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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第7章 ゲストキャラとロマンス

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7-48.エリーの初恋

 母のアカウントでは、キラキラした主婦の日常なんかも発信していて、エリーも可愛くて素直な娘の役を演じさせられて何度も写真を撮られて投稿された。

 本当は、ろくに仕事もできない母親失格の女なのに。


 母の手作りの料理の数々は、近くのスーパーマーケットから買ってきたものを盛り付け直したもの。それを前に笑顔を作って写真を撮られ、イケてるママの日常としてネットに上げられた経験は数え切れないくらいある。


 いかにネットでいいねを稼ぐかが大事な母親は、仕事をする能力に欠けていた。なんの仕事をしていたかなんてエリーには興味がなかったけれど、うまくいかなくてヒステリックな金切り声をあげる光景は毎日見られた。


 仕事がうまく進まないのは自分が無能だからなのに、上司とかパソコンとか、夫や娘のせいだと彼女は本気で思い込んでいた。

 例えば、ちょうどいい時間になったら娘がコーヒーでも淹れてくれて気分を切り替えたら、仕事はちゃんと出来るとか。そんな無茶苦茶な理屈を並び立てては自分の能力の低さを棚に上げた。

 父が出ていくのも仕方がない。


 毎日のように、母はSNSで自分はひどい夫を持ってしまった悲劇のヒロインだと喧伝して、自分と同じように声を掛ける以外は何もしない知り合いに慰められて悦に入っていた。


 父がうやらましかった。幼いエリーには、母を捨てることはできないから。母も、キラキラママを演じるための役者であるエリーを手放さなかった。


 無能な母のヒステリーが、全てエリーに降りかかることになった。


 そんな母の相手をしないといけないから、学校で恋なんかしている暇なんかなかった。けど、ライノが気になることは確かだった。


 その時のエリーは、自分の恋に無自覚だった。ただ、絵を描くことに夢中になっているライノが、周りの人間に目を向けないことが気に食わなかった。

 彼はわたしのことなんか一切目にくれない。だから、こっちを見るように仕向けた。やり方がわからないから、他の男子がやるのを真似た。


「オタクキモいんだけど。なんで絵なんか描いてるの?」

「ライノくんって友達いないんだー。寂しいねー」

「人付き合い悪いよー? そんなんだからいつまでも陰キャなんだよー?」

「ねえ。黙ってないでなんか言ってよ。喋れないの?」


 そんな声をかけつづけた。


 男子が、好きな女の子の気を惹くために意地悪してしまうのは、当の女の子にとってはたまったものではなく、こちらに好意を向けてくれるなんてありえない。男女を入れ替えてもそれは同じ。

 幼いエリーには、そんなことがわからなかった。


 ライノは苛立っていたのだと思う。それでも、エリーを無視し続けた。だから、エリーも力ずくでこちらを向かせることにした。やってはいけないことだと、理解できていなかった。

 ペンを走らせている彼のノートのページを、ぐしゃりと握り潰して作業を中断させて、こちらに強引に意識を向けさせた。


 うまくいった。どれだけ話しかけても答えてくれなかったライノが、初めて目を向けた。


 けれど彼は怒りの形相をしていた。


「やめて!」


 立ち上がった彼はエリーを睨みつけ、手を振り上げて彼女の頬を叩いた。


 それでは飽き足らず、机を回り込んでエリーの胸ぐらを掴んで思いっきり床へと投げ飛ばし、倒れた彼女にマウントを取ってもう一度殴ろうとして、ようやく周囲に止められた。


 エリー自身はショックで何もできなかった。


 学校で起こった暴力事件で、すぐさま両者の親が呼ばれて教師の前で話し合いが開かれた。どんな理由であれ暴力を働いたライノの方が悪いと、エリーの母はちゃんと娘を庇ってくれた。

 ろくでもない母だけど、この瞬間だけは見直した。


 本当に、この一瞬だけだったけれど。



 ライノは、日常的にエリーから暴言を吐かれていたと言い返した。証拠もあると言い、ポケットからレコーダーを出して教師や親たちの前で再生。

 心臓が止まるかと思った。彼は、何もしていないわけではなかった。いつかやり返すために、準備をしていたんだ。


 それでも母は、暴力の方が悪いと言った。教師もまた、暴言は良くないことだけど、エリーの気持ちもわかってあげてと庇った。


 この教師は、なんとか両成敗の方向に持っていこうとしたんだ。エリーは親が片方しかいなくて、家の用事なんかもしなきゃいけないから、大変なんだよ、と。

 ライノは冷たい目をしながら聞いていた。そして、エリーをじっと見つめて尋ねた。


「片親だったら、人に酷いこと言っていいんだ。片親ってうらやましいね?」

「ち、違う。そんなつもりじゃ……」

「先生はそう言ってるよ?」

「待って。せ、先生……」


 教師の方も庇うつもりで間違ったことを言ってしまったと焦っていて、しかしライノをどう嗜めるか思いつかなくて。それは違うと小声で言うだけだった。


 ライノは次に、だったら今録音した音声をネットにあげるから、世間に判断してもらおうと言い、ポケットに入れていたスマホを操作し始めた。今のやりとりも密かに記録していたらしい。

 さすがにやりすぎであり、教師は止めたし、ライノの両親も落ち着きなさいと宥めていた。もし実現していたら、エリーの人生は大きく狂ったことだろう。


 いや。ライノが言った時点で、もう狂ってしまっていたのだけど。


 母がエリーを捨てると決めたのは、その瞬間らしいから。


 こんな暴言を吐く娘は、キラキラな自分の生活にはいらない。


 この瞬間も彼女は、ネット上の虚構の自分の心配をしていた。


 娘の情報と共に音声が公開されれば、自分の評判まで傷つくと。

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