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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-7.心中事件

「田沼周子。旧姓は桐生。あの家の前の持ち主よ。正式には、所有者の名義は彼女の夫。子供がひとりいたわ。没年時は小学生だった。いずれも故人よ」

「故人……」

「あ。周子自体は故人じゃないからね。安心しなさい」

「よかったー」


 そこは別に念を押すことじゃないと思ったが、愛奈は本気で安堵している様子だった。幽霊じゃないという公安のお墨付きが、そんなに嬉しいか。


「心中事件があったのは二年前ね。その時からずっと、あの家には買い手がつかなかった」

「この女の歳はいくつだい? 二年前に小学生の子供がいたとして、何歳に結婚して子供を産んだんだ?」


 免許証の写真は、今より前に撮ったものかもしれない。実際の女の見た目はもう少し老けているのかも。というか、実物を見たラフィオが気にしているのはそこ。


「五十五よ。結婚出産したのは四十代の後半ね」

「結構な高年齢出産ねー」

「ええ。若い時は女一人で生きてやるって思ってたらしいけど、歳をとって結婚願望が芽生えた。ひとりで生きるには無理だって実感が涌いたのね。彼女の妹が結婚したのもあったのでしょうね」

「あー。近い人が結婚して幸せそうにしてたら、それが妬ましく思えたってこと?」

「ええ。そんな感じ。で、婚活したけどうまくいかなかった。専業主婦になるのを希望してたそうだけとど」

「わかるー。男の子に養われて生きるの、憧れるわよねー」


 夫ではなく弟に養われて自分は仕事をしない人生を目論む愛奈が、実感のこもった肯定をした。


 世の専業主婦の多くは、家を守るために日々努力をしている尊敬できる人間だ。俺の母親のように。けど、愛奈みたいに人生舐め腐った人間もいるわけで。


 この女はどっちなんだろうな。なんとく、後者な気がした。


 実際、婚活はうまくいかなかったわけだし。人間として好感を持てる箇所に乏しかったのだろう。



「結局、理想とする男性と巡り合うことはできなかった。年上で年収もそれほどでもない、自分と同じように婚期を逃した男しか、相手はいなかった」

「あの。わたしも結婚はしたことないので詳しくはわからないんですけど、そういう結婚って絶対にうまくいかないもの……だと思います」


 遥の懸念は理解できる。この場の全員が結婚なんてしたことないけど、みんな同じ気持ちだろう。


「ええ。幸せな結婚生活なんかじゃなかった、らしいわ。あくまで伝聞だけどね」

「誰から聞いたんだ。他人の家庭事情なんて」

「心中事件の時に、警察があの付近の家の聞き込みをしたのよ。あと、周子のネット上の投稿なんかも洗い出した」


 そういう、表に出るような情報を少し調べただけで判明するほどの家庭環境か。実態は、もっと酷かった可能性がある。


「楽な生活をするためとか、世間体のための結婚だったから、周子は夫に愛情なんかなかった。子供に対しても似たようなものだったらしいわ。SNSに愚痴を書くアカウントを作って、いかに夫が駄目な男かを毎日のように書き連ねては同じ趣味のアカウントから同情を貰っていた」


 あまり気持ちのいい趣味とは言えないな。

 そんなことを毎日繰り返せば、逆に気が滅入りそうなものだけど。


「夫の収入だけで家族を養うのは困難だったから、結婚後しばらくしてから周子はパートもやっていたわ」

「うへー。結局働かないといけないのねー。それは辛い」


 駄目人間の心底嫌そうな声。とても気持ちがこもっていた。


 不健全な趣味と、好きでもない男と結婚したのに労働から逃げられなかったという現実。それが女の精神をすり減らしていった。

 それは家族と接する時の態度にも表れていっただろう。


「夫の方も、出来た人間とは言い難いわね。会社で出世は望めない、人望もなくて職場では孤立気味。そして家にも居場所がないとなれば、そのストレスが爆発するのは時間の問題だったわ」

「で、一家心中?」

「そう。夫の方がね。夜中に起きて家に目張りしてガス管を開けっ放しにして眠った。偶然、夜中に起きた周子は異常に気づいてなんとか逃げ出した。家族を置いてね。そのまま朝まで玄関先でうなだれていたのを、近隣住民の通報があって保護された。あと、夫と子供の死亡が確認されて、今に至る」


 そして、周子だけではあの家の大きさは持て余すし税金も払えない。売り払われたけど、事故物件だから買い手がつかなかったところを、公安が買ったというわけだ。


 気持ちのいい話ではないな。


「今の話で、参考にしなきゃいけないことが、ひとつだけあると思うの、ラフィオ」

「……一応聞こうか」

「結婚するのは早い方がいいってこと」

「あー。まあ、そうだね。僕たちの場合は早すぎるけどね」

「早い方がいいよね?」

「早すぎるのも良くないんだよ」


 ちびっ子たちが謎の結論に至ってるのを眺める。まあ、言ってることは正しい。あの女は遅すぎた。


「悠馬。わたしも教訓を得たよ。結婚は、心から好きな人としなきゃいけないって」

「はいはい。そうだな。結婚ってだいたいそういうものだからな」


 遥も学びを得たらしい。当たり前のことな気がするけど。

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