6-46.強いから死んだ
衰弱して動けないフィアイーターに、ハンターが抱きつきお腹の毛を思いっきり握りしめた。
その間に、ラフィオは奴の体に爪を立てる。毛皮と呼ぶべきかはわからないけど、毛に覆われた皮膚を切り裂き、こじ開けて漆黒の中身を覗く。
「あった! ハンター、コアだ! 射抜いてくれ!」
「うん! モフモフカラスさんおやすみなさい!」
必要なことは、ちゃんとハンターの耳に入っている。彼女は体の裂け目から正確にコアを射抜いて、フィアイーターをカラスの死体に変えた。
「喰らえ! セイバー突き!」
トラックの方も片がついたようだ。
ドローンによって荷台も牽引車の部分もボコボコにされたフィアイーターは、いつの間にか横転していた。そんなトラックの下部もあちこちがへこんでいて、さらに剣によって裂け目が作られている。
そこからコアが見えたのだろう。セイバーの一突きによって砕けて、後には横転してあちこちボロボロなトラックが残るだけ。
ドローンたちも、壊されたままその姿を地面に晒している。一応、荷台を開けて中を見てみる。ドローンの制御装置はこの中にあるはずだけど。
「壊れてるわねー、コンピューター」
「みたいだね」
操作端末や、装置本体と思われる物はあった。フィアイーターによるトラックとしては常識外の動きと、セイバーの猛攻。あとレールガンの弾丸がトラックを貫いてカラスに当たったとかの要因で、完全に壊れてるいるようだった。
「これ、どうなるのかしら? ここに放置ってわけにもいかないわよね」
「樋口さんが回収してくれるんでしょうか」
「かもねー。トライデン社の人が、うちの資産だー! って言って持っていこうとするかも」
それはありそうだ。もう、奴らはこの国では好き勝手はできないだろう。けれど自社の技術の結晶であるトラックの残骸を放置するとも思えない。
「ところで、クローヴスはどうしたのかしら。悠馬がコードを聞き出せたんだから、ボコボコにされたのだと思うけど」
「先輩!」
古めかしい電源車が走ってくる。窓から、麻美が身を乗り出して声をかけて。
「悠馬くん、病院にいるそうです!」
「病院!? ちょっ! 悠馬は無事なの!? どこの病院!? すぐ行くわよ!」
滅多に見ないような慌てぶり。樋口からの電話では大したことではないと落ち着かせて、魔法少女の足ではなく電源車で、先日も行った病院まで向かった。
――――
夜間に突然押しかけて検査をしてくれとお願いされて、病院側は快く応じてくれた。警察の力はすごいな。それか樋口の事前の根回しがあったのか。
とにかく、俺も剛も問題は無し。明日の昼には退院だ。
また、病室で日曜日の朝にミラクルフォースを見ることになるのかな。いや、見る必要なんかないけど。
剛は足に軽い捻挫があったものの、少し休めば普通に歩けるようになるとのこと。結構ないい所の実家には、怪物騒ぎの中のアクシデントの中で転んだと説明されるそうだ。
今は隣のベッドで眠っている。
雇用主であるホテルにも、バイトがふたりいなくなったことへの言い訳はなされているらしい。ホテルの持つ俺の情報も消されて、ウェイターの格好をしていた覆面男の正体が割れることもない。
樋口と、その指示で動いてくれた警察には感謝しかないな。彼女は検査結果と俺の無事を確認すると、仕事の続きをするとかでスマホを片手に病室から出ていった。
「ほんと、悠馬が無事で良かったよー。クローヴスが落ちてきた時は驚いたけどねー」
遥が俺のベッドの横に座って、笑顔で話しかけていた。車椅子も松葉杖もあの家に置いてきたから、壁には病院で借りた松葉杖が立て掛けてある。
夜だし家に帰らなくていいのかって疑問はあるけど、誰かがそばにいてくれるのは嬉しい。
それにしても、クローヴスは。
「あいつが落ちる所、見たのか」
「見たっていうか、近くに落ちたというか。あ、気にしないで。死体とかちゃんと見たわけじゃないし。突然でびっくりしたけど、トラウマになったりとかはないです!」
「そ、そうか……」
笑顔で親指を立てる遥は、強いな。
俺は気にしてるのに。
「落としたんだよな、俺が」
「気にすることないよ。あいつが無理に抵抗したから悪いの。悠馬を気絶させるくらい殴って、そのせいで落ちて死ぬんだから馬鹿だよねー」
「そうだな」
クローヴスは俺より強かった。この国で兵器を売り込むために、強い男のイメージが必要だったのだろうな。だから鍛えた。
「あんなに強い男の人と戦って勝ったんだから、悠馬はすごいよ!」
「ああ。でも、俺もまだまだ。鍛えないと」
場所の都合や、武器になるものがあった場だから勝てたわけで。
それに頼らない、ちゃんと強い男にならないと。
「ストイックだねー。ま、わたしも協力するけどね! 悠馬には強くて頼れる男の子になってもらって、わたしの自慢の彼氏に」
「悠馬! 本当に無事なの!?」
遥がなんかいい感じの雰囲気にしようと試みていたけれど、病室に飛び込んできたセイバーのおかげでぶち壊しになった。
後ろに、つむぎやラフィオもいる。少し遅れて麻美と澁谷も。
「問題なしだよ、姉ちゃん。すぐ退院できる」
「良かったー! 悠馬になにかあればどうしようかと。ほんと、すぐ無茶をするんだから……でも、頑張ったのよね。偉いわ」
「姉ちゃん……」
俺の頭を撫でるセイバー。それは、とても温かな感覚で。
それはいいんだけど。
「なあ、なんで魔法少女の格好のままなんだ?」
「え?」
ここまで魔法少女の脚力で走ってきた可能性はあるだろう。けど、変身したまま病室まで来る必要はない。敵はとっくにいなくなったし、つむぎを見れば変身は解いている。




