、SNSに愚痴を投稿していた。世の中への不満や、今は亡き家族をいると仮定してこんな酷いことがあったと架空のエピソードを投稿する。

 そんな不健全な趣味にスマホ代を払わされる妹一家がついに怒り、通信料金を自分で稼げるようになるまでスマホを没収したらしい。


 気持ちはわかるが、やることが無くなった周子が家の外に解き放たれたのだから厄介だ。


 家族がいた、比較的幸せなだった頃の思い出にすがるために、この家にやって来たのだろうか。そんなことをしても無意味なのに。


 そこに、家族構成は謎だけど、幸せそうな子供たちがいた。小学生の男の子と女の子が、手を繋ぐみたいに同じバケツを持って河原まで向かっていくのを見た。

 どういうことなのか声をかけたくなる気持ちも、わからなくはない。やってはいけないことだけど。


 そもそも、周子がここで幸せを維持できず、夫を凶行に走らせた原因の一端は自分にあるというのに。彼女自身、それをわかっていないと思う。故に家を抜け出して、他人に迷惑をかけにいく。


「そろそろ来るかしら」


 静かに独り言を言いながら、椅子から立ち上がってリビングを横切る。魔方陣を消さないように気をつけながら窓際まで行く。


 閉め切ったカーテンを少し開けて外を覗いた。人の気配はないけれど、周子は家を囲む塀と同じくらいの背。向こうに潜んでいる可能性はあった。

 スマホを見ながら県警からの追加報告がないか警戒しつつ、外の様子を伺う。


「来た……やっぱりいるわね」


 昨日、遥が心霊写真を撮ったのと同じ構図だ。背伸びして、家の中の様子を見つめていた。数年前の免許証更新時の写真と比べて、かなり痩せ細って青白い顔をしている。

 これを見れば、心霊写真と思ってしまっても仕方ないかな。


 こちらの存在を知られないように、カーテンを揺らさないようにして僅かな隙間から様子を伺う。

 もう少し泳がせよう。このまま家の敷地に入ってくるか、外からずっと様子を伺うようなら不審者通報の理由として十分だ。逮捕しに来てもらおう。


 向こうはこちらに気づいていないのか、しばらくそのまま静止していた。が、ややあって背伸びをやめたようだ。視界から消えた。このまま諦めて立ち去るか、逆に近づいてくるか……。


「ちょっと周子伯母さん! ここはもう他の人の家だから、来ちゃ駄目なんですよ!」


 そのどっちでもなかった。第三者に声をかけられて、背伸びをやめたらしい。


 十代の終わりか二十代はじめくらいの女の声。声色に僅かな怒りと呆れ。周子を伯母さんと言ってるから、彼女から見ると姪。

 周子の妹には娘がいたはずだ。それも大学生の。彼女だろうな。名前は確か、斉藤美穂。


 家の前で押し問答するのは、通報の理由になるかな。呼べば警察は来てくれるだろうけど。


 一度接触してみようか。樋口は靴を履いて外に出る。


 美穂はなんとか周子を連れて帰ろうとしていて、腕を掴んで引っ張って、言葉でも帰りましょうと繰り返している。周子の方は応じる気がないようで、その場に踏みとどまっていた。とはいえ言葉に答えることはなく、駄々をこねるように首を振るだけ。


「ねえ。騒がしいんだけど。喧嘩なら他所でやってくれないかしら?」


 声をかければ、ふたりは目を丸くしながら樋口の方を向いた。


「ご、ごめんなさい! ここのお宅の方ですか?」


 美穂の方が、腰を九十度に折る礼をして謝った。


 長い髪の、純朴そうな女。ノースリーブのトップスに、ふんわりとしたスカート姿で、軽く化粧をする色気はありつつ、浮ついた趣味を持つこともなさそうな性格をしていそうだ。

 そういう家庭に育てられたのだろう。娘に、社会から逸脱する生き方を望まない両親。教育方針はある程度厳格だが、それで子供が歪むほどではない。


 常識的な家庭だ。調査で見えてきた斉藤家の雰囲気とも合致している。

 家族の一員がニートであることは望まれない家。


 仕事の癖で、目の前の女の性質や背景をあれこれ分析した樋口は、話し相手は周子ではなく美穂の方が合っていると判断して。


「顔を上げて。わたしは、ここの家の人間じゃないわ。家主の知り合い。非番の警察よ」

「け、警察!?」

「ええ。家の周りに不審な人間がいるって、相談を受けたの。で、留守の間に何かあれば怖いから様子を見ることにした」


 内ポケットから警察手帳をちらりと出して見せる。


 もちろん自分が公安であることや、ここが魔法少女の拠点なのは言わない。けど、嘘もついてない。

 本物の警察手帳に、美穂も周子もかなり驚いた様子だった。


「あの。この人はわたしの伯母さんで、この家に前は住んでいて。その、様子を見たいとかそういうことらしくて! ごめんなさい。逮捕、されちゃうんでしょうか……」

「しないわよ。そんなこと」


 怯えた様子の美穂だけど、逮捕までするのは本意ではない。少なくとも、悠馬たちは望んでいない。

 たとえ、必要ならやると考えていたとしても。


「今後、この家の近くまで来ずに、住民に不安を与えないならそれでいい。さっきみたいに、塀の上から中を覗き込まれたりしたら怖いから、絶対にしないで。今度は制服の警官が手錠持ってやってくるわ」

「それは困ります! 伯母さん。聞きましたよね? もうここには来ないでください」


 周子は返事をしなかった。

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