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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第7章 ゲストキャラとロマンス

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7-42.小さな町工場

「わかるわよ。あのシステムの再現のためにエリーちゃんを狙ってる企業がいるのは知ってるし」


 それは、樋口から聞いた俺が愛奈にも伝えていること。


「取り調べを受けて警告されてるのに、わざわざそんなことする馬鹿がいたとすれば、よほど追い込まれてるってことでしょう? 今回の件で社長が逮捕されたとかに決まってるじゃない」


 エリーという少女の存在の把握や、コントラディクションシステムを再現できるという立場から、京介の町工場は間違いなくトライデン社に声をかけられていた企業のひとつだ。

 そこが危機に陥っているとするなら、理由は上層部の逮捕くらいしかないのは確かだろう。


 元から経営がうまく行ってなかったとかはあるかもしれないけど、大手企業の下請けというし、トライデン社も大企業だ。そこから信頼される程度には、元からの経営状況は健全だったと思われる。


「逮捕されるってことは、法律に違反したものを作ったってことでしょ? レールガンか兵士の銃か。大量生産が得意なら、銃の方がありそうかなって考えました」


 そして愛奈は得意げに、無い胸を張る。


「さすがね。地頭はいいのよね、この子」

「普段は馬鹿だけどな」

「怠け者だから、せっかくの頭脳が使われることがないのよ。こういう雑談でだけ頭が回る」

「ちょっと!? お姉ちゃんが格好いいところ見せたのよ!? 尊敬とかしなさいよ」

「樋口。姉ちゃんの推理はどれくらい合ってる?」

「だいたい正確よ。この会社は銃のパーツを製造していた。弾丸に点火して発射する機構のね」

「それはアウトだな」


 銃じゃなかったと言い張るのは難しい。特に上層部ほど。


「社長と副社長。さらに営業担当者と製造部門のトップが逮捕されたわ。しばらく出ては来れないでしょうね。会社は業務停止命令が出た。いずれは解かれるかもしれないけど、首脳陣が欠けた状況では立ち行かないでしょうね」

「それは絶望的ねー。馬鹿な仕事に手を出したから当然でしょうけど」

「ええ。愚かよ。会社の経営も、一応は健全だった。大きく成長は見込めないけど、倒産しない程度に経営をして、社員を養い続けるには十分よ。少なくとも、帳簿を見た見解はそう」


 大きな成長はできない、か。


「誰かが、会社を大きくしたいと考えて悪魔の誘惑に乗ってしまった。誰なのかは、取り調べの結果がまとまってからわかるわ。たぶん社長だけど」

「少なくとも、やると決めたのは社長でしょうしね。提案したのは他の人かもしれないけど」


 それでも、奴らは既に身動きが取れなくなった人間。気にすることではない。


 問題は。


「この鍋川さんも社員なんだよな?」

「ええ。彼が製造部門のナンバー2。その他、数人の職人と事務員だけが、会社に残ってる状態よ」

「つまり、逮捕されてない社員では一番立場が上ってことか?」


 もちろん、それで京介なる人物が社長の座にスライドするほど、会社は単純なものではない。残されたこの男に会社を立て直す責任もない。

 ただ、自分の暮らしをなんとか維持する必要はあった。だから、素性はわからないもののトライデン社の社員と結託して、悪事に走る可能性はある。



「へー。製造部門のサブリーダー。若いのにすごいわねー」


 愛奈はといえば、タブレットの写真を見てそんな感想を呟いた。

 プロフィールには年齢も載っている。四十三歳とのこと。


「若いのか?」

「それなりの立場に就くにはね。でもまあ、社長とか部門長とかならともかく、ナンバー2ならありえるかもね。小さいところほどそう。人手がないからねー」

「そこまで変なことじゃないんだな?」

「うん。頑張ってるなーって程度。小さい会社ほど、頑張らないと仕事が回らないのよ」


 そこそこの規模に属しているから、頑張らなくてもなんとか在籍できている愛奈の言葉。説得力があるな。


「とにかく、この男がエリーを狙っていると思われる。だから、エリーをひとりにしないこと。できれば外に出すのも避けたいわ。あのマンションの住所を知られるのもね」

「じゃあ、ここの家から出さない方がいいってわけか?」


 リビングに面した大きな窓に目をやる。外はすっかり暗くなっていた。


 床に描かれた大きな魔法陣を避けながら窓に寄る。こちらに向いた不審な視線はないように思えるけど、用心のためにカーテンはしっかりと閉めておいた。

 樋口の提案が最善の策なのはわかっている。けど、彼女に陽の当たらない生活を強いるのは気が進まなかった。


「そうするべきね。もちろん、周りに人がいないことを確認して、車に乗せてここからマンションまで移動するとかはありよ。けど、人が集まってるお店とかに寄るのは危険ね」

「ここにいてもマンションにいても、エリーには差はあまりないだろうけどな」

「そうね。この家でも生活はできるでしょうし」

「仕方ないですよ。わたしのせい、ですもの。受け入れます」


 俺たちの会話をじっと聞いていたエリーが、不意に口を挟んだ。


「樋口さん。わたしが狙われているのは、間違いないのですよね?」

「ええ。不審人物の動きから、あなたが狙いとみて間違いはないはず」

「だったら、その人たちが諦めるまで、わたしは静かにしています。それが、わたしがこの国で過ごすために必要なのだとしたら、喜んで」


 喜んで、か。


 震えてるじゃないか。足も、首から下げたペンダントも。

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