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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第7章 ゲストキャラとロマンス

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7-27.いつもの戦い

「来いよ黒タイツ。ガラスで遊んでも、誰も傷つかないぞ」

「フィー!」


 少し足を引きずった状態ながらも、素早い動きで接近してくる黒タイツの動きを見極め、飛んでくる拳を下がって避ける。


 壁際に追い詰められる前に曲がって逃げ場を確保。ちらりとエリーの方を見たら、階段を少し登って踊り場で様子を伺っていた。

 不安そうだったな。殴りかかるのが敵だけで、俺は逃げるように避けるしかしていないわけで。何も知らないなら負けそうと思うのも無理はない。


 黒タイツは、俺が恐怖を抱く様子がないのを気にしているようだ。目的達成のためにはエリーに向かっていった方がいい。

 いかに俺から逃れてエリーを襲うか。雑魚戦闘員のくせに無い知恵を振り絞ろうとして、彼女の方に数度意識を向けつつ、俺への攻撃を繰り返した。

 そんなことをすれば動きが雑になる。ずっと黒タイツの拳を掴んで、捻りながら初めて前に出て、奴の痛めている膝を蹴った。


 もちろん、これだけでは殺せはしない。だから体勢が崩れた奴の顔面を掴んで、壁に叩きつけた。

 廊下と階段の境目、九十度の直角になっている箇所に黒タイツの頭を何度もぶつける。武器があれば簡単に殺せただろうけど、周りにあるのは割れた窓ガラスくらいだから。


 十回は叩きつけてはないと思う。いつの間にか黒タイツは絶命して、消滅していった。

 周りに他の敵の姿はない。上では、まだ戦闘音が聞こえるけれど。


「エリー、もう大丈夫だ」

「は、はい。あの、助けていただき、ありがとうございます……悠馬さんは、いつもこんなことを?」

「いつもは武器を使って、こいつらはもっと簡単に殺せる。今回はちょっと手こずったな。ナイフが壊れたから」


 折れたナイフをなんとか折りたたんだ物の残骸を見せる。エリーは、少し怯えたように胸元のペンダントの先端をぎゅっと握りしめた。

 そういえばこれ、ずっとつけてるよな。普段、人の服装を全く意識しないから気づいてないけど。


「武器を使って……いつも、このような怪物と本気で戦ってらっしゃるのですね」

「まあな。姉ちゃんたちだけに任せるのも不安だから。上の様子を見たい。ついてきてくれるか?」

「は、はい!」


 エリーは俺の側にぴったりとくっついた。



「ラフィオ! こいつ押さえつけて!」

「ああわかってる!」

「フィアァァァァア!」

「手足はほとんど動かないはずです! ライナー、コアは見つかりますか!?」

「わかんない! ここのどこかだと思うけど! もうバッハ静かにしてよ! あった! ハンターから見て右側の上の方!」

「見えました!」


 肘と膝をに数本の矢を受けて動きが封じられた状態で、バッハの肖像画は上から何度も踏まれていた。あちこちに裂け目ができていて、中の闇が見えることだろう。

 コアの発見と同時に放たれた矢によって、それは砕け散った。フィアイーターは黒い粒子となって霧散していき、跡には無残な七不思議の欠片が残された。


「バッハの肖像画、壊れちゃいましたね」

「そうだなー」

「音楽室もちょっと壊れたかも。ピアノも修理が必要かな」

「下の廊下の窓も割れた」

「まあ、夏休みの間に業者が入って直してくれるでしょ」

「確かに! 普通の日になっちゃうより、ずっといいですね! ……バッハの肖像画も買い直してくれるでしょうか」

「どうかな。バッハだけ買うとかできるのかな」

「というか、これって買うものなのか?」

「買えはするんじゃないかな。業者から買うんだと思う」

「バッハ単品で?」

「どうなんだろ。セット売りしてるものなのかな。事情が事情だから、バラ売りしてくれるかもしれないけど」

「あ、あの!」


 戦いが終わって一息ついた俺たちが繰り広げる中身のない会話に、エリーが遠慮がちに声をかけた。声が微かに震えている。見れば、身も震わせていた。

 怖かったのだろうな。怪物との戦いを見るのは初めてだ。そういえば、愛奈も最初は震えながら、なんとか戦えていた。


 遥とつむぎは、ちょっと特殊なパターンだしな。


「心配することはない。戦いは終わったんだ。僕たちは大して苦戦することなく勝てたし、三人いる魔法少女のうち、ふたりだけでも余裕で勝てた。いつもこんな感じだ」

「そう、なんですね……」

「ハンター。変身を解いてくれ。先生がエリーとつむぎのことを心配してた。顔を見せてやれ」

「はーい。怪物に襲われたって思ったんでしょうか」

「そうだ。俺たちに助けられたことにしよう」

「はい! さ、ラフィオも小さくなって」

「わかったよ」


 巨大な獣から小さなモフモフに変わり、つむぎの腰に抱きつく。アクセサリーのつもりだろうか。かなり変わった形だけど。



「ごめんなさい。エリーちゃんとふたりで、空き教室に隠れてました」


 つむぎは職員室の前で、教師の前で申し訳なさそうな顔をしながらペコリと頭を下げた。エリーも、ぎこちない動きだけどそれに続く。

 教師たちは心の底から安堵したという顔をしていた。そして、変身したままのライナーと覆面のままの俺に何度もお礼の言葉を述べた。


 隠れている間に魔法少女たちがやってきて怪物は倒された。だからつむぎたちには何も怪我とかはない。なにも問題はない。

 このまま、つむぎたちと一緒に帰るわけにはいかず、俺は一足速くライナーに背負われて家に帰った。学校関係者の前でだ。つむぎたちも先生に送られるということで、すぐにマンションまで来た。


「へー。そんなことがあったのね。良かったじゃない。警報すら鳴らずに怪物を倒せたなら上出来よ」


 何もしなかったどころか、知りもしなかった愛奈が酒を飲みながら呑気に言う。言ってることは正しいんだけどな。


「でも、懐かしいわね小学校。まだあそこに七不思議ってあったんだ」

「姉ちゃんの時にもあったのか?」

「ええ。校庭のお墓は聞いたことあるわ……正直、ちょっと怖かった」


 あんなふざけた噂話でも怖がるのだから、愛奈の苦手意識は相当だな。

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