7-30.遥たちの水着
「さすがに、来てる全員が入れるほど大きくはないわねー。けど、悠馬と混浴するのには良さそう」
「しないからな」
「えー? でも、水着持ってきてるし。混浴するための準備でしょ?」
「海に入るためだよ」
保護者が積極的に風紀を乱すな。
「混浴は駄目かー。でも、露天風呂に入りながらお酒飲むとかはできるわよねー」
「飲むな。……ちょっとくらいならいいけど」
「ふふっ。悠馬のそういう所、好きよ。呼んだらお酒持ってきてくれるのよね?」
「……まあそうなるか? いや、女の誰かに持って行かせる!? 俺は行かない!」
「水着着てても?」
「駄目」
「そっかー」
ニヤニヤ笑いながら見つめてくる愛奈に、慌てて訂正をする。
愛奈の入浴中に入っていくなら、混浴とそんなに変わらない。
「引っかからなかったかー。ちなみに、わたしが水着着てお風呂に入ってる時にお酒持っていくのは?」
「……まあ、それくらいなら」
ちょっとくらいは、希望に沿ってあげてもいい。普段頑張ってるのだから。裸を見せようとしたら即座に出ていくけど。
愛奈も、こちらを見ながら嬉しそうに笑う。
「ふふっねえ悠馬。わたしの水着見たい?」
「別に」
それとこれとは別だ。
「遥ちゃんの水着は? てか、あの子泳ぐのかしら」
「……どうなんだろう」
足を失ってからの初めての夏だからな。
「みんな。昼ごはんにしようか。終わったら海に行くかい?」
「行く! 行きます! 海だー!」
「おいこら」
「夜はバーベキューよね!?」
「またか!?」
ラフィオが呼びに来た途端に立ち上がって、小躍りするようにダイニングルームに向かう愛奈。
こいつ、どこに行ってもやること同じなんだよな。
昼食は、行きにスーパーに立ち寄って買った弁当。夕飯はそのスーパーまで戻って材料を買うことになる。
その際に明日の夕飯くらいまでの食料は買うべきかな。合宿期間中の酒も、愛奈と麻美が欲しがっている。
まあ、今はそれよりも。
「さすがに剛も、女の水着を着ることはないか」
「ふふっ。期待していたかい?」
「いや、別に」
とても標準的な海パンを着る剛。ビキニとか着られても困るから、これでいい。
ラフィオも短パンタイプの紺色の水着を来ていた。白い肌がより際立って見えて、似合っている。
男三人は風呂場の前の脱衣所に追いやられてそこで水着に着替えることに。風呂は広くても脱衣所はそこまでではない。まあ、三人しかいないから問題はない。
女の方が圧倒的に数が多いからな。
「ふふっ。悠馬は誰の水着を期待しているんだい?」
「誰も」
「連れないなあ。でも、褒めてあげるんだよ? 特に、悠馬に見せてあげたいって思ってる女の子の水着は」
「……先輩の助言、痛み入ります」
男の着換えなんて時間のかかるものではなく、あっという間に終わり。そのまま露天風呂の方へ行き、ロッジの中と外を隔てている腰くらいの高さの手すりを乗り越えて外に出る。
ロッジの方に戻れば、愛奈たちが着替えてるところに遭遇してしまうから。
「悠馬ー! お待たせ!」
しばらくすると、遥の声が聞こえてきた。砂浜で車椅子は無理だからと、松葉杖で歩きながらの登場。
魔法少女としての色に合わせたのか淡いレモン色の、チューブトップのビキニ。腰にパレオをつけている。
「遥」
「なになに?」
「似合ってる。かなりかわいい」
「でしょー? わたしに似合うって確信したの買ってきたから! でもありがと! 悠馬に褒められるのが一番嬉しいな!」
「そ、そうか……」
褒めてもらえることを確信した態度。遥らしいと言える。
「ら、ラフィオ様! わたしの水着、似合ってますでしょうか!?」
「ラフィオー! わたしも見て!」
エリーとつむぎが、ラフィオの前まで駆け寄ってきた。
当然、ふたりとも水着。エリーは薄いピンク色のワンピースタイプの水着。短めのスカートがついていて、動くたびにそれが翻っている。
つむぎはセパレートタイプを選んだようだ。色は水色。ビキニほど大胆ではないけど、お腹を見せたスタイルは攻めの姿勢の現れだろうか。
もっとも、ラフィオにはあまり効果はなさそうだったけど。
「はいはい。ふたりともかわいい」
「なんか言い方が軽いんだけどー?」
「僕はお前たちが何着てようが、よほど変なのじゃない限りはかわいさを損ねることはないって考えている」
「えへへ。つまり、ラフィオはわたしのこと、かわいいって思ってるんだー」
「客観的な事実を言ってるだけだよ」
「もー。ラフィオってば照れちゃってー」
「おいこら! 離せ!」
つむぎはそういう評価でも嬉しいのか、満面の笑みでラフィオに抱きついた。
「ら、ラフィオ様。わたしも抱きついてよろしいでしょうか」
「あー。うん、いいよ」
「えー!?」
「し、失礼します!」
不満げな声を上げるつむぎに少し遠慮しながらも、エリーはラフィオに抱きついた。
ラフィオも、そんなに嫌そうな顔はしていなかった。
「おー。熱いねー。恋っていいね!」
「そうか?」
「尊い光景だよ」
俺にはよくわからない感想を口にする遥もまた、俺に近づいてきた。
「ねえ悠馬。体支えて。腰に手を回して、体を密着させて」
「こうか?」
「うん。そのまま海まで行こっかー」
お互いに水着姿。しかも遥はビキニ。
俺の手は遥の腰、というか横腹に直接触れている。そのまま体を寄り添わせれば、肌と肌が触れ合うことに。
その事実に、俺も少し心臓の鼓動が早まった自覚はあった。




