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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第6章 新装備、新フォーム

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6-36.鉄の男

 他の客たちは既にほとんどが退避していた。今、ホテルのスタッフがこちらを気にしながら会場を出たところだ。

 謎の覆面男と激高した外国人の言い争いに巻き込まれたくはないよな。剛だけは、どこかに隠れて様子を伺ってるか、仲間と連絡を取り合っているはずだけど。


 みんな退避したとはいえ、クローヴスの怒りはある程度見聞きしたはず。それに狼狽も。

 トライデン社は失敗した。大々的に発表した製品も壊れたか奪われた。その担当者は危機的状況には役に立たず、しかも魔法少女には非協力的。


「お前と、お前の会社の評判はガタ落ちだ。お前自身にも将来はない。だが残った武器が魔法少女の力になったなら、評価は多少は上がる。だから協力しろ」

「断る! 誰が貴様なんかに! こんな小さな国の女どもに協力だと? ふざけるな! こんな国、ぶっ壊れてしまえ!」

「悪いな。壊すつもりはない。教えないなら、力ずくで聞き出す!」

「出来るものならな!」


 臨戦態勢に入った俺に、先に仕掛けてきたのはクローヴスの方だった。

 数歩踏み込み一気に距離を詰めてきながら、拳を繰り出してくる。


 早い。後ろに引いて避けたものの、風圧が覆面越しにもわかる程の威力。


 この巨体は見せかけじゃない。体重も上背も筋力も、俺より圧倒的に上。

 これは苦労するかもな。


「ガキが! 叩き潰してやる! 死ね! 死ね!」


 引いて避け続ける俺に、クローヴスは前に出ながら拳を出すのをやめない。

 自分よりも腕力のある相手に勝つには、懐に入って服を掴むか足を引っ掛けて転ばせるしかない。樋口の教えに忠実に行きたいのに、こいつ隙がない。

 パンチを出す動きが早く、近づけない。


 数歩後退した時、腰に何かが当たった。料理の乗ったテーブルだ。


「やべっ……」


 的確に俺の顔面を捉えていたパンチを、咄嗟にしゃがんで回避。

 次の瞬間、目の前にクローヴスの膝が迫っていた。マジかよ。


 咄嗟に腕で顔を庇ったものの、膝が当たったのは胸。掬うように蹴り上げられた俺はテーブルを巻き込んでひっくり返った。

 なんか体に良さそうなサラダが床に散らばる。農家が心を込めて育て、シェフが腕によりをかけて作っただろうに。もったいない。


「この程度で世界を守ると言っていたのか、ガキが! ふざけるなよ」

「この程度で勝ったと思うなアメリカ人。そのふざけた顔をボコボコにして、写真撮ってネットに上げてやる! 一生ネットの笑い者にしてやる。悪ふざけが好きなネット民がコラ画像を作ってお前の顔で大喜利やる文化が永遠に根付いて――」


 そんな下手な煽りでクローヴスは怒りの形相を深めた。


 俺は奴を睨みながら、その実ひっそりとクローヴスに背後から近づく剛を見守る。気づかれないように、俺は煽り続けていた。

 剛の手にはマイクスタンド。壇上から持ってきたそれをクローヴスに向けて振り上げて。


「こいつ……!」


 直前で悟られた。顔を庇ったクローヴスの腕に細い棒が当たる。少しだけ顔をしかめたクローヴスだが、即座に片手で剛の胸ぐらを掴んだ。


「かはっ!?」


 苦しそうな声が聞こえる。片手だけでも、筋肉質ながら細身の男の首を締め上げるのは余裕か。俺は即座に駆け出して、腰を低くしながらクローヴスに組み付いた。

 高級スーツを掴みながら、片手で拳を作って腹を殴る。が。


「硬ってえ……なんだこれ」

「クソガキどもがぁ!」

「うあっ!?」


 軽々と剛の体を放り投げると、自由になった両腕で俺の肩を叩く。

 俺だって奴の服を掴んでたのに、向こうのほうが腕力が上で。俺はあっさり突き飛ばされた。

 よろめきながら数歩後退する俺にクローヴスの追撃。腹を的確に捉えた膝蹴りで、俺は先に投げられていた剛の隣に倒れ込むことになった。


「マジかよあいつ。黒タイツより余裕で強い」


 起き上がりながら悪態をついた。正直、腹を蹴られて話すのも辛いけど。

 クローヴスは、まだ立ち上がるガキ共に苛ついた表情を見せながら、スーツのジャケットを脱ぎ捨てて本気で戦うポーズを見せた。ネクタイも緩めている。


「大丈夫かい、悠馬。まだ戦える?」


 隣では剛も起き上がっている。


「戦える。剛は?」

「体中痛いけど、戦える」

「やっぱ魔法少女のコスブレしてないと、全力が出せないか?」

「ははっ。かもね。冗談言う余裕があるなら、まだまだいけそうだね」

「ああ。コードを聞き出すぞ」


 魔法少女のために。



――――



 幸いにして、樋口は工具を見つけられたために、トラックとレールガンの分離にセイバーの剣を頼る必要はなくなった。

 バカでかいボルトで固定されたレールガンをなんとか外す。六角レンチを差し込み、体重をかけて緩めていく。


「どんだけ強く締めてるのよこれ! ねえ麻美!」

『なんですか!?』

「レンチとスパナってどう違うの!?」

『基本的には同じものです!』

「なんで呼び方がふたつあるのよ!?」

『説明すると長くなるので、また今度!』


 世間話にも力が入る。公安に入ってこんな仕事をする日が来るとは思ってなかったけれど、会話できる仲間がいるのは心強かった。


 周りが静かなのもあるし。ホテルの客が車に乗って逃げるために、ここに来るというのはあまりなかった。

 パーティーの客は会場からは避難させられたそうだけど、どこにいるのかな。フロントとかの低層階で、なにかあればすぐに外に逃げられる場所だろう。


「樋口さん! レールガンは!?」


 ちょうど切り離しを終えたところに、ラフィオにのったハンターとセイバーが駆けつけてきた。


「これよ。コードは今、悠馬たちが聞いてるわ。クローヴスをボコボコにしてね」

「してるの? あの大男を?」

「できてないわね。激闘よ。あの子たちが勝ってくれると信じましょう。わたしも加勢に行くから」

「あのムカつく男に悠馬がパンチ入れるところ、わたしも見たいわねー。けどフィアイーターと戦わないといけないし」

「そういえば、ライナーはどこ?」

「ここに来る途中、容器のフィアイーターと鉢合わせしたので、相手させてます」

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