6-47.バニーお姉ちゃん
「あー。なんというかな。気分? そう! 気分よ!」
「違いますよね、お姉さん? こんな所に魔法少女がいたら目立ちますよ? 早くお姉さんに戻ってくださいよ」
「い、嫌よ! 絶対に嫌! 今日は帰るまでこの格好で過ごすから」
「えー? なんでですかー?」
「遥ちゃん知ってるのに訊かないでよ!」
遥はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべてセイバーを問い詰めていた。
「セイバー。諦めろ。君が病院の誰かに見られたら、魔法少女の周囲の人間が世間にバレる危険が高まる」
「そうですよセイバー! それに、わたしはかわいいと思いますよ!」
ラフィオは呆れ気味。つむぎは愉快そうにセイバーを追い詰める。あの家にいた奴らは、セイバーの動揺の理由を知ってるのか。
「姉ちゃん」
「ううっ……悠馬、笑わないでね?」
セイバーは変身を解き、愛奈へと戻った。
俺の姉は、バニーガールの衣装を着ていた。
ウサギ耳のカチューシャはつけてないけれど、胸元の開いた黒いレオタードと網タイツは、どう見てもバニーさんだ。
安物なんだろうな。愛奈の薄い胸を覆う箇所から、ビニール製の肩紐が伸びていた。
「姉ちゃん……」
「先輩……」
「くあぁっ!? 弟だけじゃなかった! 後輩にも見られてしまった!」
「ええっと。先輩、素敵だと思います!」
「やめて慰めないで余計に辛くなるの!」
「でも、なんでバニーガール?」
「遥ちゃんのせいだから!」
たしかに遥が、パーティーとバニーさんのことを話してたけど。
で、遥がバニーさんを妙に意識してしまってコスプレ衣装を通販で買った上で持ってきてしまい、見つかって愛奈とどっちが似合うかで言い合いになった。
試しに愛奈が着たところ、ものすごく恥ずかしい気持ちになって脱ごうとしたところで、フィアイーターが出てしまったためにそのまま変身したということだ。
「ゆ、悠馬!」
「なんだよ……」
「わたしのバニーさん、似合うかしら!?」
「は?」
「ものすごく恥ずかしい思いをしてこんな格好をして、みんなに見られてるのよ! せめて! 愛する弟から似合ってるって言葉を聞けば救われると思うの!」
どんな理屈だろう。既に救いようのない状態だと思うけど。
「さあ悠馬! 言って! お姉ちゃんのバニーさんは可愛いって! 遥ちゃんが着てるのを想像しても、そっちよりもわたしの方が上だって!」
「えっと」
「悠馬流されないで! お姉さんみたいな胸が貧しい人にバニーさんは似合わないって言ってあげて! 夢を見させないで! というかわたしの方が似合うし!」
「わたしだもんねー! 貧乳でもバニーさん似合うし! というかわたし、貧乳じゃないし!」
「いえ、先輩は驚く程、その、貧乳だと思いますよ?」
「麻美ー? 偉大な先輩に無礼な口を聞くのは……この乳かー!?」
「ひぃっ!? 先輩ごめんなさい!」
バニー愛奈が麻美の前に出て胸の膨らみを鷲掴みにする。少なくとも、偉大な先輩のやることではない。
「あんたもよ澁谷さん! 巨乳だからっていい気にならないでね!」
「わ、わたしですか!?」
微笑ましく騒動を見守っていた澁谷も、自分に矛先が向いて慌てて両腕で胸を隠した。一般的に見ても立派なものをお持ちの澁谷の胸の膨らみに、愛奈は獰猛な目を向けていて。
「ガルル……その胸、奪ってやる」
「どうやってですか!?」
「悠馬。あの愛奈さん見てどう? あれでも、かわいいバニーさんって言える?」
「言えないのは間違いないな」
「つむぎちゃんもラフィオも、あんな大人になっちゃ駄目だよ?」
「ラフィオは、わたしがバニーさん着たら喜ぶ?」
「別に。喜ばない」
「えー。そっかー」
「ラフィオは、つむぎちゃんはどんな格好でもかわいいって前にも言ってたもんねー」
「おい!」
「えへへ! もー、ラフィオはわたしのこと大好きなんだね!」
「離せこら!」
「それで悠馬! わたしのバニーさんどう思う!?」
「うわっ!? 俺が答えるまで永遠に騒ぎ続けるつもりかよ姉ちゃん!?」
「そうです! あ、なんなら格好だけじゃなくて、バニーさんにふさわしいご奉仕とかしてあげよっか?」
「ちょっ!? 愛奈さん奉仕って何を!?」
「お飲み物をお持ちしますね、お客様」
「あ、そういう」
「あんたたち。病院では静かにね」
樋口が病室の出入り口で呆れた顔をしていた。
「剛も起きちゃったでしょ?」
「あ。ほんとだ。ごめんね剛くん」
「いえ、お気になさらず……バニーさん?」
「うん! バニーお姉ちゃんです。ねえ、剛くんはこれ、似合ってると」
「麻美。あの馬鹿を止めてくれ」
じゃないと同じ話題を延々繰り返す。
「むぐー!」
後輩に口を押さえつけられて病室の隅に追いやられるバニーガール。本当に、なんて姉だ。
「ふたりとも、具合は良さそうね。明日の朝まで休んでなさい」
「トライデン社はどうなった?」
「クローヴスが死んで、残った社員も全員が拘束されたわ。クローヴスがアピールのために連れて行った妻子も、探してるところ」
あのふたりは、システムや部隊の運用に関わりはない。ただの看板だ。公安としても、捕獲する優先度は低いか。




