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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第8章 夏のオカルト回

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8-3.静かな夜道

 神箸家まではそんなに離れておらず、実のない会話をしている内にすぐについた。

 遥が鍵を開けて玄関に入ると。


「お姉ちゃーん!」


 妹の彼方が駆け寄ってきた。


「うわっ。彼方どうしたの?」

「怖いテレビ見ちゃって! 心霊写真がどうとかの!」

「あー。見てたんだ。悠馬の家でもつけてたよ。怖かった?」

「怖かった! 幽霊なんて非科学的だしいるはずないのに! 怖かったー!」


 愛奈と同じことを言ってる。


「だったら見なかったらいいのに」

「だって! なんか見ちゃうから! あ、悠馬さんこんばんは!」

「こんばんは」

「悠馬さんも怖いテレビ見ますか? お茶出しますよ」

「あー。ありがたいけど、今日は遠慮しておく」


 愛奈を放っておくと際限なく酒を飲みそうだし。ラフィオたちが一線を超えないように見張らないといけない。まあ、後半は別に心配することじゃないけど。


「そうですか! ではまた今度! お姉ちゃん、怖いから一緒にテレビ見よ?」

「怖いのになんで見ようとするの……?」


 車椅子を押して家に戻る彼方に手を振って、俺はマンションに戻っていく。


 夏とはいえ、すっかり暗くなった時間。蒸し暑く粘つくような空気の中歩いていると、クーラーのきいた家が恋しくなる。自然と早足になっていった。


 静かな夜だ。日が暮れるとセミも鳴かない。夏の昼間は騒がしい故に、夜の静かさは不気味に思える。

 街頭に照らされた道は明るく闇の存在する余地はないとはいえ、そのために空には星は見えず、合宿で見た星空のような幻想的な光景とは程遠い。


 見慣れた世界が、妙に無機質に思えた。


 仮に幽霊なんてものが実在したら、こんな光景に潜んでいるのだろうか。

 ふと振り返ってみた。何もいない。いるはずがなかった。


「馬鹿馬鹿しい」


 変な気を起こしてしまった。暑さのせいだ。俺は足早に家へと急いだ。




「ただいまー」

「ひえぇっ!? 幽霊!?」

「なんだよ失礼な」

「あ。幽霊じゃない悠馬だー。おかえりー。大丈夫? 外で幽霊に憑かれてたりしてない?」

「してない。普通に遥を送って、戻ってきただけだ」

「そっかー。えへへー。ねえ悠馬?」

「どうした?」

「怖くて寝れないから、今日はお姉ちゃんと一緒に寝よ?」

「一晩中震えてろ」


 この家にいる限り、恐怖とは無縁だな。



 ラフィオとつむぎは番組が終わるまでしっかり見て、それぞれ別々に風呂に入った。ひとりでシャワー浴びてる時に後ろから視線を感じて、みたいな恐怖は感じないらしい。完全に、心霊番組を娯楽として消費している。


 一緒に風呂に入ると言い出すこともなく、一緒に住んでる以外はちゃんと清らかなお付き合いをしていて、良かった。


「悠馬……ひとりでお風呂入れない……一緒に入って……」


 一番ちゃんとしてなきゃいけない家長がこのザマなのは、なんとかしないとな。





 翌朝。俺たちはまだまだ夏休みだけど、愛奈は出勤しなきゃいけない。だからいつも通りの時間に起きて、フライパンとお玉を持って愛奈の部屋に行く。

 昨夜、酔っ払いながらもなんとかパジャマに着替えた愛奈は、ちゃんと着替えることはできなくてボタンはひとつも留まってなかった。


 下着が丸見えになってるのをできるだけ見ないようにしながら。


「起きろ」

「ぎゃあああああ!」


 いつものように起こしてやる。


「やめて! やめてください悠馬! あれ!? なんでわたし、こんな格好で。もしかして悠馬、お姉ちゃんのブラジャー見たくて」

「馬鹿なこと言うならフライパン叩き続けるからな」

「やだー!」


 朝から元気だ。あれだけ飲んだのに、翌朝まで引きずってないことだけは尊敬できる。



 酒が完全に抜けていて、昨夜の幽霊の話題も完全に頭から抜けているらしい愛奈を会社まで送り出す。

 お揃いのエプロン姿のラフィオとつむぎがキッチンで洗い物をしているのを横目に、俺も出かける準備をする。


 遥が拠点の家に行きたがっているのは、昨夜から変わらないらしい。宿題も少しならしてあげると、メッセージが来ていた。なんで上から目線なんだ。


「ふたりは留守番するか?」

「僕も行くよ。石の交換がしたい」

「わたしも、ラフィオとデートしたいな。夏休みの宿題はだいたい終わらせたけど、日記は書かなきゃいけないので。毎日ではなくていいんですけど、十日分くらいの絵日記があって」


 家族で出掛けたとかのイベントを選んで書くものだのよな。その家族とあまり会えないつむぎの場合は、俺たちと過ごす日々を書くことになる。


「そっか。デートのことは、あまり詳しく書くなよ。友達と遊んだくらいの表現にしておけ」

「はーい。ラフィオ行こ! こちょこちょ」

「うわっ!?」


 不意に首をくすぐられたラフィオが妖精の姿になってしまう。そのまま床に着地する前に、つむぎが体を掴んで抱きしめた。


「えへへっ! モフモフ!」

「こら。いきなりやるな。驚くから」

「ごめんね! けど、モフモフしたかったから!」


 ラフィオをぎゅっと抱きしめて満面の笑みのつむぎを伴い家を出る。


 神箸家の前で遥も拾った。言いつけ通り、宿題の入った鞄を抱えていた。


「ちょっとだけだから! ちょっとしかやらないから!」

「はいはい」

「わかんない所があったら訊くから!」

「それは立派だな」

「立派だと思ったなら! 偉いって言って頭撫でてほしいなー」

「なんでそうなる?」

「彼女なんだから、それくらいするものでしょ?」

「本当に付き合ってたらな……まあ、やってもいいけど。ちゃんと宿題して、意味のある質問ができてたらな」


 それで宿題が進むのなら、大したことではない。


「やったー! 早く行こ! さあさあ!」


 途端に上機嫌になった遥を押して家に向かう。

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