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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第6章 新装備、新フォーム

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6-42.地上四十階

 再度掴みかかろうとする奴の手から逃げながら、俺はテーブル上の物を掴んだ。

 パーティーで供される料理のひとつ。コーンポタージュが入っている容器。浅く広い形で、それなりの量が入って重いそれを。


「これでも喰らえ!」


 クローヴスにぶちまけた。

 料理そっちのけで談笑する客たちのために、いつ飲んでも美味しいように下にヒーターがついて常に熱い温度に維持されているポタージュが、顔面から胸部にかけてかかる。


「ぐぁっ!?」


 熱さと視界を奪われたことに悲鳴をあげながら、クローヴスは後退り、顔からポタージュを拭おうとした。

 俺はそいつに向けて踏み込み、空になった容器で殴りつける。上背があるから顔は狙いにくい。腹、腰、足を狙って振り続ける。


 当たりはしているけれど、奴の筋肉に覆われた体にはそこまでダメージではないのかも。それでも効いていると信じて殴る。実際、痛みは感じているらしく、クローヴスは逃げるように後退した。


 目についたポタージュを拭って、軽く火傷をした瞼を開けたクローヴスは、こちらへの憎しみを込めた視線を向けている。だからなんだ。怒ってるのはこっちも同じだ。

 奴の腹を正面から、踏むように蹴る。直撃。クローヴスは大きく後退して、会場の一面を占めるガラス窓に背中をぶつけた。


「コードを! 教えろ!」


 畳み掛けるように容器を降る。けれどクローヴスはギリギリで避けて、窓ガラスを叩く結果に。

 ピシリと音がして、ガラスに小さなヒビが入った。


 もう一度容器を振り上げて、クローヴスを叩く。奴はなんとかこれを受け止めて掴み返す。重い金属製の鈍器の奪い合いは、腕力に勝るクローヴスの方に部がある。

 だから容器を引っ張ろうとするクローヴスに抵抗せず、逆に踏み込んで奴に体当たりをした。

 クローヴスの体が再度ガラスに叩きつけられる。さらに奴の首に向かって頭突き。クローヴスの首が揺れて、ガラスに当たる。


 もちろん、クローヴスもやられてばかりではない。俺の体を勢いよく押し返した。が、俺も容器を手放す気はなく、全力で踏みとどまる。

 腹と胸に強い衝撃が来て、一瞬意識を手放しかけながら、俺はまたクローヴスをガラスに押し付けた。


 ガラスのヒビが広がる音が聞こえた、気がした。


「離せ! ガキが!」


 クローヴスは再度押し返しながら、俺の額に向けて頭突きをした。上から振り落とされるような一撃に、俺はまた意識が遠のきかけ、なんとか踏みとどまる。けど、腕の力が緩んで容器を手放してしまった。


 大男が鈍器を持つと様になる。俺にむけて容赦なく振られるそれを、なんとか回避。なんだか頭がぼーっとする。それほど、さっきの頭突きが強力だったか。


 クローヴスが続けて振ったものだから、飛びのいて避ける。側面に回りこもうしたけれど、クローヴスはまた容器を振った。

 わずかに残ったポタージュが飛び散る飛沫を見ながら、床にしゃがんだ。横に薙ぐように振られた容器が、ガラス面に直撃。


 何度か衝撃を受けていたガラスが、金属容器とクローヴスの腕力によって、ついに限界を迎えた。

 ガラスが割れる音と共に容器が突き抜け、大きな穴が開いた。 容器とポタージュの飛沫が外に飛び出していった直後、ヒビがガラス全体に広がっていき、床から天井まである窓ガラス一枚が完全に割れて地面まで落ちていく。


 地上四十階建ての建物の、中と外の気圧や温度の差によって、強い風がが外に向けて吹き付けた。


 俺もクローヴスも風に煽られふたり揃ってよろめいた。


 朦朧とする頭でなんとか頭でなんとか踏み留まれた。姿勢が低かったのも幸いした。

 けど、容器を振った勢いのままのクローヴスはバランスを崩し、そのまま転倒しかける。


 まずい。こいつを殺すわけにはいかない。コードを聞き出さないと。


 咄嗟に立ち上がり、クローヴスに手を伸ばす。体は掴めなかったけど、風になびくネクタイは掴めた。


 既にクローヴスの体の重心は建物の外にある。窓の縁になんとか足をつけている状態で、俺にネクタイを掴まれて踏みとどまっている形だ。

 なんとか窓枠に手を伸ばせないかと腕を振り回しているけれど、届きそうにない。足を動かせばすぐにでもバランスを崩して落ちそうな状況。

 彼が助かるには、ネクタイを俺が引っ張るしかない。


 けど、ポタージュが染み込んだネクタイは滑りやすい。俺の手からズルリと抜けそうになって、即座に握りしめた。


「やめろ! その手を! 絶対に離すな! 引っ張りあげろ!」


 無茶を言うな。体中痛くて、力が入らなくて、意識も朦朧としてるのに。お前が殴ってきたせいで。


「コード、コードだ。言え……」

「わ、わかった! 言う! コードは――――」


 駄目だ。クローヴスがせっかく言ってるのに、俺の方が限界だった。よく聞こえない。もう一回、もう一回言ってくれ。


「悠馬! 気をしっかり持て! 君まで落ちてしまう!」


 剛も何か言ってる。よく聞こえない。意識が戻って良かった。足を挫いたのか、動けないようだけど。


 もう限界だ。


 俺はネクタイと共に意識を手放し、地上四十階の外へと倒れ込んでいった。

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