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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第7章 ゲストキャラとロマンス

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7-3.クローヴスの娘

 とにかく、上機嫌になったつむぎが足取りも軽くリビングに戻っていくのに、ラフィオもついていった。

 椅子に座った少女はおとなしくしていたけれど、視線は魔法陣の方に注がれていた。確かに、何も知らない人が見れば奇妙に思えるものだろう。


「プリンしかなかったけど、いいよね? 食べられる」

「あ、はい。ありがとうございます……」

「もう少ししたら、知り合いの大人の人を呼びます。みんな、秘密を守るのは得意な人です」


 ラフィオではなく、つむぎが少女と会話している。不安そうな少女に、にこやかに接していた。

 大人を呼ぶという言葉に、少女はどうしても不安を隠しきれない様子だ。


「安心してね。悪い人じゃないから。それで……えっと。あなたを、なんて呼べばいい? 名前を教えてください。わたしは御共つむぎ。こっちはラフィオ。わたしの彼氏です!」

「おい」

「彼氏……」


 それを聞いた少女は、少し残念そうな表情を見せた。けど、訊かれていることにはちゃんと答えて。


「はじめまして。わたしはエリザベート・クローヴスと申します。エリーと呼ばれることも多いです」


 なるほど。エリー。かわいい名だ。

 いやそれより、問題は。


「クローヴス?」

「はい。父の仕事についてきて、この国にやってまいりました」



――――



 病院で目が覚めて、隣には姉の姿。腕を枕にしてベッドに突っ伏して寝息を立てている愛奈をしばらく見ていると、スマホに着信があった。

 つむぎからだった。


『ゆ、ゆゆゆ悠馬さん! 大変です!』

「どうした?」

『あの男の娘さんが倒れててプリン食べてます!』


 うん。わからない。


『代われ。僕が話す。悠馬、クローヴスの娘が見つかったと、樋口から連絡はあったか?』

「いや。妻は捕まったそうだけど、娘の方は見つかってない」


 おいまさか。


『見つかった。今、拠点の家に匿ってる。写真を送るぞ』


 アプリに一枚の写真。リビングの魔法陣を背景にして、金髪の少女がプリンを食べている。


 少し肩身が狭そうな表情をしているのは、見知らぬ土地で他人のお世話になっている申し訳なさだろうか。

 その顔も、表情も見覚えがあった。一度は父と共に登壇したのを生で見たし、テレビ画面でも目にした。


 街頭演説で父の引き立て役として連れ回されて、居心地悪そうにしていた映像。その時のニュース映像を調べて、ラフィオからの画像と同じ人物だと確信した。


「姉ちゃん! 起きろ!」

「むうー。もうちょっと……あと五時間寝かせて」

「病院で聞くセリフじゃない」

「悠馬。どうしたんだい? そんなに慌てて」

「なあ剛。フライパンとお玉の代わりになるもの、病院にあると思うか? 愛奈を叩き起こしたい」

「ちょっ! やめっ! それはご勘弁を!」


 慌てた様子で飛び起きた。


「姉ちゃん。クローヴスの娘が見つかったって連絡があった」

「樋口さんから?」

「いや。つむぎから。今はラフィオと一緒に拠点で匿っている」

「んー?」


 わからないという風に首を傾げる愛奈。俺も正直言えば同じ気持ちだ。


「樋口に連絡してくれ。退院して、娘の顔が見たい」

「そうよね。あの男の娘だから、悪い奴かもしれないのよね。あの子たちだけで一緒にいさせるのは不安よね」

「そうだな」


 その心配もあるか。


 けど、写真を見た印象では、あの少女に悪意は感じられない。


 愛奈が樋口に電話するのを見ながら、俺はナースコールを押す。さっさと退院させろと言うために。

 電話の向こうの樋口がなんて言ってるかは正確にはわからないけど、めちゃくちゃ取り乱した声が漏れ聞こえてきた。

 大変だなあ。


 退院手続きは問題なく済んで、俺と剛は病院着から私服に着替えた。


「剛ってさ」

「なんだい?」

「私服もなんか、中性的なのは趣味なのか?」

「ふふっ。魔法少女の格好をするのが気持ちよくて。制服は仕方ないけど、私服は趣味を強調してみてるんだ」


 一見するとスカートにも見えるような、ふんわりとした袖のボトムスを揺らしながら、剛が優雅に病院内を歩く。

 顔立ちもあって、女に見えてしまう。


 病院の駐車場で、樋口が用意してくれたタクシーが待っていた。俺と愛奈で乗ろうとして、そして剛も同行しようとした。


「あなたは家に帰らなくていいの? なんか家族が心配してそうだけど」

「いいんです。どうせ小言を言われるだけなので」

「小言を言ってくれる家族がいるっていうのは、幸せなのよ」

「……そうですね。気が変わりました。この件はお任せしてもいいですか?」

「ええ。何かあったら連絡するわ。悠馬がね」


 というわけで、剛とはここで一旦別れることに。


 俺も愛奈に同意見だ。家族とは、いる間は一緒に過ごした方がいい。愛すべき家族の場合は特に。それをよくわかっている彼は、ぺこりと頭を下げて駅の方まで向かっていった。

 頼りたくなった時は、また頼らせてもらおう。


 タクシーはプロ精神を感じられるような静かな運転で、拠点としている一軒家まで時間をかけずに到着して。


「まったく……まったく! 夜通し働いて関係者との調整も済ませて! ようやく寝られると思ったのに! 思ったのに!」


 同じく家まで来ていた樋口とばったり会った。

 目の下には濃い隈。俺が病院で寝ていた間も、公安は後始末に走り回っていたらしい。

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