7-15.エリーとの再会
「エリーは今日の夕方、樋口に付き添われて俺の家に来る」
「そっかそっか。歓迎パーティーしないとね! あの拠点で、アメリカンなバーベキューとか!」
「やるか。麻美たちも呼ぼうか?」
「呼ぼう呼ぼう! 盛大にやらないと。あと大人の財布は使わせてもらわないとね! 澁谷さんたちのお金で高いお肉とか買っちゃおう!」
「あー。金は樋口が出してくれるって。全額。あと当面のエリーの生活費も」
「え? なんで? 確かに愛奈さんもお金のこと気にしてたけど」
「政治家がポケットマネーで出してくれたそうだ」
『あいつら、魔法少女にビビってお金が欲しいって言ったら喜んで出してくれたわよざまあみろ!』
樋口が電話で異様なハイテンションで言ってたのを思い出した。
トライデン社関係で、中央の政治家には俺もそれなりに不信感は持ったけど、樋口の鬱憤はそれどころではないのかもな。
試しに、国会議員の金で今日は盛大なパーティーを開きたいとメッセージを送ったところ、すぐに了承の返事が来た。
愉快に仕事をしているようで良かった。
「あー。エリーちゃんには和食も食べてもらわないとね。お寿司とか。お刺身とか」
「外国人だけど、食えるかな」
「物は試しだよー。おっきいお寿司のパック買っちゃおう。トロのお刺身も買おう。国会議員の人たちって、そういうお料理を毎日食べてるんだよね?」
「さすがにそれは偏見だ」
「夕食は毎晩、高級料亭とか。和服の女将さんが、わざわざお酒をお酌してくれるの。で、他の政治家と悪い話するんだよ。そちも悪よのー、みたいな。賄賂も飛び交う」
「昔の時代劇かよ」
そんな、中身のない会話をしながら、高校生にはちょっと手が出づらい価格帯の食品を思いつくままに買い物かごに入れて、それに対し不審な様子を見せないプロの接客をするレジを通して拠点の家まで向かう。
ラフィオとつむぎも来ていた。つむぎは最近毎日、俺からラフィオを強奪して一緒に学校に向かっている。
愛奈たち成人組や剛も、もうすぐしたら来るそうだ。
それまでに料理のの準備だけど。
「あ。悠馬はキッチンに入らないで」
「なんでだよ」
「悠馬に料理は無理だから。お寿司とかピザをテーブルに運ぶのだけやって。ここは、わたしとラフィオとつむぎちゃんに任せて」
「あー。わかったよ」
「そうだ悠馬。魔法陣に置かれた石の交換をしておいてくれ。古い石を河原に戻して、別の石を運ぶだけでいい」
肉体労働を押し付けられてしまった。やるけど。
「戻すのはいいとして、持ってくるのはどの石がいいかとか、俺わからないぞ?」
石には魔力が溜まっているらしいけれど、それはラフィオにしか見えない。
「直感で拾ってくれ。ランダムに選んでも、それなりに魔力の入った石は当てられるものさ。それにもし、既に魔力が抜けた石を拾ってきても大丈夫だ」
「なんでだ」
「拾い直しに行けばいいだけだよ」
「それは断る」
「ははっ。とにかく、やってくれ」
わかったよ。
なんか、ラフィオのノリがいつもより軽い気がする。
浮かれてるというか。エリーが来るのが、それだけ嬉しいのだろうな。
バケツに石を入れて運ぶ。単純に重労働だけど、普段から鍛えているだけあって無理な作業ではない。
黒タイツよりは軽いし。あれを引きずり倒すよりは、腕力は使わない。まあ運動の種類が違うのも事実だけど。
「普段の修行の成果が出てるわね」
河原の石の上でバケツをひっくり返すと、知った声で話しかけられた。
「樋口。思ったより早かったな」
「ええ。この子に関する手続き、早く済んだから。権力者の後ろ盾って便利ね」
「こんにちは、悠馬さん」
河原に面した道路に乗用車。樋口が窓から手を降っている。
助手席に座っていたエリーが、わざわざ車から降りて挨拶した。礼儀正しいのは素晴らしい。
血色が良くなっている気がする。着ているのもドレスではなく、カジュアルな印象の薄手のワンピース。足は明るい色のスニーカーと、日本の女の子の夏の服って感じだ。
心なしか、前より元気になってそうだ。
「悠馬さんは何をされているのですか?」
「石を集めている。新しい魔法少女が変身するために必要らしい。詳しくはラフィオに聞いてくれ」
「まあ! それでは、わたしのために。あの魔法陣まで運ぶのですね!」
「そうだ」
ラフィオは、既にエリーの適性について本人に話してるのだったかな。
君こそが、四人目の魔法少女にふさわしいと。リビングの大部分を占拠する魔法陣だって、エリーは気にしただろうし既に説明していたか。
「わたしも手伝います!」
「え?」
「ここから石を、家まで運べばいいのですね!」
「まあ、そうだけど」
「どの石がいいのでしょう。悠馬さんは、普段はどのようにされているのですか?」
「普段はラフィオが石を選んでる。魔力の溜まった石はラフィオにしかわからないから」
「そうなのですね! さすがラフィオ様!」
「ラフィオとつむぎで、一緒にバケツを持ってここまで行き来している」
「つむぎさんと……」
なにか、対抗意識を燃やしてしまったらしい。
「わたしのための宝石を作るのです。わたしが頑張らなければ!」
エリーは良さそうな石を手に取ると、次々にバケツに放り込んでいく。そして石でいっぱいになったバケツの取手を持ち。
「ぐぬぬ……んー!」
持ち上げようとして、できなかった。




