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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第6章 新装備、新フォーム

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6-43.激闘の後

「っ! あ、危なかったわ……」


 めちゃくちゃになっているパーティー会場に踏み込んだ樋口が見たのは、悲鳴をあげながら落下するクローヴスと、その後を追うようにして倒れる悠馬の姿だった。


 自分でも驚くほどの速さで駆け寄り、悠馬の襟をギリギリで掴んで引っ張った。

 完全に気を失っている彼を抱きしめるようにして、会場の床に転がった。


 目的は果たした。クローヴスはコードを言って、それは悠馬の服に入った盗聴器から樋口にしっかり伝わっていた。壮絶な殴り合いの中で盗聴器が壊れなかったのは幸いだ。


「澁谷! コードを言うからハンターに伝えて! しっかり仕留めてね!」


 スマホを持って指示をしながら、床に倒れた悠馬の覆面を取る。

 見たところ、目立った外傷はなさそう。病院で検査は必要だけど。


 死闘を繰り広げた後にしては、穏やかな寝顔だ。


「お疲れ様。今はゆっくり休んでなさい」


 彼の頭をそっと撫でて、樋口は窓の外を見る。

 クローヴスの死に様を確認しないと。


 本当は、この国にとんでもない兵器を持ち出した大罪人として逮捕して、この国の法で裁きたかっただけど。死んでしまったなら仕方ない。

 彼の甘言に乗せられた政治家たちは、口無しの死人になってくれたことに安堵しているだろうか。


 すぐに、クローヴスの宿泊していた部屋から、彼の通信機器を回収しないと。政治家たちをなんらかの罪に問えるかは別として、今後奴らと交渉をするための武器にはなる。



――――



「こら! 逃げるな!」

「フィアアァ!」


 ライナーの足によって、黒タイツたちは全滅。フィアイーター本体も、魔法少女ひとりに対して思わぬ劣勢に驚いている様子。


 硬さはあるけど、それ以外に強くはない。ライナーはこのフィアイーターの性質を見抜いていた。

 キエラが気合いを入れて作ったのは、カラスとトラックのやつだけ。たぶんこれは、現場で急遽作ったのだろうな。コアを取り出す手間を省くとかの目的で。

 ライナーに何度も蹴られて、自慢の硬いボディもボコボコにへこんでいる。そして一部に裂け目ができてしまっていた。


 そこからコアを見ることができたら、すかさず蹴る。そうなればお終いだとフィアイーターもわかっているから、なんとか逃げ出す機会を伺っていた。


「フィアアアアァァァ!」


 ライナーに背を向け、一目散に逃げようとする。追いかけっ子なら負けないと、ライナーも駆け出した。いいでしょう。簡単に前まで回り込んであげる。

 と思ってたのに。


「フィアッ!?」

「ちょっと! 急に止まらないで!」


 フィアイーターの前に何かが落ちてきて、敵はやむなく急停止した。落ちたのはかなり大きなもので、地面に激突すると同時にバンと大きな音を立てる。

 それがなんなのか、ライナーにはなんとなく察せられた。周りにはガラス片がいくつか落ちていたし。

 故に、あまりそっちの方を見ないようにした。


 とにかく、急停止したフィアイーターの背中にライナーの勢い任せの蹴りが炸裂。ちょうど裂け目に踵が刺さって、金属製の外壁を貫通。

 ついでに言えば、コアに当ったらしい。見えなかったけど。


「フィ……ア……」


 力ない声と共に、フィアイーターの体が消滅。後には、トライデン社製の容器の残骸が残される。

 魔法少女として本気で破壊しようと思えば、壊せたのかな。フィアイーターよりは弱いだろうし。


「それより……さっき落ちてきたのってやっぱり……」


 落下地点を見ないように手のひらで視界を制限しつつ振り返る。血の匂いと、なぜか微かなコーンポタージュの匂い。


 見上げると、悠馬たちがいるはずのホテルの窓が割れていた。

 樋口さんが笑顔で手を振っていた。上機嫌なのは、悠馬がレールガンを撃つためのコードを聞き出せたんだと思う。

 そっちに加勢しに行くべきかな。でもわたし、場所がどこか知らないんだよね。


「樋口さん! 待っててください! よっ!」


 ライナーはホテル内に入って非常階段を全力で駆け上がり、数分で樋口のいる会場までたどり着く。全力を出しすぎて、魔法少女とはいえちょっと疲れたのは内緒だ。

 そして、悠馬たちが思ってたより激闘を繰り広げていたのを知る。


「なんでこっちに来るのかしら……でも、いいところに来たわ」

「悠馬! 大丈夫なの生きてるよね!?」

「気を失っているだけよ」


 床に横にさせられている悠馬を見つけて駆け寄った。


「散々殴られたからね。深刻な怪我はしてないと思うけど」

「そっか。頑張ったんだね」


 やはり殴られて続けたらしい剛先輩が、テーブルにもたれかかりながら教えてくれた。

 こっちも意識はあるものの、足を挫いたとかで立てないのだな。


「ライナー。この前も行った病院まで、悠馬を……って何してるの?」

「キスしたら目覚めるかなと」

「やめなさい」


 正座して、悠馬の頭を膝に乗せる。いわゆる膝枕だ。両足が揃ってる時にしかできない姿勢。

 恋人ならこれくらい、やってもいいよね? さらに身を屈めて、顔と顔を近づけようとした。


 王子様はお姫様のキスで目覚めるものだから。あれ、逆だっけ?


 いい所だったのに、樋口さんに止められてしまった。


「うう……」

「あ。起きた! 悠馬! よく頑張ったね偉い!」


 キスするまでもなく、悠馬の瞼が動くのがわかった。残念だとは思わない。キスとはすわなち、目覚めに必要な愛の力の象徴なわけで。

 わたしの場合はキスするまでもなく愛が伝わったということなのだから。


 うん。そういうことにしておこう。ライナーは心の中で納得して、何度も頷いた。

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