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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第6章 新装備、新フォーム

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6-49.つむぎと両親

「ただいまー!」


 つむぎが、誰もいない家に元気に帰宅した。彼女にとってはいつものこと。けど、今日はちょっと特別で。


「ラフィオ! 家の掃除手伝って! 綺麗にしてたら、お母さん褒めてくれるから!」

「はいはい……」


 ラフィオの手で、御共家はそれなりに掃除された。けど、まだまだ綺麗にする余地はある。

 両親を迎えるんだ。ちゃんとしてあげてもいいかも。時間がない、急がなきゃ。


「あと、今日はラフィオはわたしの家に泊まるんだよね!?」

「そうなるな」


 双里家は家主が帰ってこない。ドアには鍵がかかっていて、ラフィオは鍵を持ってない。


「えへへ。お父さんとお母さんに、彼氏ですって紹介しないとね!」

「やめろ! 別に僕は人間の姿で出迎えるわけじゃないからな! 親が帰ってきたら、小さくなって隠れるから!」

「えー。あ、お母さんからだ。もしもし?」


 つむぎのスマホが鳴り、電話に出る。今日は今から帰ります。そんな、わかっていた内容を、つむぎは初めて聞いたような風を装って受け答えしていた。

 顔だけは満面の笑みだった。嬉しさを隠す気がまったくなかった。


「えへへ。じゃあ待ってるね!」


 電話の向こうの母と話しながら、つむぎは少年姿のラフィオを抱きしめた。こちらの存在を電話の向こうの親に知られるわけにはいかないから、ラフィオはなんとか口を閉じる。

 くすぐって妖精の姿にされて、電話しながらモフモフするのかと思ったら、そうではなかった。


 母と話しながら、つむぎはラフィオを片手で抱きしめて、頭を撫でた。愛おしむように。


「お母さんと話したいこと、いっぱいあるんだ。学校のこととか友達のこととか。悠馬さんたちのこととか……あとそれから……えへへっ」

「ぐえっ」


 ラフィオのことを話したいんだろうな。それをして、面倒な言い訳をしなきゃいけなくなるのを回避するだけの判断は、つむぎにもできた。

 仲の良い男の子ができた、くらいは話すかもしれない。けど魔法少女の妖精のことは黙るだろう。

 その代わり、ラフィオを抱きしめ続けた。掃除しなきゃいけないんだけどな。


 体に触れるつむぎの腕と胸の感触は、ちょっと苦しかった。けど、幸せでもあった。


 つむぎはかわいい。それは間違いない。

 ラフィオは、自分の心が揺れているのを感じる。

 このモフモフ女を好きになるなんて、ありえない。けど、少しだけ。ほんの少しだけ惹かれていた。


 僕が、他の女の子を好きになることってあるのかな。



――――



「クローヴスの妻が確保されたわ」


 深夜。愛奈の着替えを持ってきた樋口が、紙袋を掲げながら別の話題を話した。


「金持ちの妻役として振る舞うために用意されたブランドもののバッグやドレスをたくさん抱えながら、夜の空港で英語で喚いていたのを発見されたわ」

「帰国しようとしてたのか」

「そうね。それも急いで。一晩市内に潜伏して、翌朝出発するって考えもなかったらしいわ」


 夫であるクローヴスは見捨てて、ひとりで逃げた。元々愛なんかなかった。クローヴスが死んだことも、興味の外だろう。


 あの女の興味は、結婚によって得た金だけ。


 日本語ができない彼女は深夜のタクシーを捕まえて、なんとか空港までは行けた。けど、飛行機の乗り方も知らなかったのだろう。空港が夜中は閉まってることもわかっていなかった。

 アメリカ行きの飛行機に乗せろと警備員なんかにまくしたたているのを逮捕か。馬鹿馬鹿しい話だ。


「特に罪を犯したわけでもないから、逮捕勾留されるわけでもないけど。少ししたら強制送還ね」

「その後は?」

「さあ。彼女はトライデン社にとっては何の価値もない女。仕事を世話するとも思えない。まあ、美人だから働き口はあるでしょ」


 大企業の重役の妻の座を手に入れた後では、喪失感は半端ではないものだろうな。

 所詮は儚い夢だったわけだ。


「あと見つかってないのは……クローヴスの娘」

「いたな。そんなの」

「ええ。どこにいるのかしらね」


 妻よりはすぐに見つかりそうな気がするけれど。


 異国の地で少女がひとり。妻と同じく、同情するべきではないのかもしれないけど、心細く思っているだろうなとは予想できた。


「もう。悠馬は難しいこと考えないの。ほら、今日は頑張ったんだら寝なさいな」

「姉ちゃん」

「なあに?」

「当たり前のように、ここで着替えようとするな」


 バニー服に手をかけた愛奈を止める。


「大丈夫よ。弟の前で着替えても、別に恥ずかしくないし。樋口さんの前はちょっと迷うけど」

「俺の前でも迷え」

「ふふっ。悠馬はお姉ちゃんの裸、意識しちゃってるのね」

「そういう問題じゃない。樋口も何か言ってくれ」

「わたしの前で着替えるのが恥ずかしいなら、出るわね。仕事に戻るわ」

「おい」

「家族を大事にね。あなたには、ちゃんとした家族がいる。クローヴスと違ってね」

「ああ」


 そんなこと、言われなくてもわかっているさ。

 着替える愛奈から目を背けて、俺はベッドに寝転がった。

 姉の生着替えなんか絶対に見ないからな。


 けど、家族がすぐ近くにいることは、幸せだと思えた。

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