7-16.エリーに自己紹介
普段はラフィオとつむぎのふたりがかりだし、ふたりとも平均よりは腕力あるからな。
とはいえ普段から運動をしているわけでもないエリーには、荷が重かったか。
「ら、ラフィオ様はこれを軽々と?」
「ラフィオひとりじゃ無理だ。ほら、持ってやるから」
「恐縮です……わたしも、ラフィオ様のお役に立ちたいのに……」
バケツを持って、樋口の車まで運ぶ。せっかくだから使わせてもらおう。エリーは自力で、ここから家まで運ぶつもりだったらしいけど。
そんな彼女は、落ち込んでいた。
「わたし、ラフィオ様に気に入ってもらえるでしょうか」
車の後部座席で、バケツを挟んで隣に座るエリーは不安顔。
石を運べなかったから落ち込んでいるわけではない。新しい生活への不安があるのだろう。
「気にするな。みんな優しい。迎え入れてくれるさ」
「そうでしょうか。ですが、魔法少女のことを知った上で皆様の輪に加わるのですから、わたしもなにか役に立たないと」
「……」
俺がいくら、心配するなと伝えても不安を払拭はできない。それは俺の仕事ではない。
実際に、みんなと触れ合ってもらうしかない。
「エリーちゃん久しぶり! 聞いたよー。うちに住むのよね。よろしくね!」
愛奈と麻美は既に来ていた。庭にレジャー用の椅子を出して、既にビールを飲んで寿司をつまんでいた。
遥たちはキッチンで準備中なのに。
「あ、はい! 愛奈さん、お世話になります! ええっと、そちらは」
「愛奈さんの後輩の、市川麻美です。仕事で忙しい先輩のサポートをして、魔法少女として戦いやすいようにしています」
「そうなんですね。すごいです!」
「えー? エリーちゃんってば、わたしより麻美の方がすごいって思ってないー?」
「えっ。そ、そんなことはありません!」
「子供にウザ絡みするな」
「あうー」
エリーの方に身を乗り出した愛奈を引き戻す。
「あははー。澁谷さん肉ほしい!」
「ちょっと待っててください。すぐに用意しますから」
庭の一角で、澁谷がコンロの前でトングを持って肉をひっくり返していた。
「澁谷に料理を押し付けるな。お前も働け」
「えー! やだ! わたしはもう働きました!」
「わたしも、夕方の番組に出た後なんですけどね」
「なんなら澁谷の方が頑張ってるよな」
「なによ! 悠馬はお姉ちゃんの頑張りを認めなさいよ!」
「だったら肉は自分で焼……かせたらまずいな」
下手したらコンロが大炎上しかねない。
「仕方ない。俺が焼くか」
「あ。大丈夫です。わたしに任せてください」
「え」
澁谷が少し焦り気味に制止した。
「あははー。悠馬の料理の腕も信頼できないみたいよー。ほらほら。悠馬はわたしの隣に座って、お酌しなさい」
「断る。エリー、あのお姉さんは、澁谷梓っていう人だ。この街のテレビ局でアナウンサーやってる」
「アナウンサー! すごいです! 有名な方なんですね!」
「よろしくね、エリーちゃん。有名って言うほどでもないけどね」
「いえ! テレビに出ているのなら立派な有名人です! あの、お肉焼くの手伝いますね!」
「ありがとう。火には気をつけてね」
「はい!」
駄目な大人たちよりは、比較的しっかりしてる澁谷の方に行った。
なんて的確な判断。
炭火の熱さに少し腰が引けながらも、トングを手に肉をひっくり返すエリーは可愛らしく、微笑ましい気分で見つめていた。
「そうです。エリーちゃん、上手ですね。やはりアメリカでは、こういうバーベキューはよくやっていたのでしょうか」
「いえ。うちは都市部で、庭のないアパート住まいだったので。こういう経験はあまりなくて」
「そうなんですね。じゃあ、これから楽しいことたくさんしましょう」
「はい! あ、そういえば。アメリカではこのように火で肉を焼くのは、バーベキューではなくグリルと言うんです。バーベキューは肉を蒸し焼きにする料理で」
「そうなのですか!」
そんなふうにお喋りしているエリーは、既に澁谷と打ち解けている。
澁谷の社交的な性格もあるのだと思うけど、エリーが人懐こいのも大きいのだと思う。
遥たちとも、すぐに仲良くなったと言うし。
「いい子よね。礼儀はしっかりしてるけど、人に対して物怖じしない。初対面の人の目を見て堂々と会話してるの、子供なのに立派だと思うわ」
「そうですよね。これくらいの子供だと、人見知りすることも多いのに。いい子ほどそうです。恥ずかしがって、大人とは喋りたがらない。あ、先輩どうぞどうぞ」
「うむ。苦しゅうない。麻美も」
「ありがたやありがたやー」
愛奈と麻美がエリーを見ながら人柄を評価していた。言ってること自体は的確なのだろうけど、互いのプラスチック製ジョッキにビールを注ぎ合って変なことを言いながらだから、格好がつかない。
「確かにあの子、堂々としてるわね。警察に怯えているとのことだったけど、警察でも病院でも大人に物怖じしてなかったわ」
「そうなのか?」
樋口も座ってビール缶を開けながら俺に話した。
「受け答えははっきりしてるし、結構物言いは強い子よ。父……クローヴスについてどう思ってるか、取り調べの警官が聞いたの。悪人だとはっきり答えた。この国に迷惑をかけた、犯罪者だって。養母のことも、人として失格と言い切ったわ」
「……強い口調で?」
樋口の言ったことと、澁谷の隣で肉を焼いてるエリーの姿が一致しなかった。




