7-36.夏の星座
それぞれ小学生に手を引かれて寝室まで運ばれる水着姿の大人たちを見てため息をつく。いつまでもつむぎたちに任せるわけにもいかず、追いかけて引き継ぐことに。
「ちゃんと風呂に入れてたか?」
俺を見るや両側から抱きついてきた愛奈と麻美の体を支えながら、つむぎたちに尋ねた。
「はい! お背中とかはわたしたちで流しましたけど、お風呂に入って出るのは出来てました!」
「背中流させたのか」
「はい。背中だけじゃなくて、前や手足も石鹸つけてわたしたちで洗いました! あと髪も」
「大変でした、麻美さんたちのお世話……。体を拭くのもわたしたちで……」
「ごめんな。子供にさせる仕事じゃないよな」
「いえ! 楽しかったから大丈夫です! お風呂屋さんって、こんな仕事なんでしょうか?」
「違うからな」
なんか、知らずの内に不健全な職業について話してしまっている気がする。
「銭湯でも、さすがに客の体を洗うことはないからな。垢擦りはすると思うけど」
「そうなんですかー」
「わ、わたしも楽しかったです!」
ワンテンポ遅れてエリーも入ってきた。直前に大変だったと言ってたのにな。
つむぎはこれが楽しいと言ったから、対抗意識を燃やしたのだろう。俺たちの輪に入るには楽しむ精神がないといけない。そう思ったか。
間違いなく、バチバチにやり合ってるな。
「あ、明日も! おふたりの背中洗いたいです!」
「それはしなくていい」
明日の朝はお説教だ。二日続けてこんな事態にするわけにいかない。
「つむぎ、エリー。お前たちも寝るんだ」
「はい! おやすみなさい!」
「おやすみなさい」
布団の中に潜り込むちびっ子たちを見ながら、俺は大人ふたりを布団に寝かせた。おとなしく寝ててくれるのを祈りながら。
「悠馬は働き者だねー。じゃあ、お風呂入ろっか」
「はいはい」
今度は遥の相手だ。忙しい。
とはいえ、酔っ払いよりはずっと手間がかからない。
さっき砂浜でやった時と同じだ。水着姿の遥に体を密着させて体を支えながら歩く。水着のままだから脱衣所はそのまま通り抜けて、風呂場の椅子に座らせる。簡単なことだ。
酔っ払ってないから自分の体は自分で洗える。一部、水着の下をめくって洗う必要もあるから、その場面は見ないように俺は目を背けた。
やがて洗い終わった遥に再び肩を貸して、露天風呂に並んで入った。
「星が綺麗だねー。夏の星座って何があるかな?」
「しし座とか、さそり座とか」
「それ、夏の時期の誕生日の星座じゃない?」
「たしかに。でもそんなイメージあるだろ」
「たしかにねー。あ、でもさそり座は本当に夏の星座だった気がする。……どれなんだろう」
「どれかな。アンタレスっていう赤い星があるのは知ってる」
「あれかな?」
「どれだ?」
「あれ」
「……わからない」
夜空にはたくさんの星。どれがアンタレスなのかも、遥がどの星を指しているのかもわからない。
ここから、比較的目立つ星を探して繋げて星座とした昔の人は凄かったんだな。
「あれが天の川ってことはわかるんだけどねー」
「そうだな。それだけわかりやすい」
「あとさ、夏の大三角っていうのがあるのは知ってる。デネブとアルタイルとベガ」
「うん。はくちょう座と、なんだっけ」
「知らない」
「そっかー」
「ごちゃごちゃしててわかりにくいよね、星空って。それが綺麗なんだけど」
「星のひとつひとつを綺麗って思って見るわけじゃないんだよな」
「そうそう。でも見慣れてくると、きっと目立つ星もあるんじゃないかな。それが星座の星かはわからないけど……たとえば、天の川の横に明るい星があるじゃない? あそこ」
「うん」
「あれと、その横のこれと、これとこれを繋げて」
胴から伸びる四本の足と、頭と尻尾。
「ラフィオ座」
「なるほど」
面白いと思ってしまい、俺は小さく吹き出した。すると遥も気を良くして。
「わたしたちの星座も作ってもいいよね。人間の星座もあるわけだし!」
「乙女座とか?」
「そう! ……つむぎちゃんの場合、いて座があるよね。愛奈さんだとどうだろう」
「オリオンは棍棒を持ってるイメージだ」
「なるほど。剣も棍棒も似たようなものだよね!」
一緒にしたら怒られるとは思うけど、手に持つ武器としては同じだ。
「でも、キック座はないよね! 作ろう!」
「どんな星座なんだ?」
「それはもう、世界一かわいいわたしが、可憐で力強いキックをお見舞いしてるところだよー」
「可憐で力強い?」
「そう! 悠馬が見たら一目で惚れちゃうような!」
「とんなキックなんだろうな」
「えっとね。あの星とあの星と、あのあれとそれとこれをこう繋げれば」
遥は随分と熱心にオリジナル星座作りをしているけれど、残念ながら点と線をつなぎ合わせただけでは力強さや迫力は出せなかった。
でも、楽しい時間だったしそれでいいかな。
風呂の栓を脱いて、少し風呂場を片付けて。体をしっかり拭いてから俺たちは水着のままでそれぞれの寝室に入って眠りについた。
翌日。今日も空は晴れていて、絶好の海水浴日和。俺も遥も、剛もちびっ子たちも常識的な時間に起きた。
せっかくだから外で食事をということで、ロッジの外に出て手すりに持たれながら食事を取る。朝の日差しは爽やかで、気温もまだそこまで高くない。潮風の香りが心地よく、とても有意義な時間を過ごせた。
さて、この旅行は一応、合宿という体で来ている。なんの合宿かといえば、魔法少女の戦いについての強化合宿とかになるかな。
というわけで、少しは体を鍛えることにした。
「そうそう。いい感じだよ。走るフォームに気をつけてね。力を入れすぎても駄目なんだ」
陸上部のマネージャーの指導の下、俺とちびっ子たちで砂浜を走る。
いくらか走った休憩を取り、また運動する。とりあえず午前中はそうやって過ごすことにした。




