6-40.お揃いのエプロン
「ももちゃんとわたし、お揃いの柄にしたんだもんねー」
「本当は、長谷川くんが好きな感じのおしゃれな柄にしたかったんだけど。なんか他のは、ドラゴンとか迷彩柄とかしかなくて」
「長谷川くんも迷彩柄選んでたよね」
「うん。普段は着ないけど、ああいうの好きなのかな」
「かもね! 今度聞いてみたらいいよ! あ、そろそろ行かないと! また月曜日に!」
「うん! 頑張って!」
窓から飛び出てひらりと屋根に登るハンター。再び大きくなったラフィオに乗りながら、レールガンを持つ。
エプロンの紐を首にかけるように結んで、布部をハンモックみたいにしてレールガンの銃身を乗せる。
腕だけで持って狙いをつけるよりは、こっちの方が楽らしい。
「よし! いける!」
「電源車まで戻るぞ」
「うん! 走って!」
屋根から屋根を跳び移って、目的地まで向かう。途中、電源車に追いついた。
「すいませーん! ここ! 魔法少女と電源車が通ります! ご協力ください! ごめんなさい好きで信号無視してるわけじゃないんです!」
セイバーが交差点に立って、左右から来る車を必死に止めていた。
「あ! ラフィオにハンター! あなたたちも協力して」
「あはは! ラフィオもっと飛ばして!」
「わかった」
「行かないで! わたしの苦労を分かち合ってください! ハンター! ねえってばー!」
「セイバー! 急ぎますよ!」
「わーん!」
車の中の澁谷にも急かされながら、セイバーも走る。そして車を止める。
「大丈夫です! 合流地点までもう少しです!」
「そこまで楽して行けると思ってたのに……うおっと!?」
そんなセイバーの足元に、黒い羽が飛んできた。咄嗟に避けたから怪我はなかったけど。
「フィィィィィアアァァァァァ!!」
頭上に怪物の姿。巨大なカラスが大型トラックを足で掴んで飛んでいるため、下から見ればトラックから羽が生えているように見える。
その周りには四機のドローン。
敵も動くのだから、当初の合流地点と会敵地点が変わることもある。それがここだ。
「麻美さん! こちら、フィアイーターを見つけました! こっちに来てください! あとセイバー! 周りの車を追い払ってください!」
「はいただいま! 皆さん逃げてください! ここは危険ですから! カラスが羽とか飛ばしてきます!」
交差点の真ん中に停まった電源車。フィアイーターの鳴き声は周りの人々にも聞こえたらしい。多くの人が、車の進行方向を変えたり車を乗り捨てたりして逃げていく。
フィアイーターがそれを追いかけて来るなら問題だけど。
「おーい。こっちだよー」
トラックの上に戻ったハンターが、自分の弓を構えてフィアイーターに向けて一発放つ。狙いは正確ながら、ドローンによって矢は弾かれた。
「トラックを貫いて、片方の羽の根本に当てさえすれば撃ち落とせるのにね」
「そうだな。レールガンさえ撃てればな」
「ハンター。発電機のコードを伸ばすからレールガンと繋げられるか見て!」
「ごめんなさいその暇が無さそうです!」
「フィー!」
「フィー!」
澁谷のお願いを聞けないのは、大量の黒タイツが道路の向こうからやってきたから。
トラックのフィアイーターに付随して生まれたものが、飛ぶ主を頑張って追いかけてきたんだろうな。
しかも上空から、カラスが羽を飛ばしてきた。遠くからの攻撃ゆえに、確実にこちらに当たるとも限らないけど。
「そこ!」
こっちにまっすぐ飛んできた羽の一枚を、ハンターが矢を放って落とした。
自分たちだけじゃない。電源車も守らなければならず、発電機とレールガンの接続作業に魔法少女の手を煩わせるわけにはいかない。
「セイバー! 僕と一緒に黒タイツどもを片付けるぞ。ハンターは援護しながら、カラスの羽にも警戒してくれ!」
「えー。ラフィオ行っちゃうの?」
「すぐ戻るから良い子にしてろ!」
「はーい」
電源車の屋根に座ったハンターが、膝でレールガンを抱えながらカラスに矢を放つ。奴の細い羽がドローンの警戒区域から出た瞬間に、当てて軌道を逸す。
羽の方が一度に複数枚の発射ができるか故に、ハンターも全ては落とせない。けれどこっちに被害が出そうなのは的確に射落としていた。
何もない道路や、無人の車の屋根に羽が刺さった。しかし被害者はなし。みんな避難してくれてよかった。
隙を見てトラック本体を狙ったけれど、それはドローンの壁に阻まれた。
上からの攻撃はハンターに任せて、ラフィオは手近な黒タイツに噛み付いて殺す。別の黒タイツが側面から迫って掴みかかってきたが、少年の姿に瞬時に変わることで体を小さくして回避。
「お前らの掴み方は隙だらけだ!」
子供の姿で吠えながら、黒タイツの腹を殴ってバランスを崩させ、その上に乗っかりながら再度巨大化。
急に質量を増したラフィオを黒タイツは支えられず、地面に押し倒されながら頭部をアスファルトに強打。さらにラフィオの前足が頭部を思いっきり殴りつけて、奴の息の根を止めた。
黒タイツの攻撃パターンは、殴るか蹴るか掴みかかるしかない。たまに武器を見つけて持ってることもあるけど、素手で単調な攻撃をするのがほとんどだ。
ほら今も。複数人で一気に体当たりを仕掛けてきた。
「動きが遅い」
普通の人間よりも多少は動けて腕力があるという程度。鍛えた人間なら、黒タイツたちなら普通に勝てる。小さな妖精となって黒タイツの後ろに回って、大きくなって蹴り倒す。
所詮は人間の動きの範疇だ。ついていくのは、ラフィオにとっては容易なこと。
「さすがだねー! いつも、つむぎちゃんとやり合ってるのを考えると、こんなのは遅いくらいよね!」
「そこ! うるさい!」
光る剣で敵を次々に斬り殺しているセイバーに、からかい混じりに声をかけられた。




