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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第7章 ゲストキャラとロマンス

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7-54.片付けてから

 使い方はわからないけれど何かを作るための機械が立ち並び、工具なんかもあちこちにかかっている、わかりやすい町工場の中にハンターと一緒に踏み込んだ。

 エリーを追いかけていた外国人と、京介なる人物が掴み合いの喧嘩をしていた。なんの揉め事をしていたのだろう。


 仲間割れとは呑気だ。こっちは本気で怒っているというのに。


「エリーちゃんを殺したのは、あなたですね?」

「ま、待て! そんなつもりはなかった! あれは事故! 事故だったんだ!」

「人を殺せるサイズのスパナを振り回しておいて、よく言うよ」


 ラフィオの言葉に、外国人の男は言い返せなかった。


 ハンターは次に、背負っていた弓を男に向けた。まっすぐ首を狙っている軽い悲鳴をあげた彼は後退って。


「せ、正義の魔法少女が! 人を殺すつもりか!?」

「殺しはしません。殺したいほど怒ってますけど」

「ひっ!?」


 次の瞬間、微妙に狙いをずらした矢は男の右肩に突き刺さった。ぎゃあと悲鳴が工場内に響き渡る。


「殺したいですけど! あなたには警察に捕まってもらいます!」

「こ、断る! こんな国の警察なんかに!」


 肩を押さえながらも男は逃げた。ハンターが射た矢は彼の後ろにあった何かの機械に刺さり、細かな部品が折れた。


 男は別の機械の陰に隠れて、再び姿を表したと思うと、手持ち工具を何本か握っていて、こっちに投げてきた。

 投げるにも向かないものだから、ラフィオたちの方に届くに至らず床に落ちたけど。


「逃しません! 降参してください!」


 ハンターが走った。機械の上に飛び乗って、男を狙う。彼はまた逃げ出したから、矢を放つ。何かの機械に穴を開けつつ、男の行く先を牽制。動きが少し止まったところを、機械の上を走りながら近づいていく。

 いくらハンターは軽いとはいえ、魔法少女の脚力は人間とは比べ物にならず、足場としていた機械の部品がバキバキと音を立てていた。


 あっさりと追いつかれた男は、片腕も使えないのに魔法少女に立ち向かおうと考えたらしい。ここで逃げなきゃ異国で逮捕されて裁かれる。それは避けたいのか。


 彼は小さな金槌を振りかぶった。もちろんハンターに当たるはずがなくて、彼女が少し前までいた機械に当たって部品を大きくひしゃげさせた。


「やめろ……」


 工場内の設備が壊されていく様子を見て、京介という男が小さく呟く。


「やめろ。俺の工場だ。これがないと。俺は……」


 自分の職場が壊されるのが耐えられないという意味なのだろうか。

 どうせ彼も逮捕される。ここで働くことなど、もうできないだろうに。


「やめろー!」


 なにか、最早もう果たすことのできない希望にすがりつこうとした彼は、ハンターの方へ駆けだろうとして。


「静かにしてろ」


 ラフィオに横から体当たりされて、床に身を投げ出すことになった。


「ちくしょう……俺はこんな所で終わりたくない……アメリカに。アメリカに行くんだ」


 子供の姿のラフィオに上に乗られただけで、それを押しのけることもできずに力なく横たわる京介は、うわ言のように繰り返すだけ。


 アメリカに行く、か。なんて漠然とした言葉だろう。こんな男が外国に行っても成功する可能性は低そうだ。行くこともできないだろう。

 トライデン社から来たあの男に、都合のいいことを吹き込まれたんだろう。騙されていたとも知らないで。



 騙した方の男も、終わりは近づいていた。


 どれだけ武器を振りあげようとも、魔法少女の体を捉えることはできず、金槌は空を切るばかり。小さなハンターは、男の至近距離にいながらも回避をし続けていた。

 やがて男が疲れた頃合いを見て、ハンターは彼の腹を思いっきり殴った。人間相手なら弓を使うまでもなく、痛みに男は崩れ落ちてうずくまり、動けなくなった。


「ラフィオ。縛るためのロープとか、ないかな」

「探してくる。こいつらが逃げないように見張っててくれよ」


 両方とも、逃げる気力も失われていそうだったけど。



 事務室にビニール紐があったから、それを使ってふたりの手足を拘束した。

 小さな町工場内で、野望を阻止された男たちのうめき声だけが聞こえた。


「樋口さんに連絡しないとね。エリーちゃんの体も、ずっと外にあるのはかわいそうだし」

「そうだな。もう警察にも通報はされてると思うけど」


 エリーの遺体が外に置かれて、何分経っただろう。さすがに子供が倒れていたら誰かが見つけるだろうし、死んでいたら通報される。

 それでも、樋口に連絡して適切な対処をしてもらわないと。身元不明の外国人の子供ではなく。


「わたしたちの、家族としてね」


 変身を解いて御共つむぎへと戻った彼女は目に涙を浮かべていた。


 こんなに強い魔法少女は、家族を失えば当たり前に涙する普通の女の子。

 ポケットからスマホを取り出して、電話をかけようとして。


「うっ……うぅ……」


 耐えられずに嗚咽が漏れた。これじゃあ電話は無理だと自分でもわかってるのか、ラフィオの方に向ける。


 ラフィオは無言でスマホを受け取って、それからつむぎの体を抱き寄せた。

 胸に顔をうずめて泣くつむぎの頭を撫でながら、樋口に電話をかける。


 つむぎは立派だ。終わるまで泣くのを堪えていたのだから。

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