7-33.水着で過ごす合宿
麻美はなおも笑っていた。
「家族で仲良くねー」
「麻美に言われるまでもなく、仲いいわよ」
「みたいですねー。先輩、夕飯は何がいいですか? 後で買ってきますけど」
「んー、ステーキとか……」
「わかりました。人数分の肉を買いますね」
「あとお酒と。おつみになるもの。明日の朝ごはんと昼ごはんと……」
「注文があるなら、姉ちゃんも行けばいいだろ」
「んー。ほら。水着濡れちゃったし。着替えるの面倒だなって思って」
「姉ちゃんまさか、水着のままここで過ごすつもりか?」
「いいじゃない。暑いんだし。他に人もいないし」
「面白いと思いますよ。わたしもこの上に服着て買い出し行く予定ですし」
「おいおい……」
この保護者たちは駄目だ。
「おい剛」
「いいと思うよー」
つむぎたちに浮き輪を渡した後、お願いした通りに見守りをしていた剛に声をかける。こっちの会話は聞いていたらしい。そしてあっさり認めた。
所有者が言うのだから仕方ない、のか?
「麻美さん、僕も買い出し付き合いますね」
「ありがとう助かるわ。欲しいものがあったら何でも言ってね。社会人の力で買ってあげるから」
「そうですか。楽しみです。行きましょうか。悠馬、子供たちは大丈夫そうだよ」
「そう、みたいだな……」
浮き輪を使ってバタ足で泳ぐラフィオとエリーは、溺れる様子はない。つむぎの指導がうまいからかな。
もちろん、目を離すつもりはないけど。放っておくと体力を消耗して溺れる危険もある。子供は自分の疲労に無自覚なことも多いから。
「悠馬ー! 早く来てー!」
「はいはい。遥は一旦上がるぞ」
パシャパシャと控えめなバタ足をしながらサメのフロートに抱きついている遥の方に戻る。それから。
「悠馬ー。よく考えたら海に入ったから、日焼け止め流れたかも。塗り直して」
うつ伏せの愛奈の要望。
ああもう。やることが多い。剛と麻美は本当に水着の上に服を着て車の方に向かったし。
俺ひとりで子守をするには、ちょっと手が足りない。
「疲れた……」
夏の遅い時間の夕暮れ時。日が山の方へ沈んでいく様を見ながら、俺は持っているコップの中のジュースを飲み干した。
魔法少女たちと泳げないちびっ子たちの相手を半日やってると、思っていたより体力を使う。フィアイーターと戦うより疲れたかもしれない。
海水をシャワーで洗い流して、それでもみんな水着を脱ごうとしなかった。買い出しから帰ってきた麻美と剛も、ロッジに入った途端に服を脱いで水着に戻る。
遥もちびっ子たちも、面白そうだと水着のままで過ごすことになった。キッチンで水着にエプロンをつけてステーキを焼いて、副菜も数品作っていた。ロッジに備え付けてあった大きな炊飯機で人数分の米も炊く。
ちなみに料理班に麻美は含まれていない。買い出しで自分の仕事は終わったとばかりに、ついでに買ってきた乾きものの肴を広げて愛奈と一緒に酒盛りだ。
ちびっ子たちがみんなキッチンに立っているというのに、なんて大人なんだろう。
「あー。ここに一生住みたい……」
「はい。お金の問題さえなかったら、こういう生活ずっと続けたいです」
「そうよねー。ねえ悠馬、こういう別荘でわたしを養えるくらいに稼いでよねー」
そんな酔っ払いたちの相手をする気力はなく、さりとてキッチンは定員オーバーで入ることはできなさそうで、俺は外に出たというわけだ。
ロッジによくある、建物を取り囲むように廊下と手すりがある謎の構造。そこに出て手すりにもたれかかって外を見ていた。
街頭なんか存在しない場所。日が落ちれば、ロッジから漏れる光と星明かりだけが頼りで、あたりは闇に包まれる。
暗い海を見ても別に面白いことは何もなく、俺はスマホに目を落とした。
樋口から特に連絡は来ていない。つまり、フィアイーターが現れるとかのトラブルは起こってないということだ。
「悠馬。ステーキ焼けたよー」
「ありがとう。今行く」
やはり水着姿の遥が、窓から顔を出して声をかけた。仕方ない。酔っ払いの相手に戻るか。ちびっ子たちに絡むのは止めないとな。
「あははー! 水着で過ごすのって楽しいわね! 開放感あるっていうか!」
「そうだな。姉ちゃんは、もう飲むのやめような」
「家に帰っても水着で過ごすのはありね。家の中だったら誰も文句言わないでしょ」
「俺が言うからな」
「もー。なによ悠馬。家長の方針に従えないのー?」
「家長の独裁には断固反対する」
「ノリが悪いわねー? ちゃんと飲んでる?」
「ジュースなら」
「酒飲みなさい!」
「未成年だぞ」
軽々しく法令違反をするんじゃない。
「なによ! お姉ちゃんのお酒が飲めないの!?」
「愛奈さん。悠馬くんが飲んだら、その分愛奈さんのお酒が減ると考えませんか?」
「!? た、たしかに剛あなたの言うとおりね! いい事言うじゃない!」
「恐縮です」
偉いと言いながら剛の背中をバシバシ叩く愛奈。剛は涼しい顔で受け止めている。
なるほど。こうやって躱せばいいのか。参考になるかは知らないけど、覚えておこう。
「お姉さん、酒癖が悪いと子供に悪影響ですよ。ちょっと控えてください」
「えへへー。遥ちゃん、なんかわたしのお母さんみたい」
「誰がお母さんですか!?」
「でも遥は、さっき自分はいいお母さんになれるかもって言ってたよな」
「言ったけど! 愛奈さんのお母さんにはなりたくないです! 愛奈さんはわたしのお姉さんです!」
「お母さーん」
「ちょっ!? 酒臭い!?」
遥もとんでもないことを公言してて、正直言って子供に悪影響を及ぼしかねないのだけど、愛奈が勢いよく抱きついたものだから、言葉は止まった。
「お母さん……温かい……」
愛奈はそのままズルズルと姿勢を崩し、椅子からも落ちて地面に膝をつけた状態で遥の膝に頭を載せた状態に。




